第11話 魔王と勇者

 ハッシュが魔族領に一足先に戻り翌朝にカラムとベータも戻っていった。


 その後、二週間が経ち村に共同風呂とトイレが完成した。

 そして、マモルがレベル三級となり、セイナがレベル四級となったので森の中の洞窟に輝石を採りに向かう事になった。


「マモル様、セイナ姉さま、お気をつけて」


「マイナちゃん、お土産は期待しないでね。僕は危ないと思ったら直ぐに撤退するから……」


「もう! マモル兄さん、行く前からそんなに弱気な事を言わないで。私がバッタバッタと魔獣を倒すから!」 


 そんな二人を心配そうに見送るマイナだが、ミアーナだけは違った。


「マモル様、セイナ様、お二人だけだからとハッスルしてはいけませんよ?」


「しっ!? しないよ、ミアーナ!」

「えっ!? しないの? マモル兄さん!」


「セイナまでっ! もう行くよ!」

「冗談よ、マモル兄さん! 待ってよ〜」


 こうしてバタバタ騒がしくしながらも二人は輝石を取りに森の中にある洞窟へと出かけた。


 森の中では何故か動物たちは見られたが魔獣に会う事は無かった。動物たちもマモルやセイナを見ると逃げ出して行く。そこら辺は日本と同じようだ。熊に似た動物までもが逃げ出したのには心底ホッとしたマモルであった。 


「良かった…… 魔獣に出会わなくて」

「そう? 私は何だか拍子抜けだわ。自分がどれ程の力をつけたのか知りたかったのだけど」


 セイナはそう言うが、実は魔獣たちはマモルたちの気配を察知して巧妙に姿を隠していたのだ。アレに手を出すと死ぬと感じて。

 既にマモルもセイナもこの森に住む魔獣たちでは相手にならないどころか、存在そのものが恐怖を覚えさせるレベルにまでなっていたのだ。


「そんな事を言って。セイナが怪我したら嫌だから出てこない方が良いじゃないか」

 

 マモルのその言葉にセイナは嬉しそうに微笑む。


「心配してくれて有難う、マモル兄さん。でも鉄壁をかけてくれるでしょう? なら怪我することなんて絶対に無いよ」


 そうして話しながら歩くこと一時間で洞窟へとたどり着いたようだ。


「ここだな」

「ここだね」


 洞窟は入口からキラキラと光る輝石が見えていた。けれども入口付近の輝石は小さく、また差し込む陽の光によって輝いているので、さほど魔力を込める事は出来ないらしい。


 マモルが欲しいのはせめて一週間〜十日ぐらい分ぐらいは魔力を貯める事が出来る輝石である。

 そのレベルの輝石は洞窟を二キロほど進んだ場所にあるそうだ。

 これは魔族領でこの洞窟にたまに輝石を採掘している者から聞いた話らしいので間違いは無いらしい。

 ちなみにこの洞窟はエドガルム王国、魔族領のどちらにも属していないので、マモルたちが中に入って輝石を採掘しても魔族領から文句が出ることは無い。


 二人で中を進みながら暫く歩くと前方に人の気配があった。警戒しつつ進むマモルとセイナ。


「うん? 誰かな? この洞窟に採掘に来れるなんて高レベルなんだね。ああ、私は魔族領の住人でマオという者だよ。ここには勿論だけど輝石を採掘に来たんだ」


 マモルとセイナを見ても穏やかにそう言うマオという男性。その男性の雰囲気に大丈夫そうだと少し警戒レベルを下げた二人。


「僕たちはマモルとセイナといいます。僕たちも輝石を採掘にこの洞窟に来たんです」


 ここは男の僕がしっかりしなくてはと内心でビビリながらもマモルが答える。


「おう! あなた達が! カラムから聞きましたよ。開拓村で活躍してる方たちですね。あ、カラムとは取引があってですね、その際に珍しい話なども聞くものですから。って言ってる事が支離滅裂ですね。私は趣味で輝石を利用して魔道具を作ってまして、それをカラムに買って貰っているのです。それで在庫の輝石が少なくなってきたので採掘に来たというわけなんですよ」


 そう言うこのマオと名乗る男性は実は魔族領を束ねる王、魔王その人である。ただ趣味で魔道具を作っているのも、それをカラムに売っているのも本当の話なので嘘は言ってない。

 しかし今回はハッシュから聞いた開拓村の話を確かめに単独で行動していて、手土産に輝石でも持って行こうと考えてこの洞窟に来ていたのだった。


 それと、ハッシュに勝ったというマモルとセイナにも興味があったので、ここで出会えて良かったと内心で思っていた。話を聞いてハッシュからは一言も勇者という言葉は出なかったが、魔王は二人は召喚された勇者なのだろうと見当をつけている。


「そうなんですね。マオさんはこの洞窟の中をよくご存知なんですか? 僕たち少し大きめの輝石を採掘したいんですけど、このぐらいのサイズの輝石はどれぐらい奥にあるのか教えて貰えませんか?」


 輝石は財産にもなりうる物である為に教えて貰えないかもと思ったが、目の前のマオという人ならば教えてくれるかもと期待して手でゴルフボールほどの大きさを表しながらマモルは質問をしてみた。


