第3話仙岩寺とワトソン
「仙岩寺さん、どうして私が医者だとわかるんです。病院でお会いしましたか?」
と、石神は尋ねた。
「いえいえ」
「じゃ、どうして?」
「専門は外科ですね」
「……はい。尼ケ坂病院で外科部長をしています。しかし、分からないなぁ」
「実はコレなんです」
と、仙岩寺は弁当箱を見せた。
「お弁当箱がどうかしましたか?」
「私が紐を結んでもらいましたが、あなたはこの様に結ばれました。確か、男結びって言うですよね?」
「はい」
「特殊な結び方で、こんな結びをするのは医者しかいません。私の友達に外科医がいまして、よくこの男結びをしていました。そこで、ピンときました」
「……なるほど。さすが名探偵。観察力がありますね」
「良く言われます」
2人は並んで座り、
「仙岩寺さん、犯人はこの電車内まだ居ますかね?」
「はい。まだ乗っていると思われます。この事件の解決にお力をお貸しいただけませんか?」
「はい。是非。一度殺人事件の犯人を捕まえたかったのです」
「ホームズには、優秀な助手がいました。
知っていますね?医師の」
「ワトソンの事ですか?」
「そうです。名探偵にはワトソンが必要なのです」
「ご協力致します」
「では、この特急の車両の全てのゴミ箱を探って下さい。きっと手掛かりがあります」
「分かりました」
「私は亡くなった男性のバッグを調べます」
2人は席を立った。
仙岩寺は車掌のいる、死体の部屋に入った。
「先生、どうされました?」
「ちょっと、犯人を探そうと思いましてね。この人の持ち物これで全部?」
「はい」
仙岩寺はバッグの中を調べ始めた。日用品や書類が入っていた。
すると、コードがあった。仙岩寺はニヤリとした。
30分後。
仙岩寺とワトソンは席に付いていた。
「石神先生、収穫はありましたか?」
「はい。5号車のゴミ箱にこれを」
と、ハンカチで包んだモノを仙岩寺にみせた。
「これは、注射器とアンプルですね。さすが、優秀な助手です。このアンプルには何が入っていたのでしょうか?」
「多分、この文字を見ると、カリウムですね」
「カリウム?」
「はい。カリウムでも人を殺せます。これは、立派な殺人事件です。私以外にも、医療関係者がいます。しかし、どうやって捜すんですか?」
「まあ、段々と煮詰めていきましょう。私はバッグからこのコードを見つけました」
仙岩寺は石神にコードを見せた。
「これは、何かの充電器ですね」
「石神先生は何の充電器だと思われますか?」
「ん~~、デジタルカメラでしょうか?」
「さすがです。これは、デジタルカメラの充電器です。しかし、デジタルカメラはバッグにも、スーツのポケットにも入っていませんでした。誰か、デジタルカメラを持ち去った人間がいます。探偵さんです。デジタルカメラは必需品です」
「仙岩寺先生もお持ちですか?」
「いいえ、持ってません。私は素行調査はしませんので」
「デジタルカメラを持ち去った人間が、犯人ですね」
「はい」
「食堂車両に行きましょう。石神先生、コーヒーでも」
「はい」
2人は食堂車両でコーヒーを飲んだ。
「しかし、仙岩寺さん。この特急内には数百人乗車しています。どうやって犯人を捜すんですか?」
「それはご心配無く」
「連れがいるとおっしゃいましたよね?」
「はい」
「犯人と思われる食堂車両にいた人物が、被害者と共にこの様にコーヒーを一緒に飲んでます。ソイツを探しましょう。ちょっと!」
と、石神は店員を呼んだ。
「あのさ、この男性と一緒にコーヒー飲んでいた人物知らない?」
と、石神は預かった免許証を見せた。
「あ、このお客は1人で紅茶を飲まれていらっいましたよ。1人はコーヒー」
「コーヒーを飲んだのは?」
「分かりません。なにせ、これだけ大人数なので、誰がどのコーヒーを飲んだのはサッパリ分かりません」
「……ありがとう」
2人は車両へ戻った。
「仙岩寺さん、犯人は前の駅で降りた可能性があるんじゃ無いでしょうか?」
「それもありますね?」
「停車したのは京都でした。18時40分に停まり、43分に発車しています。これは車掌さんに聞きました。だいたい1時間前です」
「石神先生、直ぐに眠たくなる睡眠薬はありますか?」
「……ありませんね」
「クロロホルムと言う方法も考えられませんか?」
「アハハハ。色んな事を考えつきますね。仙岩寺さんは」
「充分考えられます」
「でも、クロロホルムでは後ろの席の乗客に見られる可能性があります。睡眠薬なら注射するだけで、済みますがクロロホルムは暴れるので危険です」
「とりあえず、被害者と共に食堂車両にいた人物を捜すのが1番手っ取り早いと思うのですが、中々ねぇ。後、40分もすれば名古屋駅です。仙岩寺さん、ここまで調べて犯人を逃すのは悔しくないですか?」
と、石神はタバコに火をつけた。
仙岩寺は、窓の外を見ながら、
「それもそうですね。ま、愛知県警ももう駅に待機しているので、何とかなるんじゃないですか?」
「えらい自信をお持ちのようで」
「車掌さんを3人とも呼んで来て下さい」
「……どういう意味ですか?」
「実は、車掌さんがヒントを握っていような気がしましてね」
「なるほど。怪しいのは車掌さんですね」
「はい」
石神は車掌を呼びに行った。
仙岩寺は、じっと、ちらほらと明かりが見えるようになった外の風景を眺めていた。
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