第2話名コンビ

部屋には、長椅子に横たわる50代の男の死体があった。

仙岩寺は、脈を取り、呼吸音を聞き、

「仙岩寺先生、このお客様やっぱり亡くなっていらっしゃいますよね?」

と、立山が言うと、

「そのようですねぇ〜。ここで、亡くなっていたの?」

と答え、車掌の中田が、

「い、いえ。4号車のお客様でぐったりとされていたので、こちらにお運びして……他のお客様もいらっしゃいますから、騒ぎになるとアレなので」

「そうでしたか」

「死因は分かりますか?」

「ま、死後、30分から1時間てとこですかねぇ。死因はサッパリ分かりません。医者ではないのでね」

と、仙岩寺は答えた。

「こんな時に、お医者様がいれば良かったのに……」

た、川谷がボソリと言った。

「あのね、2号車の8のB席に座ってる中年の男性がいるんだけど、お医者様だから呼んで来てよ!」

「お、お医者様がいらっしゃったのですか?」

「多分、大変お疲れ様のようでいびきかいて寝ているから、手荒く起こしてきてよ」

「おい、中田、急げ!」

「はいっ」



2号車。

「お、お客様。お客様」

と、中田は石神を揺り動かした。石神はゆっくり目を開いた。

「良かった。お客様、ちょっと来てもらえますか?」

「……どこへ?何で?」

「お客様はお医者様でいらっしゃいますよね?」

石神はまだ、事態を把握していない。

「来てもらえますか?」

「だから、どこへ?」

「ちょっと、お客様がお亡くなりになって……」


石神はしょうがなく、立ち上がった。


「立山さん。お医者をお連れしてました。お願い致します」

「何で、私が医者だと?」

「あっ、先ほどはありがとうございました。お休み中、申し訳でございません」

と、仙岩寺が言うと、

「あ、あなたは一体?」

「名探偵の仙岩寺満先生です」 

と、立山が言った。

「……あ、あぁ、思い出しました。いくつかの難事件を解決されてきた、名探偵仙岩寺さんでしたか。しかし、仙岩寺さんは私がどうして医者だと」

「……」

「ちょっと、私はゴタゴタは面倒なので……」

「先生!」

と、仙岩寺が言うと石神は振り向いた。

「あ、やっぱり先生だ」

「しかし、何故、私が医者だと?」

「実はこの男性なんでんすが」

仙岩寺は石神に死体を見せた。

「亡くなってます。死因はわかりますか?」

「さ、さぁ」

「じゃ、次の駅で警察を待機させて下さい」

「次は名古屋ですが」

「だから、愛知県警に連絡して。捜査一課に黒井川という警部と知り合いでね。私がちょっと、身の回りの調査していると、伝えてよ」

車掌の立山は、

「分かりました。中田、電話してくれ」

「はい」


「ねぇねぇ、車掌さん。この人の荷物全部ここに?」

「はい」

と、川谷は返事した。

「この人の他に知り合いは?」

「さ、さぁ」

仙岩寺は、死体のスラックスから財布を抜き出した。

「あ、名刺が入っている。何々、私立探偵・鈴木信介……私と同業者ですねぇ。あ、レシートだ。……紅茶とコーヒーを食堂車両で注文してますね。紅茶飲んだ後にコーヒーを普通は飲みませんね。誰か、連れがいますね。確実に」

仙岩寺は、こめかみに左人さし指を当てて、

「う〜ん、石神先生、自然死に見せかけて人間を殺す事は出来ますか?」

「……」

「空気とか?」

「元々、体内にある物質を注射すれば」

「何ですか?それは?」

「色々あります」

「注射痕を調べましょ」

と、仙岩寺が言うと、石神は両腕の静脈を見た。注射痕は無かった。

「良かった〜、殺人事件じゃなくて」

「石神先生、足も調べてもらえますか?太ももやくるぶしに良く麻薬患者は注射するんですよね?」

「良くご存じで」

「で、検死を続けて下さい」


石神は死体の足首を見た。注射痕は見つからなかった。

「あ、そこっ!先生、そこに赤く」

「……あ、ありましたね。コレは殺人事件だ!」

「参ったなぁ」

と、立山は嘆いた。

「注射して、まだ、30分から40分ほどなので、犯人はこの特急に乗ってますね」

「え。ホントですか?先生」

「はい。その可能性が高いです」

「仙岩寺先生、ありがとうございました。後は我々が何とか対応しますんで。お医者様もありがとうございました」

「いいえ、何かあったら直ぐに呼んで下さい」

「ちょっと待って、君、この男性が亡くなった席を案内してくれる?」

「はい」

「では、先生、検死ありがとうございました」

と、仙岩寺が頭を下げると、車掌の川谷と立山も頭を下げた。

石神は、にこりとして座席に戻ろうとすると、

「仙岩寺さん、何故私が医者だとお分かりになられたんですか?」

「川谷君だっけ?案内して」


仙岩寺は4号車に向かった。

「この座席です」

「どこも、触ってない?」

「はい。あの、死体を運ぶ時と荷物を運ぶ以外は……」

「あ、そう、わかった。戻っていいよ」


仙岩寺は座席に座り、当たりを見渡した。

後ろの座席を振り向いた。

老夫婦が座っていた。

「あのう、お父さん、お母さん、ここの席に2人座ってなかった?」

老夫婦は歳の割には、かくしゃくしていて、

「さ〜て、どうだったかな?ばあさん」 

「2人いましたよ」

「いや、ワシは見とらん。ただ、1人ぐったりしていて車掌さんに運ばれたよ!」

「そうですかぁ〜。ありがとう。お父さん、お母さん」

「わしら、疲れとるんじゃ。面倒は嫌だよ」

「いいえ、もう、何もありませんから」


仙岩寺は2号車に戻り自分の席に座った。

「あのぅ、そろそろ教えて貰えませんか?仙岩寺さん。何故、私が医者だと分かったのですか?」

「今日、冷えますねぇ、良いでしょう。話します」

と、仙岩寺は語り始めた。



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