「随分と大きめの輝石が必要なんだね。そのサイズだとまだ奥に行かないと採れないね。ここから五百メートルは奥になるね。でも奥の方にはそれなりに強い魔獣【ドガルオム】という蛇がいるよ。レベルが初段ぐらい無いと倒せないよ」


 マオは質問に素直に答えてくれた。


「マオさんはそんな奥まで行った事があるんですか?」


「ああ、僕は趣味にのめり込む方だから、必要だと思ったらレベルを上げるようにしてたからね。今の僕のレベルはドガルオムぐらいなら倒せるよ。一緒に行こうか?」


 そうマオが申し出てくれたが、マモルもセイナも自分たちの力を測りたいし、レベルアップもしたいので


「いえ、僕たち二人で行ってみます。教えてくれて有難うございます」


 そう断りを入れてから奥へと進んでいった。その後をマオは隠蔽魔法を使ってついて行く。魔王であるマオのレベルは七段である。この洞窟に出る魔獣は難なく倒せる。


 勇者二人の実力を見たいのもあり、コソッとついて行く事にしたようだ。


 マモルとセイナは警戒しながら奥へと歩を進めて行く。慎重に歩いているので五百メートル進むのにも時間がかかる。このぐらい奥にある輝石はその名の通り自らが光を放つので洞窟内は明るい。


 そうして慎重に進み、遂に目的の大きさの輝石がある場所にたどり着いたマモルとセイナ。


「この場所の輝石なら一ヶ月は持つかな?」


「マイナから聞いてたサイズよりも少し大きいぐらいだからもっと持つかもしれないわよ、マモル兄さん」


「そうか、それじゃこの場所の輝石を予備を含めて三十個、採掘しよう」


「うん!」


 二人は腰に吊るしていた小さな、けれども頑丈そうな小桑を手に採掘を始めた。採掘を始めた二人を遠目に眺めるマオの目に、ひっそりと二人を狙うドガルオムが見えた。


『う〜ん…… 二人とも採掘に夢中で気がついてないようだが…… だがハッシュの話だと攻撃が届かなかったと聞いている。このまま様子を見てみよう……』


 マオはそう考えて黙って見守る事にした。そして、ドガルオムがマモルをターゲットにして襲いかかる。セイナが気づいたが間に合う距離ではない。

 大口を開けて迫るドガルオムを見たセイナは


「マモル兄さん!! 気をつけて!!」


 そう言いなから腰に差した剣を抜いた。


 セイナの声で自分に迫るドガルオムに表情は怯えているがその場にグッと力を込めて立つマモル。


 そこにマモルを飲み込もうと大きく口を開けたドガルオム! しかし……


「アガッ!? ガッ?」


 魔獣らしくない声をあげるドカ゚ルオム。ドガルオムの突進はマモルの五十センチ手前でピタリと止まっていた。それを見たマオは驚く。


『なんと!? これがハッシュの言ってた攻撃が届かないという現象か。これは凄いな、衝撃までも殺してしまうとは……』


 マオはマモルの能力を実際に見て驚いていた。攻撃が届かないイコールその力突進力までも殺してしまうという事は見当がついていたが、まさかドガルオムの突進力も殺してしまうとは思ってなかったからだ。

 少なくともマモルは吹っ飛んでいくのでさないかと内心で考えていた。


 マモルがドガルオムと睨み合っている隙にセイナが剣でドガルオムの首を切り飛ばした。


『イカンッ!! ドガルオムの血は人にとっては劇薬となるっ!!』


 今度は危ないと思ったマオが間に合えとばかりに魔力を練っていたら、その血すらもマモルにもセイナにも届かずに地面へと落ちていった。


「マモル兄さん、血を触るとダメみたいよ」

「うん、そうみたいだね。血が全部でるまでドガルオムは放置しておこう」


 そう話しておいてお互いに目を見て頷き合い、セイナが急にマオの方を向いて言った。


「マオさん、そこに居るんでしょ? 隠れてないで出てきて下さい」


 マオは自分の隠蔽が見破られた事に驚きながらも素直に解いて姿を現した。


「いや、隠れていたというよりは様子を見ていたんだけどね。危ないようなら手助けしようと思ってたんだよ」


 マオの言葉にマモルは頷きながら言う。


「有難うございます。血が僕たちにかかりそうになった時に急激な魔力の集まりを感じましたから、そうじゃないかなと思ってました」


「まあ、私の手助けなんかはいらなかったみたいだけどね。それよりも二人とも強いね。ドガルオムをあっさりと倒すなんて。それに気づいてないと思ってたけど本当はドガルオムの気配にも気づいてたんだね」


 マオは自分の隠蔽に気づいてたならばドガルオムの気配にも気づいてたんだろうと思いそう言う。

 実際、二人とも【鞘式しょうしき】の生存術でどんなに小さな気配でも二十メートル離れた場所にいる生物は感じ取れるのだ。

 マモルがドガルオムを見てビビったのは生来せいらいの気の弱さからである。


「はい、まあ気がついてました。それよりもあと五個ずつ採掘したいので少し待って貰えますか?」


 マオにマモルがそう言ってる間にもセイナは既に採掘を始めていた。


「ああ勿論だよ。私も少しこの辺りの輝石を採掘しておこう」


 こうして、魔王と勇者二人は出会い採掘後に三人で開拓村に戻る事になったのだった。 


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