序章2:13年前

進む。薄暗い草が進路を阻む。ほんの少しでも日の光を取り込むためなのだろうが、先端に伸びるにつれて鋭利になっている。かき分ける度に手がひりりとする。でも、この先に行きたい。この体が求める場所、微かに光る場所に向かう。

だんだん、暗い場所に慣れた目がつぅーとしみてくる。

すると眼前には、光緑いっぱいの草原と、取り囲むような連なる木々、清水に満ちた池が現れた。池の中央には、天蓋の抜かれた空から太陽がキラキラと池を照らしている。風景の美しさに目を奪われ、無心でそよ風を味わう。

喉がカラカラだ。ここまで休憩なしで走ってきたからだろう。

池に向かおう。あの池の水はきっとおいしいはずだ。

……足が止まる。

誰かが寝そべっている。

この心地よい空間に目もくれず、

微動だにせず、

水面に浸かっている。

声をかけようとしたとき、森林の中から、獣が出てきた。白銀の毛、一対の牙、少し長い鼻、一般の大人の身長をはるかに超えるも、重々しい音を立てず、コトコトと軽い音で水面にいる人に近づく。こちらには気づかず、獣は、水面に漂う存在に甲斐甲斐しく触れていた。今度こそ、声をかけようと思って声をかけると、獣は少し驚いたようにこちらに振り向いた。

水面の太陽が、岸辺に隠れていく。

 突然、体がズンと重くなった。背中に大きな塊が押しかかったようで、上体を起こせない。

瞼も重い。

息もできない。

―――ッッ!?!?!?

体の中に何か流れ込んでくる。強引に大量の水を飲まされている感じ。

苦しい。

苦しい。

苦しい。

絶え間ない負荷から、体が拒絶反応を起こし、流れ込むモノを逆流させようとしている。

吐きたい。

吐きたい。

だが、それすら許さず、流れてくる。

……気づけば、太陽は森林に半分さえぎられ始めていた。

半開きの口からよだれが垂れている。体にかかる重さは消えているものの、内部から感じる違和感をぬぐい切れない。

多量のエネルギーで脳が眩暈を起こしていた。

周りの木々はぼやけていて、自分でも何を見ているのかわからなかった。

ひどい脱力感で、体は溶けるように眠りについた。

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十三番目の剣聖 @Si-com

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