【転生】ノヴァライトTCG! ~黒百合と行くTCG異世界~

赤佐田那覇摩耶羅羽

第1話「夢のTCG異世界に転生したぞ!」


 TCG。トレーディングカードゲームというものをご存じだろうか。

 1パック5~10枚のカードがランダムに封入されている「パック」を購入したりして、さまざまなカードを手に入れ。

 それを40~60枚ほど集めた「デッキ」を作って誰かと戦ったり、集めたカードを交換して自分だけのコレクションを作る。

 カードを眺めるだけでも非常に楽しい娯楽、それがTCG。

 かくいう俺も、それを愛する一人の青年だった。

 

「いや~、新パックを箱で買えるなんて運がいいな~」

 小躍りしそうな歩調で、夜の新宿を黄色いカードショップの袋を下げて歩く。

 俺が買ったのは「ノヴァライトTCG」の最新弾「黒百合リンカーネーション」。

 なんといっても目玉はパッケージに描かれた美少女星霊サテライト、「ヴィーナス・ヴライド」だ。

 黒百合をモチーフにした新テーマカードで、黒いゴスロリ吸血鬼少女のキャラクター。

 プレスリリースをSNSで見たときからこのキャラでデッキを作ると決めていた。

 

「早く帰って、配信者の開封配信を見ながら! 酒を飲みながら剥くぞ~!」


 ハイテンションになりながら、新宿西口の横断歩道を渡る。

 ふと見上げれば、空には大きな丸い……ヴィーナス・ヴライドのイラストの背後にあるような綺麗な月が。

 

「こーれは……当たります」

 これは俺に神引きがあるに違いない!

 そう思った俺が前を向こうとしたその時、青い歩行者信号をガン無視した爆走11トントラックが俺の意識を刈り取った。

 


***


「う……ここは……?」


 気が付くと、俺は7色……赤、青、緑、黄、黒、白、紫の色とりどりの光が渦巻く空間にいた。

 周囲にはノヴァライトTCGのカードが裏向きで散らばって、その中心に俺は倒れている。

 

「目が覚めたようですね……あなたは「神引き」によって、転生者に選ばれました」


 天井、この空間に天井とか壁とかの概念があるかはわからないが、とにかく上の方から優しい女性の声が響く。

 転生……? 神引き……? 一体、なんのことなんだ。


「えっと、あなたは?」

 とりあえず、声の主に問いかける。

 俺は大型過積載トラックに轢かれ、文字通りのミンチになったはずなのに、どうしてこんな場所に?


「ここは星詠みの間。ノヴァライトの星霊たちが主人を待っている待合室。 私は星霊の導き手……「星の声」とでも」

 ゆったりとしたしゃべり方で語り掛ける声に、ゆっくりと立ち上がる。

 ……!? 俺の身体が、幼い少年に変わっている!?

 生前の俺は、アラサーのTCGオタクだったはず。だが今の俺は……まるでTCGアニメのキャラのような小学生程度まで若返っていた。


「転生って……俺はどうしたらいいんですか」


 とりあえず、上を向いて声をかける。

 生まれ変わって、俺に何をしてほしいんだ。そういう意図をもって天へと語り掛けた。

 

「あなたにはカードを愛する才能があります……そして、もう一つの才能も。あなたは転生して、ただ生きてくれればいいのです。運命がすべてを導くでしょう」


 つまり、やりたいようにやっていい、ということだった。

 少し放任主義すぎるような気もするが、逆に言えば運命によってやるべきことがいずれわかるということだろう。

 俺は仕事の「あとで説明するからとりあえず仕様書読んでシステムに慣れておいて」といった指示を思い出し、あ~~……と得心する。


「わかった。いや、理解したとかじゃなくて、納得しました」

 前世に戻せよとか、俺の部屋に置いてあったカードコレクションがとか。

 言いたい気持ちはあったものの、ぐっと我慢して飲み込んだ。嘘。俺のカードコレクションだけでも取りに行かせてほしい。

 大会プロモとか絵違いとか声優サイン入りカードとかめちゃくちゃ惜しくなってきてる今。

 魔界文字版「禁忌パンドラ:オーバーゲート」とか宝物なんだけど!


「ありがとう……。では、あなたの衛星サテライトを選んでください……」

 いまいち感情の掴みにくい女性の声に呼応して、周囲に散らばったカードたちが淡い光を帯びて浮かび上がる。

 それらは俺に裏側を見せながら整列し、ゆっくりと俺を取り囲むように壁を作った。

 

「俺が……選ぶ」

 俺の魂のカード……! それはもちろん!


「来い!!! 黒百合の吸血姫! 『ヴィーナス・ヴライド』!!」


 くるくると廻るカードたちの中で、俺の心にピンと来た一枚に手を伸ばす。

 これで全然違う「餅の星霊『モチモチ・アケオメッチ』」とかだったらヤバいな……と脳裏に不安がよぎる。

 

「……あなたが、私の運命プラネット……?」


 ほかのカードが天に舞い上がっていく中、俺が選んだカードが紫に光り輝き。その中から吸血姫が顕れる。

 柔らかすぎてドレスのように揺れる銀髪。縦長で深い紅色の瞳孔が俺を射抜き、その黒いゴスロリコスチュームの少女が俺の腕の中へ舞い降りた。

 

「……っ! ……!!」

 感激に声をなくし、半泣きになる俺を、きょとんとした顔で見下ろすヴィーナス・ヴライド。

 わからないんだろう。わからないだろうな!

 少年たちは、少女たちは。TCGをやったことのある人間は誰もが!

 カードからキャラクターが実体化する瞬間を夢に見て生きているんだ!!

 

「契約は結ばれた……新たな星よ、往きなさい」


 天から響く、星の声がそう言うと、すべてが光に包まれて消えていくのがわかる。

 だが、それは始まりの合図なのだと、俺は高鳴る胸で予感していた。

 

 あと自室に残してきたコレクションを取り戻す方法をめちゃくちゃ考えていた。

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