なぜカクヨムは覇権コンテンツを生み出せないのか
雲隠凶之進
なぜカクヨムは覇権コンテンツを生み出せないのか
カクヨムにログインしたら、「お知らせ」欄が目に付きました。
【11/8(金)Discord開催】ロシデレ担当編集者に聞く、短編→長編メソッド
URL:https://kakuyomu.jp/info/entry/webcon10_next02
一応、私は中立的な立場からモノを言いたいので、リンクを張っておきます。
うん。
言葉を憚らずに言うね。
誰 が 見 る ん だ い ?
私も一丁前にアニメオタクなどをやっているので、「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」(通称ロシデレ)のウワサは聞いたことがあります。このご時世で放映できるか危ぶまれていたとか、同志上坂のロシア語が「なんか違和感」とロシア語話者から言われていたこととか。あとは鳴り物入りでいざ放映されたけど、感想サイトでは酷評されてたこととか。
私ですか? 見てましたよー、真夜中ぱんチ。毎回ぶっ飛んでて何が起こるのか、放送を一週間の楽しみにできたのは何年かぶりってくらい。今絶賛まよパンロスでコウモリ形態になりそうですよ。
え?ロシデレ? 見てない見てない。感想サイトさらっと読んでNotForMeって思ったもんね。
ラブコメはいいよ。ヒロインが主人公にバレないと思ってロシア語でデレる。いいよね。ロシア語。かわいいよね。私艦これではBep推しだったもんね。わかるわかる。
で。主人公が「実はロシア語分かってます…w」って。
な ん で だ よ !
なんで一番おいしいところを自ら捨ててしまうんだ!
主人公君が「何て言ってるんだ……?」って悩むほうが絶対かわいいだろ! 推せるだろ!
距離詰めるの苦手な男女が、異文化理解を通じながら仲良くなってくの、絶対面白いじゃん! なんでそこをズラシたの⁉ このタイトル見たら絶対そういうの想像するじゃん! 「これが意外性…w」とか思ってるの⁉
……いやーキツいでしょ。なので見ませんでした。はい。ごめんね。
カクヨム内じゃ稀代の名作かのように扱われてるけど、申し訳ないけど。うん、本当に申し訳ないけど。
これで世間で受けると思ってたなら、ちょっと肌感覚ヤバいよ。
作者はすごい。それに関しては勘違いしないでもらいたいところなんだけど、原作者先生はすごいんですよ。だって、作品一本仕上げて、評価もされているわけだから。
作品の設定をどうするかについて、どうこう文句言う権利は部外者にはないからね。作者が「これでいい」と思ったらそれでいいんだ。
私が「ヤバい」って言ってるのは、アニメが放映されるまで「実は主人公がロシア語マスターで、何言ってるのか全部分かっている」っていう最大級の卓袱台返しを、誰も語らなかったことなんですよ。
話を戻すね。
なぜ、カクヨムは覇権コンテンツを生み出せないのか。
佐々木と
でもいざ放送が始まると、注目度MAXだったのは放送前だけ、人気も3話も過ぎれば衰えて、6話を過ぎれば誰も話題にしなくなる。放送前の、あの大騒ぎは何だったのか……。しかのこだってこんな低空飛行はしてなかったぞ(私はしかのこの原作マンガ買いました。のこたんの笑顔だけでシカ煎餅が旨い)。
まあ、理由は至極単純な話です。「ネットでウケる小説は、世間では全くウケないから」。
カクヨム攻略法を自称する創作論、いっぱいありますよね。中を覗いて御覧なさい。ハリウッドの脚本術だとかSaveTheCatだとか、もっと低次元なもので三幕構成だとか。そういうものに触れている、身のある創作論がどれだけありますか?
ないよね?
誰も彼も、文法記法だとかに触れるくらいで。酷いのは「たくさんインプットしよう」とか「作者同士の交流」(笑)とか。
うん。意味はあるよ。そりゃあね。誰にも見つけられない小説を、どうやって売れというんだって話だから。でも、そういう創作論(爆笑)が氾濫している今この状況が、すべてを物語っているんだよ。
カクヨムにはカクヨムの攻略法がある?
