第2話
ひとまず村を出て、最近増えている怪物を倒しに行くことにした。
この村は塀で囲まれて出入口が表の門にしかないが、それとは別に裏口があるらしく、俺達はそこから村を出る。
「そういえばスサノオ。お前はその刀一本しか使わないのか?」
「はい。私にはどうやら刀が合っているようなので」
俺が聞きたいのは草薙の剣を使わないのかということだったのだが……あまり踏み込みすぎるのも良くないし、今はこれで良いか。多分そこら辺もレンが調べてくれる。
今回怪物を倒しに行こうと言い出したのは俺からだった。単純に実力を把握しておきたいということもあったが、コイツがスサノオの力を持っているか確かめるにはコレが一番手っ取り早かったのだ。
とはいえ、力を持っていないとすれば、こんなにもあっさりと誘いに乗ってくれないだろう。それなりの実力があるのは間違いない。
「レイさん。依頼を出したのはあくまで村長ですが、私にも引き受けた理由があるんです」
理由? 義理人情でなければ、ギルドに所属するなんて提案に乗る理由がスサノオにはなさそうだが。
「私は、あなたに鍛えてもらいたいのです。村長が私の心情を察していたのかは分かりませんが、ずっと、人間に鍛えてほしいと考えていました」
「そりゃまたどうして。お前の『異力』量なら、俺達人間に頼る必要も無く、世界最強の座を欲しいがままにできるだろう。俺なら、『異種使い』として契約した俺ならよく理解できた」
異力。ヒトが使う霊力や、魔族が使う魔力。それらの総称を異力と呼ぶ。異種使いは文字通り異種族と契約を交わし、サポートしてやる職業。
そんな誰よりも異種族に詳しい職業に就いているから分かる。コイツには本来、異種使いのサポートなんて必要無い。どの種族と比較しても、桁違いの異力量を誇るのだから。
「確かに、私が強いことは間違いありません。この神としての力を使えば、どんな敵にだって遅れを取ることはないでしょう。しかし、それは本当に、私が強いと言えるのでしょうか」
自分が強いことは、自分が強いとは言わない……?
「おっと、怪物が来ましたね」
いけない。つい気になって、一瞬警戒がおろそかになってしまった。
相手はヘビ型の怪物。この村、オロチ村を襲う怪物として、これ以上に相応しいモノはない。
腰に下げた二つの刀に手を置くが、スサノオが制止する。
「まずは私の力を見ていてください」
「……ああ、任せた」
スサノオは柄を握り、抜刀術の構え。
腰を下げ、右足を出し、身体を斜めに。その視線は真っ直ぐ怪物へと向く。
このプレッシャー。
「勝てる奴なんて、居ない」
飛び出した。地面を蹴り、怪物とすれ違う。
通り過ぎ、直立する。
戦闘後だと言うのに刃を拭く必要すらなく、鞘へと納めた。
そして、怪物は上半身を地面に落とす。
「……もう一度聞くぞ。俺に教えを乞う必要がどこにある?」
必要無いだろう。これだけのことができるんだ。怪物の断面だって、ありえないほどに綺麗。
「その異力があれば、技術なんていらないだろう」
確かに、スサノオが察しているように、俺の方が剣士としては上だ。だが、異力量のゴリ押しで技術の底上げができている。
怪物と戦う冒険者に必要なのは、結果を出す能力。それをスサノオは持っているはずだ。
「やはり、あなたは気づいていたんですね。これが異力による結果で、私自身の技量は高くないと」
「技量はある。お前の求めていない、神の力をヒトの身体で操る技術、だがな。それじゃダメなのか?」
「はい。私は現人神として、ずっとその技術を高めてきました。でも……でも! これでは私じゃない!」
……なるほど。コイツは難儀だな。
俺はてっきり、神としての責務を果たす為に何が必要なのかを考える、いわゆる真面目ちゃんかと思っていた。
だが、違った。俺の想像以上に真面目ちゃんすぎた。
神である自分は自分ではないと考え、気にしてしまうような、思春期の真面目ちゃんらしい悩みだ。
「お願いします! どうか私に、人間としての生き方を教えてください!」
どうやらコイツは、既に限界を迎えていたらしい。
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