第12話 鉄壁と新スキル
必要量の輝石を採掘し終え、三人で開拓村に戻る事となった。
「開拓村で役に立ちそうな魔道具を領主様に買って貰おうと思ってね。それなりの魔道具を持参してきているんだ」
マオはそう言いながら二人と一緒に歩いている。本当はハッシュの言葉を確かめる為にではあるが、実際に魔道具は幾つか持って来ていた。
そんなマオを見ながらセイナが問う。
「どんな魔道具があるんですか?」
セイナの問いかけに良くぞ聞いてくれたという感じの笑みを浮かべてマオの説明が始まった。
「フフフ、その質問を待っていたよ、セイナさん! 私が作った魔道具の数々を紹介しようじゃないか!!」
その言葉を聞いてセイナだけでなくマモルもヤッてしまったという顔をしたが時すでに遅し……
マオが嬉々として魔道具を一つ取り出しては説明を始めるのだった……
マモルもセイナもマオが魔王だとはまだ知らないが、今代の魔王は魔道具オタクのようである。
「とまあ、この十二種類を領主様にお見せして、気に入った物があったならばお買い上げいただこうかと思ってるんだ」
説明の途中からくだけた口調になってきたマオだが、マモルもセイナも気にしていない。
「はあ、そうなんですね。でも中の三つぐらいはマイナちゃんも欲しいって言うと思いますよ」
「あら? マモル兄さん、三つじゃなくて五つはあるわよ。あのドライヤーみたいな魔道具は必須だし、湯沸かし器みたいなのも必須だわ。ねえ、マオさん。湯沸かし器みたいなのは大きな湯船にお湯を貯めて、それでいて配管からもお湯を出せるぐらいの能力はあるの?」
セイナの女性目線の言葉にマモルは反省してるようだ。一方、問われたマオは
「勿論だ、セイナさん。魔族領ではこれを利用して各家庭や共同施設に湯を引いているからな。私が聞いた村の規模ならば今回持ってきてる湯の魔道具のサイズで十分だと思う。が、もしも領主様が村の規模を大きくされるならば能力の高い湯の魔道具も直ぐに魔族領から持って来れるぞ」
セイナの問いにそう答えていた。
「それにしても温風の魔道具の事をドライヤーと言ったか? 何故かその名の方がシックリと来るな。それに湯の魔道具は湯沸かし器か…… 実際に水を取り込み火の魔力で温めているから、今後はそちらの名前を採用させて貰おう。構わないか?」
「ええ、勿論よマオさん。それにマモル兄さんが言ってた三つの魔道具だけど、円盤みたいな刃のついた木をきる道具は丸ノコ、木に穴を開ける道具はハンドドリル、細かな加工を出来そうな先端に砥石とかを付けるのはミニルーターっていう名前はどうかしら?」
セイナが日本での似た道具の名前を次々に言うとマオは感心したようにそれは良いなと言って今後はその名前にすると言う。
横で二人の会話を聞きながら『セイナが考えた名前じゃないんだからドヤ顔は止めなさい』と内心で思っていたとか……
「それで、二人は領主様を名前でお呼びしてるみたいだけど、どんな関係なのか教えてくれないか? いや、無理に聞くつもりは無いけど差し障りが無いならば教えてくれたらと思うんだが」
マオからの質問に別に隠してる訳ではないからと気軽に答えるマモル。
「一応ですけど護衛って事になります。名前呼びしてるのはマイナちゃんからどうしてもって言われたからです」
あっさりとそう言うマモルにマオは内心で『こんなに簡単に情報を漏らして大丈夫か?』とは思ったがそれは口に出さずに、
「そうか、ドガルオムを倒せるほどの腕前ならば領主様も頼りにしてくれるだろうね」
そう言って二人の実力を褒めた。そこで気がついたようにセイナが
「マモル兄さん、ステータスの確認しなきゃ!」
そう言って自分のステータスを確認しだす。言われたマモルも自分のステータスを確認する。二人ともマオがいるけどお構い無しだ。
「やったー! レベルアップしてる!」
「僕もしてるよ!」
セイナは四級から三級に。マモルは三級から二級にレベルアップしたようだ。そして二人とも新しいスキルが増えた。しかしこの場ではその事を互いに言わないでおこうと目で合図をしていた。まるで熟年夫婦のようだ。
「おお! おめでとう! ドガルオムを倒したからだな。良かったら今度はもう少し奥まで行ってみないか? 輝石もあの場所よりも大きなサイズの物が採れるし、私が同行すれば魔獣も倒せるよ」
マオの申し出にマモルは
「もう少し開拓が進んだらお願いするかも知れません。その時はよろしくお願いします」
マオに丁寧に頭を下げて頼んだ。今回手に入れた輝石でも魔力を込めればおよそ三ヶ月は鉄壁を保たせる事が出来る。
