異世界RTAお兄ちゃん-かわいい弟のためになるはやで魔王倒します-

こしこん

異世界RTAお兄ちゃん-かわいい弟のためになるはやで魔王倒します-

「ようこそ!異世界の勇者よ!」


 気がつくと俺は目の前にでかい城が見える庭園の前にいた。


 そして目の前にはなんか神々しい女神が。


 俺、峰岸拓哉みねぎしたくやはさっきまで午後の体育の授業をサボって教室で昼寝していた。


 なのにこんなところにいるとなれば理由は2つ。


 一つは俺の夢、もう一つは漫画や小説によくあるクラス転移。


 …いや俺しかいねぇ!?


 教室にいたの俺だけだったからか!?クソッ!ダルいからってサボるんじゃなかったぜ。


「あなたには異世界の勇者として魔王を…」


 女神が何か言ってるけど今はそれどころじゃない。


 異世界転移?よりにもよって今日?


 まずい…!あまりにもまずい!!


 何故ならば今日は…




 俺のかわいいかわいい自慢の弟!マイスイートエンジェル峰岸拾夢みねぎしひろむと一緒にゲームで遊ぶ約束をしているからだ!!


 拾夢は俺の5つ下の弟でとても優しくて純真な子だ。


 そしてかわいい。


 家に帰れば拾夢が待っている。それだけを生き甲斐に日々を送ってると言っても過言じゃない。


 そんな拾夢との約束だ。当然俺にとっても最優先事項。


 それを破るなど万死に値する。


 もしここの時間が俺の世界と同じかそれよりも早く流れているのなら、こんなところで油を売ってる暇はねぇ!!


「さっさとスキルを寄越せ!」


 俺がそう言うと女神は俺の前に水晶玉を差し出した。


「あなたのスキルはレ」

「ステータスオープン!!」

「それまだ説明してませんよ!?」


 レベルテイマー。


 それが俺のスキルらしい。


「相手から経験値を奪うスキルか。それ以外にも経験値を別の力に変換して…」

「あのー」


 女神が話しかけてくる。


 このスキルが俺の想定通りに動くなら、うまくいけば数時間で魔王とやらを倒して帰れるかもしれねぇ!


 こういうのなんていうんだったかな?えーっと…あぁっ!そうそう!!


 Real Time Attack RTAだ!!


「まずは女神ぃっ!!お前からだ!」

「はっ?えぇっ!?」


 女神の肩に手を置いてその体から経験値を奪い取る。


 やはり女神だけあってかなり貯め込んでるらしい。


(レベルアップ。これ以上は強くなれません)


「100が限度か。溢れた分はどうやって…おっ、そうだ」


 思い出したのはさっき見たスキルツリー。


「あった!レベルチェンジャー!」


 レベルチェンジャー。


 経験値とレベルを他のものに変換するスキル。


 俺が数時間で拾夢のもとに帰れると確信したスキルの一つだ。


「これでこいつを…できた!レベルウィング!」


 経験値を羽に変換。


 そのまま飛び上がって城を後にする。…とでも思っていたのかぁ?


「今のレベルなら全スキルが使える!レベルドレイン!!王国のみんなーー!!俺に経験値をよこせぇーー!!」


 王国上空に飛翔して発動させたのはレベルドレイン。


 自分よりもレベルの低い相手からレベルを奪い取るスキルだ。


 当然最大レベルの俺に敵う奴がこの王国にいるわけがなく、王国中の経験値が一手に貯まっていく。


「こいつは魔弾に変換。核としてはこんなもんでいいか」


 魔王打倒の糸口を掴んだ俺は魔弾を自分の中にしまって首にかけていたものを取り出す。


 肌見放さずつけているロケットだ。


 中身は今から2年前、家族で舞浜ネズミ園に行った時の家族写真から拾夢だけを切り取った写真。


「待ってろよ。拾夢」


 オスネズミーの耳飾りをつけ、天使のような笑顔を向ける拾夢の写真に軽く口づけしてロケットをしまい、目当てのものを探す。


 ここがもしクラス転移ものの世界ならこの付近に…


「みーっけ」


 レベルがカンストして超人レベルに上がった俺の目が捉えたのは街道を逸れた獣道を走る馬車とそれを追う馬を駆る男達。


 恐らく盗賊。そしてあの馬車に乗ってるのが…


「ヒロイン、ってわけか」


 ここでやんごとなき身分のヒロインを助けて異世界を旅する足がかりを得て美人で可愛い女の子と旅をするのがテンプレ。


 だが!今回はそんな事してる暇はねぇ!!


 人が増えればその分他人のペースに付き合わされて移動効率が落ちる.


  意思疎通やら情報共有やらで無駄な時間を取らされる。


 何より!ヒロインなしで魔王を倒す算段は整っている!!


 未来でできるかもしれない美人の彼女より今差し迫ったかわいい弟との約束だ!!


「よっしゃあっ!!」


 空を駆け、一分と経たずに現場に到着。


「なんだて…」

「イヤーーー!!!」

「グワーー!!」

「アバーー!!」


 こんなモブに割く戦闘シーンすら惜しい!!


 盗賊をぶちのめしたところで銀髪美女が馬車から出てきた。


「何処の何方か存じませんが、助けていただきありが…」

「有り金全部置いてきなぁっっ!!」

「こっちも盗賊でしたわぁーっ!?」


 よっし人助け完了!路銀ゲット!!


 このまま魔王をぶちのめしに行ってもいいが、やはり行動には余裕と豊かさを持たせたい。


 というわけでやってきましたでけぇ街!名前は知らん!!


「んー!うめぇ!!」


 その足でうまそうな食い物を片っ端から買って貪り、拾夢のお土産になりそうな物を買い漁る。


 拾夢はぬいぐるみとか模型とか好きだからそれっぽいのとうまそうなお菓子を適当に。


 あん?そんなもん買ってどこにしまうのかって?


「レベルチェンジャー」


 レベルチェンジャーで物を経験値に変換できんだよぉ!


 それを服とかに付与すれば重さを感じずに持ち運べるし、いつでも元の形に戻せる。


 おかげで手ぶらで歩けるのがありがてぇ。


「さぁーって。飯も食ったし土産も買った。いよいよ魔王様をおぶっ飛ばして差し上げますわよ」


 ヒロインの口調が移っちまった。


「けど、あの竜巻が厄介だよなぁ…」


 街からでも見える魔王城があるという島を包む暗黒の竜巻。


 あれがあるせいで海路でも近づけないんだろうな。


「こういうのはそれを無効化するアイテムなりを手に入れて攻め込むのがセオリーなんだよなぁ。でも、そんなもん探してる暇ねぇしどうしたもんか…」


 今考えてるプランはレベルチェンジャーの羽で竜巻の真上まで飛んでそこから魔王城に侵攻するって手段だ。


 だが、これじゃ経験値と時間を使いすぎる。


 魔王がどれほど強いか分からない以上できるだけ最大火力を叩き込みたい。


 敵が油断する初撃で全部終わらせなきゃ長引くかもしれねぇからな。


「もうちょい街やら国やら回って経験値回収してぇけど、時間的に厳しいよなぁ。せめて経験値使わねぇ足があれば…」


 どうやって時間短縮するかを考えていると、血相を変えて走ってきた男が目に入った。


 男を気遣って町民が集まってくる。


「おいあんた!何があったんだ!?」

「今すぐ、逃げろ…。この街に…ドラゴンが、来る!!」


 …あったじゃん!足!!


 サンキュー!序盤の山場!ドラゴン討伐イベント!!




「はいよぉシルバー!!風のように飛べぇっ!!」

【グオオオオオオオンッッ!!】


 ドラゴンと交流し無二の友になった俺は鱗が所々欠けて頬が腫れ上がり、牙が数本折れた巨大なドラゴンに乗って世界を飛び回る。


「そぉらレベルドレイン!こりゃ効率いいぜ!!」


 異世界中を飛び回り、その間に通りかかった人間や魔物から経験値を吸い上げてさっきの魔弾に纏わせていく。


 一回りする頃には純然たる経験値の塊と化した魔弾が手元にあった。


「これで駄目なら腹括るっきゃねぇよなぁ」

【グルルゥッ】

「お疲れちゃん。御駄賃やるよ。レベルフォーユー」


 レベルフォーユーは自分が持つ経験値を相手に流し込むスキル。


 俺が持ってた経験値を得たドラゴンの傷はみるみるうちに癒えていき、爪も牙も鋭くなって更に巨大化した。


「よしっ!最後のおつかいだ!あの竜巻の真上まで行ってくれ」

【グォウッ】


 翼をはためかせ、ドラゴンは空を駆ける。


 その速度はさっき飛び回ったそれの比ではなく、瞬く間に魔王城の上空、竜巻の真上へと到達した。


「あちゃー。これなら最初に分けてやりゃよかったぜ」


 でも、味方になったのはボコ…真摯に心を通わせてからだから裏切るリスクを考えたらあながち間違いじゃなかった、のか?


「ありがとよっ!もう行っていいぞ!!」

【オゥンッ!】


 ドラゴンから降りて魔王城の真上に立つ。


 経験値が足りなかった時はどうやって短時間で魔王城を攻略するかを考えていたが、もうその必要はない。


「城ごとぶっ飛ばせばいいんだからよぉっ!!」


 今の俺にはその手段が、この世界を駆け回って奪…託されてきた経験値で作った経験値玉がある。


「食らえ魔王!!これが、俺がこの世界で繋いできた…絆の力だぁーーーーーっっっ!!!」


 主人公っぽいこと言うの憧れてたのよねぇ。


 憧れを叶えた感慨に浸っている間にも魔弾はその力を解き放ち、まるで太陽のような巨大な球体へと膨張する。


 魔王城の十倍は優にあろうかという魔弾は竜巻を霞のように散らしながら少しずつ魔王城に迫り…俺が三回瞬きした頃には魔王城は島諸共消え失せていた。


「よくもやってくれましたね。異世界の勇者よ…!」


 甲高い声に振り返るとそこにはついさっき会った女神によく似た小さな女の子が。


「お嬢ちゃん。ここは危ないから遊んじゃダメだよ」

「あなたにレベルを奪われた女神です!」

「おぉっ。道理で似てると思った」


 女神はこほんと咳払いして続ける。


「あなたのおかげで魔王は倒れました。ですが、今の私ではあなたを送還させるほどの力が…」

「レベルフォーユー」

「だから最後まで話を…!っ!?戻った?」

「これなら問題ねぇだろ。さっさと帰してくれ」

「はっ、はいっ。願わくば、もう二度と会わないことを願っています」


 それはこっちの台詞だクソ女神!てめぇの世界のケツくらいてめぇで拭きやがれ!


 そう言いたい気持ちはあったものの、チートなスキルと拾夢へのお土産がタダで手に入った恩に免じて許してやることにした。




「ただいまっ!!」


 レベルを上げて強くなった体でちょっぱやで帰宅する。


 気がつくと俺は教室にいてみんなはもう帰った後だった。


 時間は4時半頃。


 俺が昼寝してたのが2時くらいだったから大体2時間くらい経過していたことが窺える。


「おかえり!お兄ちゃん!」


 俺に気づいた拾夢が子犬のように玄関まで駆けてくる。


 ブンブンと揺れる尻尾の幻覚まで見える。


「わりぃ!遅れちまった!」

「…?早いくらいだよ?あっ!そうそう!聞いて聞いて!今日授業で習ったんだけど、地球って動いてるんだって!でも僕達は動かないんだよ!不思議だよねぇ」

「拾夢は賢いなぁ」

「えへへっ」


 はいかわいい。


 この笑顔一つで異世界でのあれやこれやの苦労が吹っ飛んだ気分だ。


「さぁーって、早速やるかぁ!拾夢は何がしたい?」

「えーっとぉ…」


 拾夢とゲームで遊ぶべく部屋に向かおうとする俺。


 だが、そんな俺の肩が抉れるんじゃないかってくらいの力で掴まれる。


「いでででででっ!?か、母ちゃん!?」

「さっき学校から連絡があったんだけど、あんた…午後の授業全部サボったんですって?」


 し、しまったぁーーーっっ!!


「ち、違うんだよ母ちゃん!それは止むにやまれぬ事情があったっていうか、ちょっと連れ出されてたっていうか…」

「へぇ?どこに?」

「…い、異世界?」


 肩に指がめり込み、恐ろしい力でリビングに連れ込まれそうになる。


「あだだだだっっ!!待って!リアクション!せめてなんか言っだだだだぁっ!!」

「拾夢。ゲームは父さんとやろうな」

「えっ?う、うん…」

「いやぁーーっっ!!助けてマイエンジェルぅーー!!」


 拾夢に助けを求めたものの甲斐はなく、その日は夜が暮れるまで両親から説教され、飯まで抜かれるという地獄のお仕置きで幕を閉じた。





「畜生ーー!覚えとけクソ女神ぃーーっっ!!」


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