第4話 サークル

「藤堂君、気になるサークルは見つかった?」


 一通りサークル棟を案内された俺だったが、どのサークルに入るかは既に決めていた。


「そうですね。PCサークルなんて面白そうだと思いましたよ」


 そう、俺の記憶では、このPCサークルというのが数年後に『産学共同プロジェクト』という政府肝入りのIT技術発展の為の補助金を受けて、何やらすごいシステムを構築する筈なのだ。


 当時の俺は興味が無かったせいで、一体何の役に立つ技術なのかは分からなかったが、学生主導で作った会社が2024年には巨大ベンチャーとして成功していた記憶がある。


 今の内に俺もそこに参画しておけば、前世の様な薄給でヘトヘトになるまで働かなくてはならない苦しい生活になる事は回避できるのではと考えていたのだ。


「へぇ〜、藤堂君って筋肉質な体つきしてるから、何かスポーツとかやるのかと思ってたけど、まさかの文化系とはね」


「ええ、スポーツはサークルじゃなくても出来ますし、将来に役立つスキルを身に着けたいですからね」


「そうなんだね。藤堂君って、あんまり女の子と遊んだりしない系なのかな?」


「何です? その『女の子と遊んだりしない系』ってのは」


「アハハ、何って、そのまんまだよ。大学のサークルなんて、男女がふしだらに遊びたいって理由で入る子が多いからね。……でも、藤堂君って何だか落ち着いてるし、大人っぽい雰囲気あるし、もしかして既に彼女がいるとか?」


(まったく、女子大生ってのは……)


「そんなのいませんよ。ただ、大学は将来の自分の為に学ぶ場所ですから、遊んでばかりいても、学費を無駄にするだけじゃないですか」


 俺はそう答えて肩をすくめながら苦笑した。


 前回の人生で、妹の加代子を大学に進学させてやれなかった俺自身の不甲斐なさを思うと、色恋沙汰ばかりに気を取られるなんてのは愚かな事の様にも思えた。

 そもそも、この先の日本は凋落の一途を辿る事を俺はのだ。


 いや、もちろん今回の人生では結婚したいとは思っているが、社会人になってから彼女を作っても遅くはない。


 人並に異性には興味があるし、セックスだってしてみたい。


 だけど、それは人生が安定していればこそ楽しめる事だという事を、俺は痛感してきた。


 だから、まだ日本に活気がある2015年から2019年のうちに、出来る限りの事をするんだ。


 今選ぶべきは「今後衰退する日本で生き抜く為の力が身に付くサークル」だ。


 その点、PCサークルは2024年には巨大ベンチャーとして活躍している事を、俺は訳で。


「ふうん。やっぱ、大人って感じだね」

 香苗かなえは何故か嬉しそうにそう言うと、「じゃあ、PCサークルがある部屋に戻ろうよ」

 と、俺の手を引く様にして前を歩き出したのだった。


 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


「PCサークルへようこそ!」


 部屋に入ると、中には3人の男子学生が6人掛けのテーブルを囲む様に座っており、俺達の顔を見てそう声を上げた。


「改めまして、藤堂と申します。こちらのサークルに加入させて頂ければと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します」


 俺がそう挨拶すると、3人はあたふたとテーブルの上を片付け、棚から紙コップと紅茶パックを取り出すと、電気ポットでお湯を注いで俺の前に置いてくれた。


「じゃ、あとは宜しくお願いしますね」

 香苗はサークルのメンバーに俺を託す様にそう言いながら、こっそりと俺の手に紙切れを握らせると、「困った事があったら、ココに連絡してね」

 と小声で言って部屋を出て行った。


 香苗に握らされた紙切れを開いてみると、香苗のフルネームとLINEのアドレスが書かれていた。


(……どんな意図があるのか分からないけど、せっかくだし、後で友達申請しておくか)


 そんな事を思いながら、サークルのメンバーに促されるままに席に着き、勧められるままに紅茶を啜った。


「藤堂君って、なんか落ち着いてるよね。もしかして留年組ですか?」

 正面に座っていたサークルのリーダーらしき男がそう訊いてきた。

 俺は首を横に振り、

「一応、現役合格しました」

 と言っておいた。


「へぇ、大人びて見えたから、俺はてっきり……、いや、そんな事より、とりあえず自己紹介だよな」

 その男はそう言って立ち上がり、「俺はこのサークルの創立者で、山田といいます。1年留年してて、今は2年生だけど、一応20歳です」

 と続けた。それに呼応するかの様に、隣の席の学生が順番に自己紹介を始める。


「僕は田中です。経済学部の2年で、今年で19歳になります。WEBサイトとかを作るのが趣味です」


 田中は少し小太りの男で、直毛の髪はあまり手入れしていないのか、少しボサボサになっていて、前髪で目元が隠れそうになっている。


「僕は佐藤といいます。田中とは高校からの友達で、同じく2年です。プログラミングが趣味で、ゲームを作ったりしているよ」


 そう言う佐藤は田中とは逆に細身の男で、レンズが少し曇った銀縁眼鏡をかけており、猫背な姿勢のせいか、オタク気質なのが立ち姿からも分かる。


 俺は改めて立ち上がると、

「初めまして。先ほど自己紹介させて頂きましたが、僕は藤堂といいます。これまでエクセルやワード、パワポなんかは触ってきましたが、プログラミングについてはズブの素人なんで、色々教えてもらえると嬉しいです」

 と言って軽く会釈をして見せた。


「へぇ、パワポが使えるなら資料作成なんかは任せられそうだね」

 と山田が言いながら俺に席に着く様にと身振りで促してきた。

 俺は促されるままに席に着くと、

「そうですね。あと、エクセルは普通に見積書とかデータ管理とかで使う関数程度なら大丈夫ですよ」

 と付け足しておいた。


「おお、かなり意識高い系って感じがするね。藤堂君みたいなタイプは、就職なんかでも有利になるのかも知れないね」


「ええ、まぁ……、いいところに就職する為のスキルは身に付けておこうと思いまして」


「いいじゃんいいじゃん。いい心がけだよ」

 と山田は嬉しそうに言うと、「もしかしたら、これで役者が揃ったのかも知れないな」

 と続け、自前のマグカップに残った紅茶を飲み干した。


「俺達のサークルは、これから来るだろう大容量通信時代に向けて、色々な可能性をプログラミングで叶えていく事を目的にしていて、もし可能なら俺達で起業したいとも思っているんだ」


「へぇ、すごいですね。山田さんは、今後の日本社会がどうなるかを、既に見据えてらっしゃるんですね」


「もちろんだよ。俺は成人してて選挙権もあるし、政治のニュースなんかもけっこう見てるからね」


「素晴らしいと思います。本当に……」


 俺は山田の話に心底感心した。


 前世の俺が20歳の時、そんな事は考えていなかった。


 両親が事故で無くなり、無力な自分を思い知り、地べたを這いずる様な気持ちで生きる事になった記憶しかない。


 しかしこの時代に、この若さで、既にそこまで考えている者が、確かに居たのだ。


「僕はまだ18歳ですが、国際政治にはとても興味があって、政治や経済については色々見る様にしています。機会があれば、色々お話させて頂ければ嬉しいです」


 俺がそう言うと、山田は目を輝かせて身を乗り出す様にして立ち上がり、

「君とはウマが合いそうな気がするよ!」

 と言って笑った。


(……ああ、本当に。デキる奴ってのは、居るところには居るもんなんだな)


 俺は心の中でそんな事を思い、この人生こそは幸せになれる様にと願っていたのだった……

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ミラージュシティ おひとりキャラバン隊 @gakushi1076

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