47. 橋の町にて 7

「え? ミモル社がかい?」


戦闘が開けてからはや数日。

街には既に、活気が戻りつつあった。

というのも街を解放してすぐに、ベルは人が逃げていった町に手紙を送ったんだ。

そのおかげもあって、翌日には既に町へ戻り始める人手が現れ始めた。


そしてひと段落着いた今、あの日の事を情報共有しているんだ。


「ミモル社ねぇ~。 本当に何もされなかったのかい?」


「なーんもされなかったぞ!」


「そうね。 敵意があった訳では無かったわ」


「僕は…自慢の触角をペタペタ触られたけどね…」


僕は頭の触角をぴこんぴこんさせた。

意外と敏感な所だからね。


「でも、その程度かな」


「ほぅ…そうかい。 それなら…もしかすれば…協力を仰げるかもね~…」


ベルは、衝撃的な言葉を言った。

仲間に…?

あの変態を!?


「冗談じゃないよベル! あの変態を仲間に向かい入れるつもり!?」


「嫌かい? マリンちゃん」


「嫌だよ!」


「ははは!」


「笑っても無駄から! 僕は絶対、ぜーったいに嫌だ!」


「でもね~マリンちゃん。 一応彼ら、もともと私たちの仲間なんだよ?」


「…え?」


「まぁ、色々あったのさ! ははは!」


カラっと笑い飛ばすベル。

とは言え、僕にとっては笑いごとじゃない。

彼はしばらく笑った後、再び僕達に質問をした。


「ミモル社の奴ら、他に何か言ってなかったかい?」


気になること。

そういえば言ってた気がする。

いい機会だし、ここで聞いてみよう。


「うん、言ってた」


「聞かせておくれ、マリンちゃん」


「僕が…プルポ族とかなんとかって」


「そうかい。 それじゃあ、彼らにも知られてしまったわけだ」


ベルは、溜息をつきながら腕を組んだ。

そして上を見上げる。


「マリンちゃんがプルポ族という事をね」


「え?」


突然のことに、僕は聞き返した。

僕がプルポ族?


「…え? 何? ごめん、もう1回言ってベル」


「ミモル社の奴らにも知られてしまったね~って」


「違うよ。 そこじゃなくて」


「君がプルポ族のことかい?」


「うん。 僕…プルポ族なの…?」


僕は驚きの表情を浮かべた。

それを見て、みんなも驚きの表情を浮かべた。

ベルもそれは例外ではなかった。


「おっと…それは冗談かい…?」


「え…?」


「この顔は本気みたい」


ユワルは、少しニヤついてる。


「何!? もったいぶらずに教えてよ!」


「マリンちゃん…」


ゴクリ…


「君はどう見てもプルポ族じゃないか。 逆になぜ気づかなかったんだい!?」


「ええ!?」


「私たちはもう、君が既に知っているものだと思っていたよ!?」


「初耳なんだけど!?」


「ふふふ、鈍感だね」


「みんなもう知ってたの!?」


「もちろんだぞ!?」


「私すら知ってたわよ! なんでマリン本人が知らないのよ!?」


「ええ!?」


どうやら、僕は本当にプルポ族らしい。


触角と触手、それに他では見ない淡い水色の髪!

加えて、マウ族にしては成長が遅すぎる。

というよりずっと子供の姿のまま!


極めつけは水の単属性だ。


もうこれは紛れもないプルポ族!

言い逃れなんか出来ない!


「ほんとに、何で気づかなかったの僕!?」


僕は叫んでしまった。


しかし嬉しさの半面、複雑さもあった。


違う種族同士では決して結ばれない。

普通は惹かれ合うこともない。

マウ族はマウ族同士、エルフ族ならエルフ族同士でしか結ばれないんだ。

ミガ族だけは例外らしいけどね。


どの道、僕はあの人とは結ばれない運命だったんだ。


そっか。


僕達、間違ってなかったんだね。

あれが正解だったんだ。

あんな別れ方したけど、正解だったんだ。


良かった。


心の中の重い物がちょっとだけ軽くなった気がする。


…。


それからしばらくした時の事。

情報共有も終わり、各々自由に過ごしていた時だった。


コンコン


誰かがノックをした。

客人かな?


「は~い、どなた?」


トーニャが扉を開けた。


そこに居たのはピシっと身だしなみが整えられた女性。

そして見覚えのある服。

あれはココちゃんが着てたのと同じやつだ。


つまり、あのお屋敷の人ってこと?


「お忙しい所失礼いたします。 町長様がぜひ会いたいと申しておられます」


「少し待っててちょうだい。 団長を呼んでくるわ!」


キャラバンの奥へ入っていくトーニャ。

へぇ、町長のお使いの人かぁ。


町長の…。


昨日魔物がぶっ壊した屋敷の主が、町長って事!?