それなら、その攻略法がカクヨム専用で外で使えないんだったら、世間に売ることなんか原理的に不可能じゃないか。カクヨムの攻略法を忠実に守れば守るほど、一般社会から離れていくってことじゃないか。
カクヨム内の競争に勝てるように作られた作品は、つまりカクヨム内の競争でしか勝てないってことじゃないのかい?
詭弁はよそう、ウルトラマン。ここは穏便に、動態シミュレーションでいこうじゃないか。
ここに平均的な人間Aがいます。Aは、面白い小説を渇望している。Aはこの後、どのような行動をとるでしょうか。
はい、そうですね。「本屋に行く」ですね。
本屋にいけばイヤというほど本が並んでいる。ランキングや新刊、書店員のポップを見てもいい。Aはそこで一冊の本と運命の出会いをしました。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。
おいコラ。カクヨムが出てこないじゃないか。どうなっている。
じゃあこうしましょう。Aと同じく平均的な人間Bを用意します。Bは流行に敏感でいたいので、世間で評判の小説を読んで、話題に乗り遅れるようなことがないようにしたいと思っています。Bはこの後、どのような行動をとるでしょうか。
はい、そうですね。「本屋に行く」ですね。
入口から入れば「話題の本」が並べられていますし、書店員に直接聞いてみるのもいい。最近の書店員はバイトも多いので本に詳しいとは限りませんが、他に誰か、特定の本を探している人が複数いたら。書店員がそれを覚えていて、教えてくれる可能性もあります。
ネットの口コミを見てもいい。ドラマ化アニメ化映画化原作を漁るのもいいですね。小説媒体だけでなく、他媒体で作品に触れた人とも話ができるでしょう。
こうしてBは一冊の本と運命の出会いをしました。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。
おいコラ。またカクヨムが出てこないじゃないか。このシミュレーションは欠陥品だ。食べられないよ。
仕方ない。平均的な人間Cに出てきてもらいましょう。Cはネット小説が大好きです。暇さえあればネット小説サイトを読み耽り、食事中も風呂トイレベッドの中でもスマホが手放せません。Cは今ネット小説サイトで話題の小説を読みたいと思っています。Cはこの後、どのような行動をとるでしょうか。
はい、そうですね。「本屋に行く」ですね。
一人の人間がすべての新作をチェックするには、ネット小説の海はあまりにも広大すぎる。だったら、有象無象が排された「書籍化作品」に絞って探したほうが効率的でしょ? こうしてCは一冊の本と運命の出会いをしました。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。
おい、どういうことだ。平均的な人間をいくら用意しても、誰もカクヨムを見にこないじゃないか。何かがおかしい。何かが……。
そうか。前提が間違っているのだ。何かの仮定をして、それを演繹的に論証していくとどこかで齟齬が生じる。だから前提が間違っている。あんまり知られてないんですけど、これを背理法といいます(小泉構文)。
平均的ではない人間Dを用意しよう。彼はカクヨムジャンキーです。カクヨムジャンキーで、なろうを敵視している。なろうを読まないオレみたいなオタク、いますかね…wとか思ってる。ヒトラーを崇拝してるけど、ユダヤ人迫害はNGだとか思ってる。Dはこの後、どのような行動をとるでしょうか。
はい、そうですね。「カクヨムを読む」ですね。やっとカクヨムに人が来てくれました。Dはそこで一本の作品と運命の出会いをしました。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。
読者はなんでカクヨムに来るんでしょうか。
なんでカクヨムに来て、小説を読もうと思ったんでしょうか。
なぜ本屋ではなく、カクヨムに。
なぜkindleでも、マンガアプリでもなく、カクヨムに。
なぜなろうではなく、アルファポリスでもなく、カクヨムに。
一番ありそうな答えは「自分もカクヨムに投稿している作者だから」。
作者じゃないとしたら「自分はカクヨムのほうが波長が合う」とか思っている人。
どっちも同じです。
世間一般の「平均的」な選択をしなかったという点においては。それが良い悪いとかそういう次元の話じゃなくて、「普通の人はカクヨムにたどり着かない」ってこと。これが重要です。
