勇魔伝説〜異種族溢れるこの世界で〜
夜葉
第1話
村長宅の客室で待たされている間、俺は資料を読み直していた。
「なあサキュバス秘書よ」
横で立ったままのピンク髪を引っ張ると、俺の手を払うように頭を振る。
「サキュバスやめろ。普通にレンって呼びなさいな、ザコザコ陰陽師」
「これ資料多すぎないか? 確認しとくべき事柄が分からん。あとザコはやめろ。レイと呼べ」
いくら依頼対象が世界的ネームバリューだとしても、全て確認が無謀と言えるほどの量になるとは想定していなかった。並べたかったのに場所が足らんかったぞ。
「資料が多いとしても、そのほとんどが似たような内容だったじゃない。それを馬鹿真面目に全部確認してるアンタがおかしいのよ」
そんなこと言ったって、中には他に記述されていない情報が載っているかもしれないんだ。一つの情報が結果を左右することだってある。面倒でもおろそかにするわけにはいかない。しかもそれが、憧れの神である『スサノオ』についてだというなら尚更だ。
今回の依頼主はオロチ村の村長だった。なにやら、『スサノオが居るからギルドの方で鍛えてやってほしい』とのこと。
正直、俺達がスサノオに教えられることなんて何もない。というかむしろ俺達を鍛えてほしい。とか思った。
それでも依頼を引き受けた理由は、憧れの神と同じ部隊で戦えるチャンスだったから。
「というか、今回はそんなに資料見る必要は無いと思うわよ? だってスサノオといえば、『勇魔伝説』じゃない」
勇魔伝説。勇者と魔王が戦ったという、おとぎ話のような昔話。
「あの長編絵本一冊あれば、スサノオの半生は分かる。描かれていること以外に必要な情報があるとも思えないし」
「いやいや、勇者と出会う以前にも何か成し遂げていたかもしれないし、相手を知りたいというのに、勇者との旅についての一つだけを気にするのは不誠実だ」
「なるほど、分かったわ。アンタが女心をさっぱり分かってないってことが分かったわ。あと創作のキャラに不誠実って言うのは面白いわね」
面白いどころか、こっちは大真面目だったんだがな。そしてキャラと言うのはやめていただきたい。もしかしたら本物かもしれないじゃん。
……まあ、偽物の可能性が高いというのは理解している。俺達はもしかしたらというバカみたいな願望にすがってここに来ているだけだ。
今回の依頼、表向きには『スサノオを仲間にすること』。だとされている。だが、上層部は『虚偽の報告をした者とスサノオ騙る者を捕獲』という表には決して出せないような仕事を任せてきやがった。アイツら、俺達を諜報部隊か何かだと勘違いしてるだろ。
「……ねぇレイ。この件、本物だとしたらどうなると思う?」
「期待してるのか? さっき言い草的に、偽物だと割り切っているように見えたが」
「割り切ったとしても、期待してないわけじゃない。その時になったら切り替えるし、今は良いでしょ」
……コイツはこういうところだな。
こういうところが、俺達が苦楽を共にする理由の一つと言える。理想を語る胆力。理想主義は、このギルド冒険者という立場の人間には必要なことだ。
「そうだな……まず、ギルドにも多い『先祖返り』。それなら同じ力を持っていてもおかしくはない。一番ありえなさそうと思っちゃうのは、本物がここまでずっと生きながらえていた可能性。神様なんだから、それくらいの寿命はあるはずだが、俺達人間からするとイメージしずらい。そして俺が今回ありえそうだと思っているのは――」
「生まれ変わり、ですか?」
扉が開かれ、先に答えを言われてしまった。
「……それは、認めるということで良いのか? スサノオ」
スサノオであろう彼女の見た目は、俺と同じヒトの形をしていた。高身長で黒髪、俺と同じような袴を着ている。
「はい。わざわざ隠す必要もありませんからね。……ところで二人居たはずでは?」
ああ、レンは出て行ってしまったか。どうやらしばらく、スサノオには顔を見せないつもりらしい。なに、人見知りのコミュ障というわけではない……いやちょいちょいおかしなことを言うのでコミュ力には難アリと言わざるえないが……それでも自立した奴だ。勝手に動けるし、気にしなくても良い。
アイツの職業はスパイ。主に隠密行動や暗躍を得意とする。今回も隠れて調査をするつもりなのだろう。
「いんや一人だった。さて、自己紹介と行こうか。俺はレイ。ギルド指定精鋭部隊の陰陽師だ」
「これはご丁寧に。私は神スサノオの生まれ変わりで、現在は現人神……のような立場のスサノオです。よろしくお願いします」
なるほど。神の名をそのまま使っているのか。人間としての名を使っても良いと思うが、どうやらスサノオという人物は相当真面目みたいだ。
手を差し出され、俺も握手に応じる。そして、スサノオとの契約が完了した。
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