そんな事はつゆ知らず、ベルが笑顔でやってくる。


これはマズイ。

報酬じゃなくて、弁償が飛んでくるかもしれない!


「おぉ、随分と早かったね~」


「あなたが団長様ですね。 どうぞ、私と一緒にいらしてください」


「すまないね~」


足早に向かおうとするベルを、僕は引き留めた。

そして、申し訳なさそうに謝る。


「ごめんベル…報酬じゃなくて、弁償かもしれない」


「ははっ、何を言っているんだい? マリンちゃん」


「えっと…昨日いろいろありましてぇ…」


僕は思わず不安そうな顔をした。

しかし彼は、それをカラっと笑い飛ばした!


「マリンちゃん。 良く分からないが、私に任せなさい!」


「ベル!」


「しっかり搾り取ってくるからね~」


「ベルぅ…」


そして彼は、颯爽と屋敷へ向かっていった。


それから数時間後。

彼はニコニコの笑顔で戻ってきた。

肩に巨大な現金袋を担ぎながら…。


もう…勇者って何だっけ。

町長には同情するよ…。


そんな事がありつつ、目標を達成した僕らは再び旅を再会した。


橋の町。

長いようで短かったけど、ここを抜ければついにトロン大陸!

皆! 僕もついに大陸デビューだよ!

シュカ大陸?

知らない子です。


…。


とはいえ、まだしばらくは橋の街が続くらしい。

この町、長すぎるんだよね。


僕は窓から、ぼんやりと町の景色を眺めていた。

シュカ大陸とは違った文化で、見ているだけでも意外と面白い。


道行く人の服装も違うし、露店が1つも無いんだ。

お店はみんな、建物の中に入ってるみたい。

僕の故郷周辺は露店売りがメインだったから、なんだか素敵な街並みに見えてしまう。


その他にも、いろんな人たちが居たり、物なんかがあった。


あ、看板を掲げてる人なんかも居る。


なになに…『ひろってください』だってさ。


変な人も居るんだね。

いったいどんな顔してるんだろう。

僕は、その人の顔を凝視してみた。


するとビックリ、どこかで見たことあるような顔だったんだ!


「ベル! 止まって!!」


ギギギッ…!!


重い衝撃。

急に止まる物だから、思わず転びそうになってしまう。


今はそんな事どうでもいい!


僕は再び顔を確認する。

うん、間違いない。

ココちゃんだ!


「ココちゃん!!」


「どうしたのよココちゃん!?」


真っ先にっ飛び出したのはトーニャだった。

彼女は少しだけやつれた、可哀想なココちゃんに駆け寄る。


「ココちゃん、何されたのよ!?」


「えと…ココ…捨てられちゃいました」


「なんて酷いのよ…」


「ココちゃん、大丈夫? 怪我はない?」


僕は彼女に、安否の確認を取った。

すると彼女は、儚い作り笑顔を浮かべる。


「はい、怪我は大丈夫です」


「本当に?」


「ほ…ほんと…です」


「マリン。 この子、背中あざだらけよ! ひどい怪我…」


「えへへ…怒られちゃいまして…」


「ココちゃん…辛かったわね…」


「もう…ココの事なんてどうでも良いんです…」


彼女は泣きそうな顔になりながら、下をうつむいた。

そんな姿を見ていると、なんだか僕らまで切ない気持ちになってきた。

その時だった。


バンッ!


キャラバンの扉が勢いよく開かれた。

中から、テライが駆け下りてくる。


火属性はどういうわけか、治療も出来るらしい。

温度を操る魔法だから、丁度いい温度に合わせることで傷が治りやすくなるのだとか。

僕もテライに、何度もお世話になってる。

彼はココちゃんに駆け寄ると、手をかざした。


「ジッとしていろ」


そして、ほのかな温かみが彼女を包む。


「…あったかいです」


彼女は、安らかな顔をした。

それと同時に、みるみるあざが消えていく。


「よし、もう大丈夫だ」


「ありがとうございます…!」


「ココと言ったか」


「はい!」


「俺たちと一緒に来い」


その言葉を聞いて、ココちゃんは一瞬きょとんとした表情を浮かべた。

急に誘われて、あんまり状況を理解できてないみたい。


「聞こえなかったか?」


「い…いえ」


「お前の居場所くらいは用意してやれる」


「で…でも…。 い…いいんですか…?」


「あぁ。 みんな歓迎するさ」


「うん、おいでココちゃん!」


「そうね! 歓迎するわ!」


「みなさん!!」


その言葉達を聞いて、ココちゃんの表情がぱぁっと明るくなった!


「はい! よろしくお願いします!」


というわけで、僕たちの旅に新しいメンバーが増える事になった。

元々騒がしいキャラバンだけど、これからはもっと騒がしくなりそうな予感がする。

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100万年後に届く魔法 ~世界に終末が訪れるらしいですが、僕は今日も元気です。~ 奈落24丁目 @Dandelion24

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