普通の人は、小説を読むのにまずカクヨムを見ようという選択をしない。ということは、カクヨムを見ているユーザーは普通じゃないということです。
だからカクヨムから覇権作品が生えてこない。カクヨムでウケるということは、ニッチな世界でウケるということだから。
私はロシデレを見ませんでした。なぜなら、NotForMeだと思ったから。というか「自分が実は優秀でぇ……」とか思ってそうな人を日常的に見ていると、ああいう「主人公は実は傑物だけど能力を隠して暮らしてる」みたいな「ラノベ的なお約束」に拒否反応が出るんだよね。なんでアニメでまでお前の妄想に付き合わなきゃいけないんだよ。
愚痴は置いておいて。カクヨムに限らず、ネット小説サイトでのしあがる作品は、おおむね世間の人からはNotForMeだと思われている。
なぜか? それはアナタが一番分かっているはず。カクヨムにたどりついた普通じゃないアナタが、「他のどこにもない」、「JustForMe」、稀代の名作だと思った作品の良い所は、カクヨムにたどり着こうとも思わなかった普通の人間にとっては、1ミリも理解できないものだった。ただそれだけです。
だから卓袱台返しを誰もしなかった。世間一般から見たら「なんだコイツ」の主人公が当然のようにロシア語マスターだった要素は、ファンにとっては「主人公すげぇ!」だった。こういう例は他の作品でも見られます。
ひげを剃る
家に突然JKが転がり込んで来たら、普通の大人は手を出すものだと思っている。そういう視聴者にとっては、彼は聖人君子なんでしょう。私には自分を立派なオトナだと思っている、うだつの上がらない万年平社員の妄想に都合がいいアバターにしか見えませんでしたが。
某会議アニメとかね。ファンはあれ見て面白い!リムル様最高!って呟いてるの、ある意味凄いよね。後々の伏線なんですぅって。いいかい? 展開予告は伏線とは違うんだよ?
会議してるだけでもシン・ゴジラのは面白いのにね。何が違うんだろう。
ああでもないこうでもないって、登場人物がものを考えて行動してるのが分かるからだよね。逼迫した問題にどう対処するか、目を反らすか真っ向から立ち向かうのか、それとも折衷案を出してくるのか。そこにキャラの個性が出る。それを見せるだけでも、話は面白くなる。それが上手く出来ず、上意下達してるだけ、ワンマン経営者がやる「会議ごっこ」と同じ構図だから、見てるとつまらないと思ってしまうんだよ。
でもファンはそれを「すごい」と思った。感性が貧相な常人から見たら「重役に無理やり出席させられた会議ごっこ」のトラウマを抉るような30分間も、普通じゃない感性をお持ちのネット小説ファンの皆様には、高度な会話の応酬に見えたわけだ。
何がいいとか悪いとかじゃない。単に、「ネット小説サイトのユーザーは趣味が偏っているから、サイトで伸びることに特化しすぎると世間感覚からズレていく」ってこと。
そしてカクヨム含む、ネット小説の熱烈なファンはそれに気が付いていない。なろう系は売れてる!っていうけど、それってあくまで「ラノベ」っていう界隈の中の話であって。
一年間に発行される本って5000億円規模だけど、ラノベ市場ってその中の200億くらいしかない。4%だよ、4%。4%の中で最上位です、だから世間の評価が高いですって。本当にそうか?
そもそも大半の人間はラノベを読んでない。だって本の中で4%しか売られてないんだから、まず手に取られてない。NotForMe、ハナから無視されていて、そもそも良いも悪いも、評価の俎上にすら乗れていない。
これまでは世間の目を逃れてきた作品が、メディアミックスでまな板の上に引きずり出されてしまったら。そりゃあ叩き潰されることもあるでしょう。カミーユ・ビダンは言いました。「出てこなければやられなかったのに!」。
よく言うよね。「なろう系は世間のニーズに合わせて、わざと大げさに作ってる」って。その「世間」っていうのが実はもっと狭いせまーい「なろう系ファンの集まり」のことだっていうのは指摘した通りなんだけど、その「ニーズに合わせ」っていうのが問題なんだよね。
朝ご飯は何食べる? 私はローソンの炙りイカスティックをよく齧ってます。おいしいよ。
でも、おにぎり食べたい人だっているし、パンを食べたい人もいる。「朝はコーヒーだけっスね」とか、そもそも食べない人もいる。海賊コブラは朝にコーンフレークを山盛りいっぱい食べるんだって。ヒューッ!
