第4話「主人公じゃなくたってTCGは最高だ!」


「ぐわああ!!」

 まず一人目のカードハンターが散った。

 というか、カードハンターはいいとこ十代の少年たちで構成されており、そのデッキは「闇の○○」みたいな闇堕ちテーマデッキなのだが……。


「ちょっとカードパワーに差がありすぎるかもね」

 日夜駆けずりまわってカード収集を行い、黒百合シナジーどころか汎用カードも集めまくっている俺のデッキとでは、勝負にならないといったレベルで差がついていた。

 

「少なくともアケオメッチは突破してほしかった……」

 「餅の星霊『モチモチ・アケオメッチ』」。

 黄色属・星霊サテライト攻撃力500 防御力2000

 アビリティ①攻撃表示のこのサテライトが攻撃された場合、モチモチ・アケオメッチの防御力が攻撃星霊の防御力を超えていた場合、相手に「この戦闘で発生するダメージ」分のライフ減少を与える。

 アビリティ②この星霊は戦闘では破壊されない。

 

「アケオメッチは、たしかに弱そうな見た目だし攻撃力は貧弱。効果も攻撃表示じゃないと発動しない。 けどそんなのわかって入れてることくらい、想像するべきだったんだよ」

 もちもちのハムスターがフィールドの中央でくつろいでいる中を、ゴブリンや荒くれのような星霊たちが殴りかかる。

 しかし、それは俺へのダメージであると同時に、3人の自傷行為にもなっていた。


「まったく、退屈なバトル……」

 ヴィヴィはその「消失したライフ」を吸い上げて自己強化を行う効果を持っており……。

 

 「黒百合の吸血姫ヴァンパイア・オブ・ブラックリリィ『ヴィーナス・ヴライド』」

 紫色属・星霊サテライト 攻撃力? 防御力?

 アビリティ①この星霊の攻撃力、防御力は「このバトル中に失われたライフの合計値」になる。

 

 この効果によって俺を含めた4人の「減ったライフの合計値」が今のヴィヴィの戦闘力になっていた。

 主人公的なスキルじゃないけど、こういうキャラのテーマがゲームデザインに反映されてるカードってすごい好きなんだよな~!

 現在のヴィヴィの戦闘力は18000。ふつうに殴るだけでバトルが終わる。


「さて、こっちから言わせてもらおうかな。「降参してエース星霊サテライトを渡すなら見逃してやる」だったっけ?」

 命のかかったデスゲーム……まあどうせ黒幕が倒されたら全部元通りになったり、奇跡が起きてなんとかなるんだろうけど。

 こういう輩には一回お灸をすえておかないといけない。

 改心するまでエースとはお別れってことで。

 



***


 結局、3人のうち2人はエースを手放して逃げていった。

 最初に散った人のエースカードは地面に落ちてたからそれも回収。

「「闇のスカウティング・ゴブリン」、「闇の荒くれもの第08強奪小隊」……え~なにこれ面白~、使ったらダメなんだろうけど、闇のデッキも興味あるな……」


 回収したカードのデザイン、闇の仕様になったカードの表面を観察し、カードオタク特有のキショ独り言を漏らす。

 通常弾で手に入らないカードってめちゃくちゃ魅力的だよね。闇のカードってオーロラホロ加工されてるんだ……ヴィヴィにもつけてくれないかな……多分闇のヴィーナス・ヴライドもめちゃくちゃかわいいし。

 

「あ、あの……クロトくん? いまのはなんでヤスか……? それにこの子は……?」

 ハカセが俺の袖をくいくいとひっぱって聞いてくる。


「あー……俺の相棒サテライトは、実はこっちのヴィヴィ。「ヴィーナス・ヴライド」なんだ」

 ハカセと反対の腕に抱きついてじと~っと赤い目を細めるヴィヴィを紹介して。

 隠しきれなかったな、また引かれるんだろうな。と覚悟していると。

 

「……す、すごいでヤス! さっきのバトル! タイヨウくんやリュウガくんにも届くくらい……むしろ追い越しちゃうくらいすごかったでヤス!」


 ハカセは、感激した! といった様子で跳ねまわり、年相応の少女のように喜んでくれた。


「そ、そうか? そうだよな! さっきのバトルで、ヴィヴィが黒百合の剣をズバー! ってさ!」

 その反応に俺も嬉しくなり、興奮して一緒に跳ね回ってさっきのヴィヴィの動きをまねる。

 鮮やかなカウンターの斬撃が決まり、荒くれもの第08小隊の半数が消し飛んだ瞬間! いやーかっこよかった!

 

「そうでヤス! タイヨウくんとリュウガくんが戻ったら……」

「ハカセ! ごめん、それなんだけど……。ヴィヴィのことは秘密にしてくれないか?」


 興奮した様子のハカセに、はっと我に返った俺は手を合わせて頼み込む。

 もう変なあだ名をつけられて転校するのはごめんだ。


「えっ……。 ま、まあいいでヤスが……」

「本当か? ありがとう! ハカセと俺の約束な」

 ぎゅっとハカセの手を握って指切りをする。

 バトルで興奮したからか、ちょっと赤い顔のハカセの頭をくしゃくしゃとなでて、抱き合う。

 

 カードがあれば、友達は無限に増える。この無限のカードが待ってる世界なら。

 主人公じゃなくたってTCGは最高だ!

 


***


 ハカセとクロトが抱き合ってるところを横からむくれた顔で見守るヴィヴィとアケオメッチは、呆れたようにつぶやく。

「どうするもちネズミ。また嫁候補が増えたぞ」

「いや……衛星サテライトのボクたちじゃ惑星プラネットの節操のなさはどうしようもないよ……」


 誰にも知られないふたりのため息が重なるのだった。

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【転生】ノヴァライトTCG! ~黒百合と行くTCG異世界~ 赤佐田那覇摩耶羅羽 @Luna_arc

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