現在、マモルの鉄壁は魔力100を使用して五日保たせる事が出来るのだが、それが上限である。採掘した輝石にはおよそ2,000の魔力が込められるというので三ヶ月強は保たせる事が出来るのだ。
一ヶ月〜二ヶ月に一度魔力を補充すれば永遠に保たせる事も可能だが、大きな輝石があればその回数を減らせるだろう。
頭の中でそんな計算を素早くしながらマモルは新たに得たスキル【ネットワーク巡回】に思いをめぐらせた。
いったいどんなスキルなんだろうか? 「地球でのネットサーフィンならば分かるけれども、この世界にネットなんて無いしな?」そう思いながらも早く領主館に戻って検証したいと思っているマモルである。
そしてセイナも新たに得たスキル【料理(極)】に思いをはせていた。ついついニヤニヤしてしまうセイナ。「これでマモル兄さんも私の料理にメロメロになるわ!」そう思いながら、ベータから購入した【セウユ】と【テマエミソ】を使っての料理を頭の中で考案するのだった。
マオはそんな二人を見ながらこの二人が味方で良かったと考えていた。魔族領を統べるマオは争い事は嫌いである。だが自領を理由なく攻めてくるのであれば民を守るために戦わなくてはならない。けれども召喚された勇者たちはこれまでに残された文献を見る限りとても強大で、果たしてマオだけで守れるのかという不安があった。
文献によればいつも辛うじて魔族領を守ってきた歴代の魔王の苦悩も書かれていたからだ。
いくらマオがこの世界では最高の魔力を誇る身であったとしても、勇者たちの力はそれを凌駕するほどなのだ。
だが、ハッシュから聞く限りこの二人は魔族領の者たちを同じ人として見てくれている。それに他の勇者たちが攻めてきた時にマイナ王女と共に、魔族領の防波堤になってくれようともしている。それは村人たちも同様だとベータから聞いていた。
マオはそんな開拓村に先ずは行き、その村の開拓がより良く、より早く進むように魔道具の提供を惜しまない事をマイナに伝えるつもりで、そのついでに魔道具の動力源となる輝石も多く採掘して手渡そうと洞窟に行っていたのだった。
それぞれが思考しながら歩いていると村の入口が見えてきた。マオは驚く。
「おっ!? おおーっ!! 何だ、只の木の柵のはずなのにこのとても大きな力は!? 真竜のブレスすら簡単に防げるレベルなのか!?」
さすがは当代随一の魔力の持ち主である。直ぐにマモルの鉄壁の効果を見破ったようだ。
「えっと…… そんなに凄いですか? いまいち僕にはその効果のほどが分からなくて」
マモルが控えめにそう聞くとマオは
「凄いなんて物じゃないぞ!! この柵だけでどんな高レベルの者が攻撃しようとも破れるものじゃないっ!! 私も噂でしか知らぬがこの世界に二人だけ居るというレベル【名人】でも破れないと思う……」
そうマモルに伝えたのだった。
マモルはそれを聞いてホッとする。名人でも破れないならあの訓練なんて真面目にしそうにないクラスメートたちに破れたりはしないだろうと。
それでも油断は禁物だと自分を直ぐに戒めたが。
ちなみにだがセイナの攻撃にもビクともしないのは確認済みである。守護者であるマモルの対象である攻破者であるセイナの攻撃を防げるのならば大丈夫だろうとセイナも考えていたが、マオからの言葉で少し安心したようだ。
「おお! おかえりなさい、マモルさん、セイナさん、領主様がお待ちしてますよ!! えっと、そちらの方は?」
門番をしていた村人がマモルとセイナを見て笑顔になり、マオを見て戸惑う。
「ただいまです、ナハリムさん。こちらの方はマオさんといって魔族領で魔道具の研究開発販売をされてる方です。マイナ様に魔道具を売り込みに来られたんです。そして、洞窟で僕たちに助言をくれた方でもあります」
「おおっ!! 魔道具ですか! それは凄い! 領主様も喜ばれるでしょう! どうぞお入り下さい。案内はマモル様たちにお願いしても良いでしょうか?」
「はい。僕とセイナでご案内します。それじゃマオさん、行きましょう」
「それでは、お邪魔するとしよう。ナハリム殿、失礼するよ」
「はい、ようこそ開拓村へ!!」
こうして魔王とは知らないままにマモルとセイナはマオを連れてマイナの待つ領主館まで戻るのだった。
自宅警備員だった僕の最強スキルは守護に徹していた! しょうわな人 @Chou03
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