朝ご飯のニーズだけでもこれだけ多岐に渡る。一つのニーズを重点的に取り上げれば、他の人に訴求できなくなるのは当たり前じゃないか?
カクヨムから覇権作品を生み出すにはどうするべきか。
うーん。可能性がないわけじゃないんだけどね。難しいんじゃないかな。カクヨムでウケる小説が劣ってるというわけじゃない(予防線)けど、ネット小説は先鋭化しすぎたよね。
だって「ネット小説発」ってだけで世間から敬遠されちゃってるもん。どうせまたチーレムなんでしょ? また知能デバフなんでしょ? 「またボクなんかやっちゃいましたか?」なんでしょ?って。
そういう小説がウケてます!って空気が出来てるのがもうヤバい。書く人も応援する人も選考委員も、世間の感覚からズレてることに気が付いてない。メディアミックスでド滑りを連発しているのに、まだ世間からは人気だと思い込んでいる。ネット小説界隈はもう先鋭化しすぎて、世間の人間には理解できない領域に到達しつつある。
そういうカクヨムのニーズに合わせることを「適応」だとか、あるいは「進化」だとかっていう人もいるだろうね。確かにそうかもしれない。でも、「適応」は環境に合わせるように変化することじゃなく、環境に合わないものが脱落していった結果だ。カクヨムのニーズに合わせて作品が変化したんじゃなく、ニーズに合う作品しか生き残れない環境になっているってことだ。
「進化」だって、ポケモンみたいに「進化」とは強くなることだと思っているのだとすれば、キミはまず高校生物を勉強したほうがいい。「進化」とはいつも中立的に起きるもので、キリンは高いところの葉を食べるために首を伸ばしたのではなく、首の長いキリンの方が短いキリンより摂食機会が多かったので生き残りやすかった、だから遺伝子を残しやすかった。それが今の通説になっている。
恐竜の体が大きかったのも「進化」の結果だ。温暖な環境、豊富な植物は恐竜の体を大きくした。
だけど彼らは絶滅してしまった。変温動物は寒冷に弱く、また寒冷化した地球には、図体のバカデカい彼らの食を支えられるだけの植物生産はなかった。生き残ったのは体が比較的小さく、また恒温動物になれたもの。そう、「鳥」だね。
温暖な環境に「適応」し「進化」したはずの恐竜は、地球環境の急激な変化にある日突然「要らない子」にされてしまったのである。
ネット小説サイトで中生代の終了と同じことが起こらないと言えるだろうか。
ある日突然、それまでのトレンドだった作品が「要らない子」になる。エポックメイキングな作品がある日突然「彗星のように」現れて、それまでの作品をすべて過去のものにしてしまう。
アナタの作品の熱心な読者が、突然ふらっといなくなる。最新話の展開が悪かったのではない。Xで炎上したわけでも、コメント欄でレスバしたわけでも。セミプロ作家から意味の分からない勘違い人違い筋違いで糾弾されて、ファンネルを飛ばされたわけでもないのに。
ただ、ある日突然、環境が変わってそれまでの必勝テンプレが陳腐になっただけなのに――――
カクヨム含む、ネット小説サイトからは覇権作品は生まれないだろう。少なくとも、今のままでは。
環境の変化はいつ起きるか分からない。明日か、明後日か、それとも一年後か。あるいはもう起きているのか。ただ一つ言えるのは、恐竜を絶滅させる彗星は、地球から飛び出したものじゃなく、宇宙から飛んできたものだったってことだ。
覇権作品は、カクヨムという地球環境の中での「進化」から作られることは絶対にないのだ。
なぜカクヨムは覇権コンテンツを生み出せないのか 雲隠凶之進 @kumo_kyo
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