第2話「……俺が主人公じゃないの!?」
「でさー……その闇のカードハンターがめっちゃ強かったんだよ!」
転生してから9年。
俺はあの転生の間で見た自分と同じ9歳になっていた。
「ええっ! タイヨウくん、大丈夫だったの!?」
俺は、目の前の赤い髪をありえないほど四方八方に伸ばした少年、「ソラノ タイヨウ」に驚いた声を上げて訊き返す。
タイヨウは鼻の頭に絆創膏を貼った元気印の男子で、使うデッキは「
「ほんとでヤス! タイヨウくんじゃなかったらカードハンターに魂をうばわれていたでヤス!」
横から茶々を入れるのは黄色いオーバーオールを着たキノコヘアに瓶底メガネの「ハカセ」。使うデッキは「
「俺にだって勝てた。 おまえらがどうしてもって言うから譲っただけだ!」
聞いてもいないのにかっこつけて自分語りを始めるのは、青い髪がなぜか全体的に「龍」の頭っぽい造形のクール系少年「ヤマタノ リュウガ」。使うデッキは、言うまでもなく「
というかこの世界の男子の髪型は全体的に奇抜で異常だから慣れないと逆に不審者扱いされる。
「今度はお前も来いよ! クロト!」
そう言ってタイヨウが俺の肩を叩く。
魂を賭けたデスゲームに同級生を誘うな。
「いや~~~……ボクはあんまりノヴァライト強くないからな……」
適当にごまかしながら時計を見上げる。
「あっほら! そろそろ5時間目の授業始まっちゃうからさ!」
俺がそうやって時計を指さすと、ちょうど予鈴が鳴り、3人の主人公たちは自分の席に戻っていく。
「はいは~い! ノヴァライトはしまって! 授業をはじめますよ~!」
やがて、教室に新人と言った感じの女教師が入ってきた。
さて、社会の授業の合間にここまでの経緯を振り返りたい。
「世界は、一枚のカードから始まったのはみんな知ってるよね?」
何それ知らん……。
とにかく、俺はTCG系ホビーアニメ作品の中に転生した。
その作品は俺の前世で一番プレイしていた「ノヴァライトTCG」だったことは、俺にとって究極のラッキーだったと思う。
しかし、予想外というか……想定外というか。
「それで、ノヴァライトっていうのはみんなの持ってるそのカードに星の精霊……「星霊」を宿したものなの」
先生の声にみんなが自分のエースカードを掲げて「知ってる~!」と反応したので、俺も慌てて「餅の星霊『モチモチ・アケオメッチ』」を掲げる。
そう、俺は主人公じゃなかった。
というか、この世界には主人公みたいな人がいっぱいいたのだが、その逆に「絶対主人公じゃない」やつもいっぱいいたのだ。
たとえばさっきのハカセとか、リュウガとかもそう。あれは主人公と一緒に戦う仲間とかライバルポジの運命を持ってるやつ。
そして俺は……その仲間ポジでもなかったのだ。
おかしくないですか星の声さん! 運命って何だったんですか!?
転生してすぐのころは「えっ!? 俺が主人公じゃないの!?」と自室で転げまわったものだが、9年も経つと現実を受け入れる。
しかも、運命を感じたヴィーナス・ヴライドを使ってノヴァライトバトルをするたびに友達が減り、「エロ」のあだ名をつけられる始末。
そうなのだ。ヴィーナス・ヴライドのような
こんなのあんまりだ!
「そうそう。みんなが生まれたときに、一人一枚星霊の宿ったカードをもらうよね」
社会の授業は続いていくが、俺の脳内はカードのことでいっぱいである。
この世界における
例えばタイヨウのエース「
いいな~~~欲しいな~~!!
俺は、前世ではけっこうなレアカードコレクターだった。
新規レアリティの追加された周年パックはカートン買いするし、なんならオークションにまで入札していた。
だからこそ、この世界が俺は楽園だと感じたのだ。
なぜならこの世界には、「俺が知らないカード」が無数に存在するのだから。
タイヨウのライオエースも、リュウガのライトニングクロイツも俺の前世の世界にはなかったカードだ。
いや、俺が死んだあとに発売されたのかもしれないけど。
とにかく、俺の知らないカードが無数にあり、それらがすべて実体化する夢の世界。
それがこの異世界だと気付いてから、俺はある活動に身を投じることになった。
「それで、カードっていうのは、世界のいたるところに現れるの。みんな道端でカードを見かけたことがあるでしょ?」
カード集めである。
お小遣いをもらえば即カードショップへ走り、新弾パックを買いあさる。
ストレージ販売(低レアカードや、傷アリカードをストレージという収納ボックスに詰め込んで、客がそれを漁る方式)の前で目を皿のようにして延々カードを堀り続ける。
さらにはこの世界では「カードが自然に出現する」。つまり、その辺の道端に数秒前にはなかったカードが発生したりするのだ。
なので毎朝毎夜ランニングを日課としてカードを拾う。
そうやってカードを集めることが俺の日課になったのだ。
TCG異世界最高!!! 無限に知らないカードが見れる!!
「人それぞれに生まれ持った「星」がある。 だから、みんなの持ってるデッキはみんなを選んでそこにやってくるの」
先生がそうしめくくると、無意識に俺はベルトに付けたデッキケースを撫でてしまう。
悔しいことに、そうまでして手に入れたカードも……偏ってしまうのだ。
前世でもままあることだが、「カードは偏る」。
ソシャゲのガチャで、なぜかこの属性ばっかり出るといった経験は、誰でも一度はするだろう。
それは運だったり乱数だったりするわけだけど、この世界では少し違う。
「カードが主人を選ぶから偏る」。
たとえば俺は「黒百合」カードが異常に手に入る。
パックを引いても、ストレージを漁っても、カードを拾っても。
なんらかの黒百合に関するカードだったり、それとの可能性を示唆するようなものが露骨に多くなっている。
それは、俺の運命のカードが「ヴィーナス・ヴライド」だから。
「クロト! 約束通り一緒にいこうぜ!」
ふと気づくと授業は終わっており、掃除当番が教室の掃除をしていた。
目の前にはさっきの3人がいて、俺は苦笑する。
「約束してないって。でもいいよ」
彼らは主人公だ。今日もなんらかの陰謀に立ち向かい、闇のカードハンターと戦うのだろう。
俺は、意外とこういうホビーアニメのノリも嫌いじゃない。
というか結構……かなり好きだ。
CGで表現される白竜を幼少期に見てから、憧れはとどまることを知らなかったとまで言える。
***
タイヨウたちに連れられて、闇のカードハンターたちが闇カード取引をするという噂の廃工場にやってきた。
こんなそれっぽいところでそれっぽいことをするなよ悪党が。というかそれを子供だけで解決しようとするなよ。
しかるべき機関に相談しなさいよ。
「ククク……子供に何ができる! この間のようにはいかせない!」
闇カード取引の現場をこっそり見ていた俺たちだが、ハカセがつまずき、カードハンターたちに取り囲まれる。
すげーお決まりの展開だ。この次はタイヨウがなんかそれっぽいことを言いそう。
「お前らみたいな闇のカードハンターがいるから星霊が苦しむんだ! カードはバトルで勝つための道具じゃない!」
本当にすごいそれっぽいことを言っていた。
そうだぞ、カードは勝負より集めること自体が楽しいもんな!
なんかちょっとズレたことを思いながら、俺は後方から「そうだ~! タイヨウくんの言う通りだ!」と応援をしておくのだった。
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