永遠に
渋川伊香保
永遠に
俺が何をしたっていうんだ!
そりゃあ、損をした客には悪いことをしたよ。だが市場の動きなんて完璧に分かるものでもないし、だいたい自分で調べもせずに、人任せで運用しようってのがそもそもの間違いなんだよ。考えても見ろよ?どう考えてもこの業種はこれからも必要とされる、つまりは固い会社なんだよ。それがまさか、経営責任者が違法薬物所持で逮捕されるなんて、誰もが予想できなかったじゃないか。その上、この会社だけでなく、そこからこの業種全体が下がるだなんて、それこそ予知能力でもない限りわかりゃしなかったよ。そうだろう?だから、この会社を勧めた俺一人に罪を被せるなんて、それがどんなに無茶な理屈か、少し考えればわかるじゃないか。
そりゃ、俺は売り抜けたよ?でもそれは偶々のこと。今のこの状況がわかったからじゃない。上る途中で少し手放すことだって、おかしなことじゃないだろう?俺だって信じてたさ。これからも上がり続けるだろうって。
ああ、この会社に知り合いはいたさ。でもそれは個人的なことだし、知り合いっつったって、一社員だ。別に経営に携わっていたわけではない。だからこそさ。今のような状況になるなんて、思いもよらなかった。あいつは羽振りが良かったよ。給料が出てるんだろうなって。そのことからも、あの会社が傾くなんて思っても見なかったさ。
まあ、そりゃ、聞いてたよ?毎朝の朝礼で、社長の挨拶が少しずつおかしくなっていたって。最初の頃はマトモだったけど、そのうち、先がわかるとか、天使が囁いたとか、神の波動がどうとかとか、宇宙の振動とか言い出したって。でも、経営は固かった。固かったんだ。
まあ、少し手放し始めたのがその頃だったけど、でも顧客の分はもっと値上がりしてからと思ったし、値上がりするだろうと確信してましたし。大体、値が上がってたら上がってたで、あのタイミングで売ってたら、なんで上がるまで待たなかったんだってイチャモンつけるだろうが。
社長の発言がおかしくても、経営がマトモなところなんてごまんとあるだろ。そこが売のポイントにはならないだろ。
自分の分は、ホラ、ちょっと金が必要だったからさ。少ししたらまた買うつもりだったんだよ。上がると信じてたし。
閻魔大王の前でもそんなことがいえるとは、図太い奴め。お前がやったことは全てわかっているんだ。会社の経営が怪しくなっているとわかっていながら、顧客から資金を集めて買わせていた。その資金だって、全部投資に使ったわけではないだろう?狩ったと見せかけて自分のものにして、下がった額を見て顧客にその金額を渡す。いかにも株価の影響だと見せかけて、その実差額は自分の懐の中だ。証拠がない?なくてもわかるさ。お前は黒縄地獄に落ちる。獄卒の鬼によって、焼けた縄を打ち付けて、その焼き色に沿って鋸引きにされる。再生したらまた繰り返す。永遠にな。
永遠に 渋川伊香保 @tanzakukaita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます