第13話
『現在、当パーク内は多数のロボットが制御を失って
原因不明の暴走を行っており、大変危険な状況です。
来場いただいたみなさまの安全を確保する為、
これより当パークスタッフが避難誘導を執り行います。
来場客のみなさまは誘導するスタッフの指示に従い、
どうか冷静に避難を行うようお願い申し上げます。
……繰り返します。現在、当パーク内は多数の――』
翼竜騎乗体験コーナーでの事故の後。
休憩していると、突然そんなアナウンスが聞こえ始めた。
しかし、ふむ。ロボットの暴走か。
さっきの翼竜ロボットの件がどうも気になっていたが、
あれの直後に今度は多数のロボットが暴走を始めるとはな。
時間から考えて二つの件には間違いなく繋がりがあるな。
つまり――これは人為的な出来事、という事だ。
一体何処の誰がこの事件を起こしたのだろうか。
俺は二つの件を企てた犯人についての考察を始めた――
「なっ、なに!? なにが起こってるの!?」
――だが。ギャル子の慌てふためく声で思考が遮られる。
彼女は現在の状況がまだ呑み込めていないのか、
繰り返し放送されるアナウンスに驚き、混乱していた。
目元を見ると、涙の跡さえ見え隠れしている。
……はぁ。少しは落ち着いて行動できないものか。
まったく、仕方がない奴だな。世話が焼ける。
溜息を吐き、俺は放送に怯えるギャル子へ声を掛けた。
「……ギャル子。放送はちゃんと聞いておけ。
ここのロボット達が暴走してるんだとさ」
「え、えぇええええ!? ロボットが暴走!?
なんで!? どうしてそんな事が起こるの!?」
耳元で出される大音量。顔を顰める。
こいつ……怯えてる癖に元気よすぎるだろ。
いや、元気がないよりはいいんだろうけどさ。
加減ってもんを少しは考えろ、マジで。
「俺が原因を知ってる訳ないだろう。落ち着け。
それといい加減に声を抑えろ。うるさいぞ」
「りゅうちゃんが冷静すぎるんだよー!?
とっても大変な事になってるのに、
どうしてそんなに落ち着いてられるの!?」
「どうしてって言われてもな。そりゃあ……」
問われて、少しだけ理由を考えてみる。
だが――その答えはすぐに見つかった。
「……ロボットくらいどうにでも出来るからな。
ちょっと暴走してる程度なら慌てる必要がない」
「そ、そうなの? りゅうちゃんなんとか出来るの?」
「あぁ。数がいても問題なく対処できるだろうよ」
ダンジョンに潜り出してから俺の戦闘能力は上がった。
技術についても、潜る前と比べれば雲泥の差がある。
今ならたかだかちょっと硬いだけの敵に負ける事はない。
俺が断言すれば、ギャル子は安心したようだった。
「そ、そうなんだ。ふぅ。――さっすがりゅうちゃん!
相変わらずすーっごく頼りになるね! さっすがあ!」
「……うざ。肘で突いてくるんじゃない、肘で」
……なんとかなると分かって安心したのは分かる。
分かるが、速攻で調子に乗り始めるのはどうなんだ?
せめて肘で突いてくるのをやめろ。マジでうざい。
「……ギャル子。お喋りはここまでらしい。
俺の後ろに下がってろ。前に出るんじゃないぞ」
「え? 急に変な方向向いてどうしたの?
そっちの方には確か、何もなかったはず――」
ある一点を見つめながら、俺はギャル子に警告する。
すると彼女も首を傾げつつ同じ方向を見て――固まった。
当然だ。そちらにはロボットの大群がいたのだから。
大量のロボットが暴走状態でこちらへ向かってくる。
十や百どころではない。下手をすれば千を超えている。
まともにぶつかれば一般人はまず無事では済まないな。
「え、えぇええええ!? 一杯いるーーーー!?」
「あれが暴走したロボット、って事なんだろうな。
一体何処にあれだけの数をしまっていたんだか」
「の、呑気に観察してる場合じゃないって!?
りゅ、りゅうちゃん――来るよ、来ちゃうよっ!?」
「はっ。言ったろギャル子。このくらい問題ないって」
普段使っている木刀がないから、戦い辛くはある。
だがその程度の事が一体何のハンデになるというのか。
武器がないなら素手で戦ってしまえばいい。
例え威力が出ずともこの程度の相手、それで十分だ。
「――ぶっ壊れてろ。鉄くずども!」
――吹き荒れる暴風のように、その拳は岩肌を穿つ。
――ハリケーン・ラッシュ・ラッシュ・ラッシュ!
一発、二発、三発。十発、百発、千発。そして一万。
叩き付けた拳が迫り来るロボットを無慈悲に破壊する。
そしてもはや打った数を数え切れなくなった頃。
俺の前に立っているロボットは一切いなくなっていた。
「わ、わー! 凄い。ロボットぜんぶ壊しちゃった」
「ふん。まあこの程度の数なら軽いもんだ」
最近はスライム平原に出るスライムの数と質も上がってるしな。
戦闘能力で言うなら、こっちよりもあっちの方がずっと高い。
「放送だと、確か避難誘導をしてるって言ってたろ?
