【映画】堕ちる/「薬指の標本」
原作は、これまた大学生のときに惚れこんだ、同名の一作。そして、人生初の小川洋子作品だったと思う。以降、今に至るまで、氏の作品群は、私の本棚で増殖を続けている。冊数だけだと、島本理生作品より持っているかもしれない。
小川洋子といえば、有名なのは「博士の愛した数式」だろうが、個人的には、あれはホワイト・小川洋子作品だと思っている。そして私は、のみならず、氏の本領はブラック・小川洋子作品において発揮されると感じている。
今回は、そんな中からフランスで映画化された、氏の初期作品、「薬指の標本」を取り上げたい。
※概要
原作:小川洋子
公開:フランス(2005)日本(2006)
主演:オルガ・キュリレンコ、他
※ストーリー
サイダー工場で指の先を失ったわたしは、職を求めて「標本室」にたどり着く。
キノコ、音楽、愛鳥の骨、頬の火傷。そこは人々が思い出の品物を預け、その後二度と訪れることはない。
ある日、わたしは所長である標本技術師から、靴をプレゼントされる。
「毎日その靴を履いてほしい。とにかくずっとだ。いいね」
その靴は、あまりにもわたしにぴったりで・・・・・・。
※感想
後だしじゃんけんだが、これは邦画で再現するのはちょっと違うと思う。ようは、このフランスでの実写版の完成度が、相当高かった。
恋愛をモチーフにしているのだろうが、とにかく耽美に堕ちていく。標本を閉じ込める営みの中で、「わたし」は試験管の中で徐々に羽を畳んでいく蝶のように、確実に「靴」に蝕まれていく。
逃げ場はない。そもそも、誰も逃げ場を望んでいないからだ。
得意な分野ではないのでよく分からないが、エロティックかつフェチシズムの描写も濃密で、ときには官能的な雰囲気を強く漂わせている。
正直、私は官能小説が存在する意味は性的興奮を駆り立てるため、くらいにしか思っていなかった。しかし、柄にもなく調べ物をしたり、本作を観た後は、また違った感想を持つようになった(先日読了した、村山由佳氏の『まつらひ』の影響も大きい)。
重要なのは、(それが「結果」であるならば)「セックス」という結果よりも、そこに至る、あるいはそこに付随する過程や、心理的プロセスなのではないかという気がする。そうだとすると、この「薬指の標本」のラストは、ある意味究極の関係に落ち着くということになる。身体がうんぬんという域を軽々と凌駕しているからだ。
これはおそらく、誰にも真似できない。
ちなみに、「官能小説でお勧めを」と訊いた後輩の女の子からは、「江國香織の『冷静と情熱のあいだ』」を強く勧められた。
どこまでの程度かは分からないが、最近は官能小説界隈でも、若手女性作家の活躍が目覚ましいらしい。
究極の
恋は盲目とはよく言うが、もう少しはっきり言おう。恋は、墜落だ(そういえば、「整形美人」などで有名な作家・姫野カオルコ氏が、「ツイラク、」という作品を発表していた。確か、恋愛小説だった。未読だが、いつかは目を通したい)。
「じゃあもう、君の薬指は、元に戻らないんだね」
(「薬指の標本」小川洋子)
そう。戻ることはないのだ。
そういう意味では、恋愛とは、今までの自分を殺すことと同義なのかもしれない。
最後に、小川洋子作品でこの作品に加えて他二冊、キリよく三冊をお勧めしておきたい。
・「寡黙な死骸・みだらな弔い」中公文庫
・「沈黙博物館」ちくま文庫
氏の作品は、手持ちのものは何度も読み返しているが、この三冊は特に思い出深いものである。
※現段階で、継続的に本エッセイを読んでくださっている葵様・柊様・神霊刃様に、この場を借りて感謝申し上げます。
いつぞや書きましたが、このエッセイを書いているときは基本不調なので、読んでいただけて励みになっています。
にしなが読んだ本。 西奈 りゆ @mizukase_riyu
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