第4話実験

仙岩寺と石神は、ある仮説を立てた。

車掌が、ドサクサに紛れて鈴木を殺害したのではないか?と。

「石神先生、実験してみましょうか?」

「何を」

「停車時間内に犯行が可能かどうか?」

「つまり、前の駅の停車時間の18時40分から43分の、3分間で犯行が可能か?ですね。もし、犯行が可能ならどうします?」

「諦めましょう」


仙岩寺は3人の車掌を呼びに行った。犯行が可能かどうかの実験をするツモリだ。


車掌の中田は車両入り口付近に立たせて、川谷は犯行現場の後ろ側、責任者の立山は真ん中に立たせた。

「石神先生、私、4号車の現場に座ってますんで、3分後に私の隣に座って下さい」

「はい。分かりました。仙岩寺さん、何番シートですか?」

「……」

「車掌さん、何番シート?」

「入って直ぐ左の席です」


石神は仙岩寺の隣に座った。

時間が来た。

石神は仙岩寺の口元にハンカチを当てて、気絶させて、ボールペンを注射器代わりに仙岩寺のくるぶしに当てて、現場を去った。


そこで、タイムを計っていた、車掌の中田が、

「2分30秒です」

「仙岩寺さん、残念ながら犯人は逃げてしまいましたね」

「そのようですな。後ろの座席のお客さんに聴いてみますかね?彼らなら、誰が座っていたかくらいは分かるはずです」

「仙岩寺さん。それは、無理ですね。後ろの座席には老夫婦が座っています」

「老夫婦?」

「はい、気難しそうな老夫婦で記憶も曖昧でしょう」

仙岩寺が後ろの座席を振り向いた。


「ねぇねぇ、車掌さん。今の言葉聞いていた?」

「はい。聞いておりました」

と、立山が言った。

「君も、聞いたかい?」

「はい」

「君も」

「しっかり、聞きました」


「仙岩寺さん、何の事ですか?」

「後ろの席に、老夫婦が座っているんですよね?」

「はい。そうですが……」

石神は後ろの座席を覗いた。

全身の血が引く気がした。

「石神先生、後ろの座席にには若いカップルが座っています。彼らは協力者でして。君たち、ありがとう。役に立ったよ」

「何で、私じゃないよ」

「いいえ、犯人は石神先生です」


石神は黙っていた。

「確かに、この座席の後ろには老夫婦が座っていました。あの老夫婦、面倒はごめんだと言って他の車両に移ってしまいました」

「し、しかし。私じゃ」

「いいえ、あなたです。何故、この座席を知らなかった人間が後ろの座席の客の事を知っていたんですか?」

「……」

「車掌さんたち、証人になってもらえますよね?いかに、この仙岩寺が正しかったかを」

「それはもちろん。コイツ、始めっから怪しかったんだですよ」

と、立山が言った。


「もし、私が後ろの座席の客の顔を見ていたらどうするんだ?」

「あぁ~、それは絶対にありませんね」

「何故」

「あの、老夫婦に顔を確認されたら、あなたは終りです」

「しかし、それだけじゃ」

「この事件は、医療関係者しかいません。それと、あなたがゴミ箱を漁っている最中にカバンを見せてもらいました。デジタルカメラが2台入っていました。その中の1台がこの充電器と繋がりました。苦しいですよ、石神先生」

石神は、しばらく放心状態に陥った。

「仙岩寺さん、あなた初めから私を疑っていましたよね?」

「はい」

「何故?」

「この暖房も余り効かない、車内であなた汗をハンカチで拭いていましたよね?」

「はい」 

「何かの運動か、冷や汗をかかれた後だと思っていた矢先に、死体が発見されました。あれば、冷や汗ですね」

「何と言う、洞察力」

「いえいえ。これが、私の職業ですから」

そして、石神はポツリポツリと話し出した。

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