第3話「社会的には死んでも運命だけは譲れない!」
かくして、タイヨウと闇のカードハンターのバトルが始まった。
「ノヴァライト! バトル!」
その掛け声とともに、タイヨウは闇のカードハンターと異空間へ消えてしまう。
この世界では、ノヴァライトバトルは異空間で行う闇ノヴァライト、そしてカードショップや大会、広場などで行う通常のノヴァライトバトルの二種類がある。
この場合は闇ノヴァライトバトル。
他者からの妨害を受けず、隔絶した異空間を舞台に戦える闇のプレイヤー有利のルールだ。
「残りのガキもやっちまえ!」
そうこうしている間に、リュウガも闇ノヴァライトバトルに巻き込まれ、異空間へ行ってしまう。
いいなー。彗星龍皇久々に見たかったんだけど。
「へへ……のこりはザコそうなガキ二人か……」
闇のカードハンターたちがパキパキと手を鳴らしてデッキを構える。
ハカセはというと……頼みの綱のタイヨウとリュウガが先にバトル空間へ行ってしまったため、少しおびえているようだ。
「ど、どうしよう……二人とも行っちゃったでヤス……」
俺の後ろに隠れて様子をうかがうハカセ。その手はかすかにふるえている。
ど~~~しようかな~~~!
俺が今持っているデッキは、学校で浮かないように「餅の星霊『モチモチ・アケオメッチ』」がメイン。
どう考えたって闇のカードには及ばないだろう。
「降参してエース
というかアニメで放映されているならカメラはどう考えてもタイヨウとリュウガ視点だ。
俺たちのほうは見向きもされてなさそう。
とか考えながらちらりと「餅の星霊『モチモチ・アケオメッチ』」のカードを手元で見つめる。
鏡餅のようなデザインのもちもちのハムスターっぽい星霊が、読みにくい表情でこちらを見上げている。
すこしの不安。恐怖。畏れ?
アケオメッチの俺への感情は、そんなところだろう。
「だ、だめでヤスよ! クロトくん! エースとプラネットは魂の絆でむすばれてるんでヤス! 簡単に手放すなんて、できないでヤス!」
俺がエースを手放すと思ったのか。ハカセは抱きつくように俺を揺さぶり、博士の胸元からアケオメッチと同じ黄色の属性の「
「ぜ、絶対におまえらみたいな闇のカードハンターに……大事なカードは譲れないでヤス!」
ぷるぷると震えながら俺の前に出ようとするハカセを、俺は制止する。
ハカセ、良いこと言うな~!
俺たちカードゲーマーは、社会的に死んでも運命のカードは譲れないよな!
「そうだね……じゃあ、勝負で決めようよ!」
ハカセのカード愛に応えたくなった俺は、にこにこと笑顔を作りカードハンターたちの前に立つ。
「全員同時でいいよ。どうせ俺が勝つからさ――ノヴァライト。バトル」
デッキを構えず、天に手をかざしてバトル開始の宣言をする。
その異空間はのこりの闇カードハンターたちを飲み込んで、宇宙を映す巨大なバトルフィールドへと変わった。
うわー! リアルだとできない1対3のノヴァライトバトルが自分でできるなんて! 嬉しすぎる!
「デッキも構えずにノヴァライトバトルだと!? どういうつもりだ!」
闇のカードハンターたちから、困惑の声が上がる。
「いや、デッキならあるよ。 ヴィヴィ!! ここだ!」
俺は高らかに天へと掲げた手を握る。
そこに、黒い百合が咲き乱れ……。頭上に広がった花畑から、一人の少女が目を覚ます。
黒百合の吸血姫……「ヴィーナス・ヴライド」。
天に逆巻く漆黒の花園から立ち上がり、俺の手を取って俺の隣へと降り立った銀髪の少女は、ちらりと背後のハカセに目をやると、その血のように鮮やかな唇でため息を吐いた。
「我が運命よ……また浮気か……?」
こてん、と俺の肩に頭を預け、じっとりと湿った眼でハカセを睨むヴィヴィ。
「いや、そういうんじゃないって。ハカセが怖がってるだろ、やめなさい」
腰が抜けたようにへたり込むハカセを威嚇するヴィヴィの頭をゆっくりとなでて、ハカセには目でごめんねと意思表示をしておく。
ヴィヴィ(俺はヴィーナス・ヴライドのことをそう呼んでいる)は、俺がほかの女子と仲良くしているのを目にすると、めちゃくちゃ不機嫌になるのだ。
なんならほかの少女型の
「よいか、小娘……この
なんか牽制するような口調でハカセにぶつぶつとヴィヴィが言ってるのを引き戻し、カードハンターのほうに向き直る。
「まぁまぁ……とりあえずデッキ。久々に暴れていいよ」
ヴィヴィは美少女がゆえに、普通に俺が持ち歩くと社会的に浮く。めちゃくちゃ浮く。
普通、星霊とは魂の鏡であるがゆえに、持ち主と乖離した星霊は少ない。
タイヨウの星霊は彼のように熱くて勇敢なライオエースだし、リュウガの星霊は彼のようにクールで自信家のライトニングクロイツだ。
で、俺のヴィヴィは……「美少女好きのキモオタ」という俺の理想そのまんまだから不遜ゴスロリ銀髪赤眼美少女。
終わっている。
というわけで、普段はアケオメッチと一緒にいるんだが……ヴィヴィはたまにアケオメッチにも立場がどうとか正妻がどうとか説教をする。
「ふむ……このような雑魚が久方ぶりの相手とは……役不足ではないか?」
ぷく、と俺の腕を抱きながら不満げに頬を膨らましたヴィヴィから、俺は預けていたデッキを受け取る。
そう言わないでほしいな。彼らだって闇のカードまで使って強くなろうとしてるわけだし。
強いカードやレアカードに対する渇望は俺だって同じなんだ。
「俺が君を使いたいんだ。行くよヴィヴィ!」
俺が腕に装着された装置にデッキを差し込むと、ヴィヴィもカードになってデッキの中に潜り込む。
装置が自動でシャッフルを行い、俺とカードハンターの間に緊張感が走る。
「なんだあのガキ……! ただものじゃないのか!?」
そう漏らしたハンターに俺は笑う。
「いや、俺は普通の
闇のノヴァライトバトルが始まった。
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