さらば親愛なる者達よ そして 初めまして新たな世界とこの羽よ

ノマテラ鉢巻石火ハッサム2世

第1話 羽の生えた丸い体

末期癌

その言葉に耳を塞ぎたくなる人がいるだろう

かく言う俺もその言葉を前に耳を塞ぎたいがそうすることは出来なかった

何てったって耳を塞ぐ体力すらないのだから


病室内には両親とドクターとナースさんが悲しそうな顔でこちらを見ていた

俺はレベル4の末期癌を患っていた

俺はこの病院に入院して早20年、昔から体が弱くよく病室に送られていた。

病室から見る景色は20年も経てば変わっているもので、ナースさんが変わっていたり中庭に生えていた小さかった木も一回り大きくなったように見えていた。

末期癌が発症していたのは5年前

だいぶ前のことでこれなら早めに手を打つことは出来ただろうと思うかもしれないが

俺の体はそれを許してくれなかった

ドクター曰く、俺にオペをしたら体を開く工程でおそらく死ぬだろうと言われた。

だが不思議と俺はそれが悔しくなかった

母は自分を呪った

強い体にしてあげられなくて

父は自分を怒った

もっと一緒にいてあげる事ができなくて

俺はそんな親の行動に涙を流した

死ぬ恐怖でもなく何も出来なかった親への怒りでも無い。むしろその逆で、ここまで自分に愛を与えてくれた両親の優しさに俺は涙を流していた。

今もまだ自分の目からは涙が流れている

ドクターは何かこちらに話しているようだが何を言っているか聞き取れない

ナースさんが自分の手を握る

視界がぼやけてよく見えないけど、おそらくこのナースさんは俺が入院して11年前に入って来たナースさんだ。

手に温かい感触が残る

そろそろ手を掴むのもままならなくなってきた

自分の手がナースさんの手から抜け落ちるのを感じる

そろそろおやすみの時間がやって来る

俺は最後の気力を振り絞りぎこちない笑みを作った


『ありがとう。』


おそらくこの言葉はみんなの耳に届いてはいない

出来れば最後くらいちゃんと感謝が出来たらよかったなと思った

そろそろ目を開けるのも限界だ

瞼は強制的に閉じていき視界は暗闇に包まれていった

何も見えない何も感じない

ただ感じられるのはどんどん小さくなっていく自分の心臓だけだ

心臓の音は聞こえなくなるまで鳴り続けてとうとう音は消えてしまった

さようなら

次があるかはわからないが今度生まれるならもっと沢山遊びたかった

届かぬ願いを最後に自分の体は冷たくなっていった






「––––––––––––––!」


「––––てください!」


「おきてください!」


聞こえるはずのない人の声が聞こえる


「ぅ、んあぁぁ。悪い、すっかり寝てたわ。」

「んもぅ、しっかりしてよリーダーなんだから。」


まるで日常会話のような話がハッキリと聞こえる


「お、やっと起きたか寝坊助リーダーよ。みんなお前を待ってるぞ。」

「悪い、すぐに準備する。」


夢のようにも思えたがこれは違う、確かにそこに人がいる。

おかしな事が起き戸惑っていた最中に不意に体の違和感に気が付いた


(それにしても体の怠さを感じない)


癌の時に感じていた体の怠さや重さがまるで感じない

それどころか体が軽い

まるで体が入れ替わったようだ

何が行われているかを確認するため恐る恐る目を開けた

そこにはテント中から見える若緑色の草木が風に揺れ何処までも続く晴天がそこにあった

今まで初めて見る光景に驚き戸惑っていると、


「ああぁぁぁ!?ねぇねぇクランク!!召喚したモンスターが目を覚ましたよ!!」

「何!?それは本当か!?」


と、誰かに見つかってしまった。

慌てて立とうとしたが、立つ事が出来なかった。と言うか、立てなかった。

手足が圧倒的に短くなっている

そしてもう一つ体の形と感覚が変だ

お尻辺りと肩辺りから変な感覚と体全大が丸くなっている


「何やだこの子可愛い!!」


いつのまにか背後から手が回され自分が抱き抱えられるのを感じた

体を何とか回し抱いてきた相手を見てみると

そこには褐色肌の頬に赤い線のメイクがされた白い髪の動物のような耳が生えた女の子がいた





(は?え、え!?な、何が起きてんの!?)


今目の前にある光景、それは少なくとも病室から見た事のない光景が広がっていた


「お!とうとう目を覚ましたな、おはよう居眠りさん。」


白と金の鎧を着た金髪の短い髪の男がこちらを覗き込んできた


(え!?一体だれ!?)


この場には両親もドクターもナースさんもいない、それどころさっきまでいた病室の光景はなく草木が生い茂っている草原にいた。


「まさかこのタイミングで目を覚ますとはな。よし、メーリン!今日は祝いだ!なんか特別に作ってくれ!」


遠くの方から『わかった。なんかいい事でもあったのかい?』と返事が返ってきて、そのまま鎧の男は何処かへ行ってしまった。


「それにしても、この子なんて名前にしようかな!!かっこいい名前もいいし可愛い名前もいいかも!?」


褐色肌の女の子は俺の名前について考えている様だ

その際抱きしめの力が少しづつ強くなっていきやがて


(イテテテ‼︎‼︎‼︎‼︎イテテテ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎イテェェェェェェェェェェェェェ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎)


とんでもない力で締められ俺はじだばたし出した


「…て、あぁあ!?ご、ごめん。力強く締めすぎちゃった…」


そして俺は褐色肌の女の子の腕から解放された

その時俺は、体をじだばたさせる工程から何とか体感を安定する事が出来た。


(あ、危ねぇ〜。なんとかなった)


女の子の腕から離れ体を落ち着かせていると、どんどん自分の高度が下がっていき、地面に這いつくばる体勢になった。


(???????。)


もう一度体をじだばたさせるとどんどん高度が上がっていく


「あははは!面白いね!君!何度も地面にひれ伏したと思ったらまた飛んで。」


そこでやっと気付いた自分の体の形が完全に変わっていることに


(………俺の背中に羽が生えて…いる…?)


そう自分の背中には二対の羽が生えていた

その羽は子供の頃に見た恐竜図鑑に載っている、プテラノドンの羽と似ていた。


「よいしょっと。」


再び自分は褐色肌の女の子に捕まってしまった


「とりあえず皆んなの所に行くよ」


そう言った後俺は女の子に抱き抱えられたまま、何処かへ連れ去られていった。

連れてかれる道中、少し大きめの池があり水面を覗くとそこには、

羽と尻尾のようなものが2本生えていて、とても細い長い手足をもった丸い体をした赤い目の一つ目の生物と、先ほどの褐色肌の動物の耳が生えた白い髪女の子が写っていた。

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