第3話
今晩はスサノオの家に泊まることになった。
食事も作ってもらってしまい、今は完成を待っているところ。
「なるほど……随分と仲良くなったのね」
「意気投合したわけじゃない。文字通り契約しただけの関係だ。ギブアンドテイクとはいかないがな」
やることは変わらない。俺はスサノオに剣を教える。ただそれだけ。上が望んでいるであろうスサノオの捕縛をする気はさらさら無いし、本来の任務を遂行するとしよう。
「ギブアンドテイクって、与える側はアンタよね? スサノオから貰うものはないの?」
「ないだろ。アイツを戦力として見ているわけでもあるまいし」
それに、アイツはこの村から出る気は無さそうだしな。あくまで修行さえできればそれで良いというスタンス。俺としては旅も一つの経験だと思うのだが……それは前世でやりつくしただろう。
「それじゃあちょうど良いわね。こっちだけが多く貰うなんてことにならなそうだし」
「ん? 何かスサノオに頼み事でもするつもりか?」
まあアイツなら、修行の件が無くても頼み事くらい受け入れてくれそうだが。
「アンタ達がお楽しみしてる間に調べて、分かったことがあるわ」
修行をお楽しみと言わないでほしい。そりゃ、捗らなかったのかと聞かれたら嘘になるが。
「この村。オロチ村ね。歴史無いわよ」
……ん?
「ちょっと待った……いまいちピンとこない」
コイツは一体何を言っているのだろうか。歴史が無い? そりゃどういう意味での言葉だよ。
「だから、つい最近生まれた村なの。ポンッてね」
「余計に分からなくなった。えっと……存在しなかった村? 地図に無かった? 情報も? 建国一年目?」
「そう。情報がギルド本部にも殆ど無かったから変だとは思っていたけど、この村のどこを調べても文献の一つも無かった。つい昨日の出来事すら、どこ行っても分からないのよ」
んなアホな。人間は歴史や伝統を気にする生物だ。出来事の記録はいわば習性。この村だけが例外なんてことはありえない。
「だがそれでも、これまで村が存在しなかったという証明にはならない。確かに不思議で奇妙ではあるが、これまでの出来事をさっぱり記録していなかったという方が納得はできる」
「私だってそう思ったわ。だから村人に直接聞いてみたの。どうなったと思う?」
まったく知らない女が村に入り込んで来たので慌てて逃げた。
「機能停止したわ」
「……はぁ?」
分からん分からん本当に分からん。なんだよ機能停止って。機械じゃあるまいし。
「村について聞いたら分からないの一点張り。追及したら一気に暴走し出して……と思ったらピタリと止まってその場に倒れた」
どういうことだ? 普通の人間でそんなことはありえないし……陰陽師として考えるなら、口封じの呪いとか? いや、だとしても奇妙すぎる。可能性の一つとしても、レンの言うような挙動をするとは思えない。
「そういうわけで連れて来ました」
「ちょお!? ここ一応他人の……いえ……おい、コイツ本当に人間か?」
「分かんないから調べてちょうだい」
急に死んだとして、こんなにも綺麗さっぱり未練が無くなるものなのだろうか。残留思念どころか、多少溜まっているはずの異力すら存在しない。
「コイツが死んでから何時間?」
「アンタらずっと修行してたから、四時間くらいかな」
それにしては死斑が無い。顔色もただ寝ているかのように濃い。
これは……嫌な予感がするな。
「今から死体解剖を行う。嫌なら見るな」
「別に、グロいのには慣れてるわよ」
合掌し、服を脱がし、腹を切った。
……その中には、肉だけが詰まっていた。
「……血は?」
「無いな」
「内臓は?」
「無いな」
ああ、間違いない。これは人間ではなく、精巧に模された人形だ。
おそらく、人間として振る舞うように操作されていたのだろう。どうやら、この村では操り人形が量産されているらしい。
「……想像になる」
「どうぞ」
「他の村人が作られて操られているなら、この村は何者かに作られたということになる。そして、村長が人形だった場合。犯人が俺達をここに呼びだしたということになる」
そんで、俺達が村人を破壊してしまった。俺達が犯人の存在に気付いていること、バレちゃったなぁ。
「レイさん、ご飯ができましたよ」
さすがにコレをスサノオに伝えるわけにはいかない。先程レンは何か手伝ってもらおうという風なことを言っていたが……少なくとも、伝えることが時期尚早であるのは確か。
「レン、サンプルがもう一体欲しい。できれば村長」
「了解。スサノオが寝たら外来て」
レンは窓から去って行った。
スポ根系バトルストーリーが始めると思ったが、そう甘くはないか。
「レイさん? いらっしゃらないのですか?」
「ああ、居るよ。すぐ行く」
勇魔伝説〜異種族溢れるこの世界で〜 夜葉 @yoruha-1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇魔伝説〜異種族溢れるこの世界で〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます