帝国の皇子である『アレストル』と聖女の『ヒロム』は公務として孤児院に訪れる。子どもたちと戯れるヒロムをアレストルは木陰からそっと見守る。皇子はその後、偶然にも生まれてしまった時間を活用して聖女様を食事に誘うのだが……。
自身の置かれた状況や身分。言われようがないのに埋めようがないものに対しての諦めと反抗。相反する二つの感情を優しく包みこむのは想い人の存在。
貴方から直接何かを受けようだなんて思っちゃいない。ただ、回りへ無造作に振りまかれる貴方の表情、仕草が少しでも自分へ向けられたものであると実感したい。
それは傲慢な願いなのかもしれない。
皇子らしからぬ気持ちかもしれない。
葛藤から生まれるこの想いはまさしく恋なのだろう。
一人称視点で綴られるのは砕けた彼の心の声。彼の心を揺らすのは、聖女様の可愛らしさと自分にはない柔らかな発想。内側のじめっとした湿度と外側のからっとした湿度。そこに並々ならぬ想いを感じるのです。
そして、やってくる貯めに貯めた聖女様の一人称の解放。
問答の熱に浮かされたまま、彼らのやりとりを楽しむことが出来ました。
押し殺した気持ちは思い出とともにどこへ行くのか。
是非、素直になれない皇子と可愛らしい聖女様をお楽しみください。
素晴らしい作品をありがとうございました。