念の為、俺達も今からそっちに合流しよう。
問題はないが、人は多いに越した事はないからな」
「う、うん。分かった。りゅうちゃんがそう言うなら」
パーク内を走っていると、俺達は避難客の一団を見つけた。
周囲ではスタッフが駆け回りながら彼らの誘導を行っている。
「あっ、りゅうちゃん! 避難してる人達が!」
「あぁ。これで無事に合流する事ができるな。
問題も……見た限り特に起こってないようだ」
喜ぶギャル子と対照的に、俺は息を吐き安堵した。
実は、あれからも結構な頻度で俺達はロボットに襲われている。
回数にして大体5分に一回くらいのペースだっただろうか。
ホッと一息をつく暇もないくらい、執拗に何度も何度もだ。
倒す事自体は簡単だ。なにせ戦闘能力は変わらないから。
しかし今の俺には、ギャル子という守るべき対象がいた。
彼女を守りながら戦うのはとんでもなく神経を擦り減らす行為だった。正面の敵に集中して戦わなければならないのに、彼女にも意識を向けていなければ他のロボットに襲われそうになった時、間に割って入る事ができない。
ともすればダンジョンで敵に囲まれた時よりもずっと集中力を必要とした。
他の避難客を見つけてより安堵したのは多分俺の方だろう。
これでこいつを守りながら戦う必要はなくなる。本当によかった、と。
「慌てないで! 落ち着いて行動してください!
避難誘導に従えば問題なく避難できますからね!」
「……んん? あれはもしかして、開園の時の?」
スタッフの指示に従い、落ち着いて安全な場所へ向かう一団。
その先頭で、何故かスタッフに見えない少女が指揮を執っていた。
誰だろうと考え――すぐ挨拶を行っていた少女だと気付いた。
何故指揮を、と一瞬思ったが。彼女は恐らく幹部の身内。
それに加え普段からパークの何処かで働いているのだろう。
指示を受けるスタッフからは、彼女への信頼が感じ取れる。
有事の際の指揮となると、平時の際とは何もかもが異なってくる。
恐らく近場のスタッフの中で一番信頼があるのが彼女だったのだ。
それならば彼女が現在指揮を執っている事にも納得ができる。
「開園の時? えぇっと……あぁ。あの時の。
りゅうちゃんがジッと見てた女の子だよね?」
「そう言われると俺、変態みたいだな」
「変態じゃん! 女の子をジッと見るなんて!?
それも特に話した事もないような女の子をっ!」
「……ギャル子、落ち着け。声が響いてるぞ」
変態とか叫ばれていると俺の社会的な信用が死ぬんだが。
幸い一団とはまだ距離があるから聞こえてないだろうが。
「ひとまずあの一団に合流すれば外に出られる。
その後の事は……まあ、外に出た後に考えるか」
「ちょっとりゅうちゃんっ! 聞いてるの!?」
「聞いてる聞いてる。ちゃんと聞いてるって。
……はぁ。こんな状況でもまるで危機感がない」
とりあえずはギャル子をなんとか落ち着かせるか。
……じゃないと今後の話をする事もできやしない。
面倒な、と感じて溜息を吐いた――その時だった。
「キャーーーーーッ!?!?!?」
甲高く悲鳴が鳴り響いた。女性のものだ。
悲鳴の方向に目を向ければ避難客にロボットが迫っている。
相変わらず暴走しているようで、彼らの元へと一直線だ。
怯えた様子で悲鳴を上げ、散り散りに逃げ始める客達。
「大丈夫! みなさん、大丈夫ですから――きゃっ!」
先程の少女が必死に落ち着かせようとしているが、効果はない。
そして彼女はあるものにぶつかり――その場に転んでしまった。
「い、いたたっ。な、なにがぶつかって……?」
顔を上げた少女の前には――巨大なロボットの姿が。
恐ろしく見える表情で、彼女の事を見下ろしている。
「ユタラプトル? どうしてここに……?」
『――――――――――――――――――』
彼女の疑問の声にそのロボットが応える事はなく。
そしてロボットは少女を踏み潰すべく足を上げた。
「ひっ!?」
恐怖から、少女は咄嗟に目を瞑った。
あと少しで惨劇が生まれる事だろう。
――まあ、もし俺がいなければの話だが。
「おっ――らぁッ!!!」
無防備なロボットの横面に、渾身の蹴りを喰らわせる。
衝撃を受けたロボットは派手に地面に叩き付けられた。
「ふぅ……」
着地した俺は、呼吸を整える為に一度深呼吸した。
救助を間に合わせる為に結構な距離を走ったのだ。
流石の俺でも、ほんの少しだけ呼吸が乱れている。
……というか俺、今日は人を助けてばかりじゃないか?
そういう日なのか? 人助けDAYとかそんな感じの。
「大丈夫か、あんた。怪我はないか?」
「は、はい。あ、あなたは……?」
「なに。ただの通りすがりの通行人Aだよ。
少し待ってろ。他のも纏めて片付けてくる」
「まっ、待ってください! あれらはそう簡単には――!」
「あの程度なら問題ない。まあ見てろって」
彼女にそう告げ、俺は他のロボットの駆除へと向かう。
後ろから何か言っていたが、特に気にしたりはしない。
結構な数が方々に散らばってるな……ちょっと面倒だ。
現代社会で俺だけがダンジョンに潜れた場合 オール=ゼロ @raining000
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