第16話 事故星男(その2)

 麻美さんと結婚した私は、若松での新しい暮らしのため、若松の波打町にアパートを借りた。

 私はそこから歩いて実家の写真館に通い、麻美さんは本町にある「若松商店連絡会」にバスで通うことになった。

 麻美さんは、若松の商店会の会計業務をすることになったのである。これは、古い町のつながりで得た仕事であった。

 

 若松の銀座商店街は、ほとんどの店のシャッターが下りた、シャッター街になっている。何とかこれを再び活気のある街にしたいと思っているのは、私達だけではなさそうだった。

 

 若松で一番大きかった日立系の工場は、今では外資系の会社の工場になっている。

 

 その工場の昔の従業員は、

「あの人が会社に入って、会社を継いでくれていたら、こんな事にはならなかったかもしれない」

 と言っている。

 若松でよく話題に上る、若松東高の先輩である、イニシャルが「M.K」で表されるその人の消息は、おじいちゃんが言うように、まったくもって不明である。


 私と麻美さんが福岡市を離れる時には、みんなが麻美さんの祖父母の家に集まって送別会をしてくれた。

 

 焼き鳥屋のおじさんは、「鳥皮のぐるぐる」と「豚バラのねぎま」と「砂ずり」をたくさん焼いて来てくれた。

 麻美さんのおじいちゃんは、「砂ずり」に舌鼓を打っていた。


 「福岡毎日日新聞」のデスクは、

「スクープ写真が撮れたら、真っ先にウチにデータを送ってくれ」

 と言ったが、私は、

「もう、そんな写真を撮ることはありません」

 と言った。

 

 親友の西田君は、奥さんや一歳になったばかりのお嬢ちゃんと一緒に来てくれた。 

 西田君の小さなお嬢ちゃんは、「イノシシ」の小さなぬいぐるみがえらくお気に入りで、片時もそれを離そうとしなかった。


 別れがたい人たちばかりだったが、若松は福岡市から電車でも車でも1時間もあれば行けるところなので、私と麻美さんは、

「また、お会いしましょう」

 と言って、その場を後にした。


 麻美さんは新しい命を宿したが、私たちの周りでは一年以上事故が起こっていないので、私の事故星はかなりはがれ落ちているようである。



 

 これはフィクションであり、実在する個人や団体とはいっさい関係ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

事故星女(ハッピーエンド編) マッシー @masayasu-kawahara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