第49話 初めてのお客さん
「つながりカレー」がついに開店の日を迎えた。唯は、心を込めて準備を重ねてきたお店を見渡しながら、胸が高鳴るのを感じていた。小さなお店の中には、これまで彼女を支えてきた人たちの思いが詰まっている。そして、その看板メニュー「つながりカレー」には、唯自身の物語がすべて込められていた。
「唯ちゃん、お店がオープンするなんて本当にすごいよ!」とみなみが店内の装飾を手直ししながら言った。
「ありがとう、みなみちゃん。みんなのおかげでここまで来られたよ。今日から新しいスタートだね」と唯は笑顔で応えた。
オープン初日。唯は朝早くからスパイスを調合し、「つながりカレー」を仕込み始めた。鍋から立ち上るスパイスの香りに包まれると、彼女の緊張は少しずつ和らいでいった。
「このカレーが、たくさんの人に届きますように」と心の中で祈りながら、唯は一皿一皿を丁寧に準備した。
開店時間になると、少しずつお客さんが店内に入ってきた。その中には、これまで子ども食堂で唯のカレーを食べてきた子どもたちや、佐倉さん、おばあちゃんの姿もあった。
最初のお客さんは、小さな男の子とその母親だった。男の子はメニューをじっと見つめながら「この『つながりカレー』ってどんな味?」と唯に尋ねた。
唯は少し微笑みながら答えた。「このカレーはね、たくさんのスパイスと、作ってきたみんなの思いが詰まってるんだよ。甘くて、ちょっとだけスパイシーで、とっても優しい味になってるの」
その説明を聞いた男の子は嬉しそうに頷き、「それ、食べてみたい!」と言った。
唯は丁寧に「つながりカレー」を盛り付け、スプーンと一緒に運んだ。「お待たせしました。どうぞ召し上がれ」
男の子はスプーンを手に取り、一口食べると目を輝かせて「おいしい!」と声を上げた。
母親も笑顔を浮かべながら「こんな優しい味のカレー、初めてです。本当においしいわ」と感想を伝えてくれた。
その日、店内には次々とお客さんが訪れ、笑顔が絶えなかった。ある常連の農家の田島さんは「唯ちゃん、このサツマイモ、本当に上手に使ってくれてありがとう。地元の味がこんなふうに生まれ変わるなんて感激だよ」と言い、レンコン農家の夫婦も「これがうちのレンコンを使ったカレーだと思うと誇らしいよ」と喜んでくれた。
みなみは忙しい店内を走り回りながら、「唯ちゃん、このお店、みんなが笑顔になる場所だね!」と言ってくれた。
唯はその言葉に頷きながら、「みなみちゃんやみんなのおかげで、こうしてたくさんの人とつながれる場所ができたんだよ。本当にありがとう」と感謝を伝えた。
夜、閉店後におばあちゃんがそっと唯に声をかけた。
「唯ちゃん、今日のお店、とっても素敵だったわね。あなたのカレーが、たくさんの人の心をつないでいるのを感じたわ」
唯は少し疲れていたが、その言葉に胸が温かくなり、「おばあちゃん、ありがとうございます。これからももっとたくさんの人をつなぐカレーを作り続けます」と誓った。
その夜、唯は布団の中で思った。「このお店が、私のカレーでたくさんの人の居場所になるように。そして、もっともっと笑顔の輪を広げていけるように頑張ろう」
唯の「つながりカレー」は、今日新たな一歩を踏み出した。スパイスの香りとともに広がるつながりの物語。それは、これからもたくさんの人を笑顔にし続けていく。
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