プラネットチルドレンの真世界~空想少年が紡ぐドタバタでハチャメチャな伝奇で青春なヒーロー伝説~

星宮華涼

【第一部――『黎明を告げる空想の旅人』】

Prologue

 水色は空、青色に宙――自分の中で一番簡単に連想できるものであり、好きなものが少ない僕が好きなものだ。好きなものに関して喋るなら、自分の事についてはあまり好きじゃない。

 いや、正確な表現をするなら、好きなところが見つからないし、自分ではわからない。しかし絞り出すなら、自分の髪色が空の色と同じことは好きだ。


 朝、七時。

 山の中、生い茂る木々が開けたところに平屋の屋敷があり、そこに住んでいる十二歳の少年、睦宮有一むつみやゆういちは起き上がる。

 確か、昨日は不安があったが、朝が弱い彼にとって昨日の悩みなどは今となっては存在しないと思えるほどに意識がまだ薄れている。建物構造の最奥、そこで寝ていた少年は布団から出て、横に置いてある肩紐付きの刀を手に取り、海の絵が描かれた襖を開け、縁側のくれ縁へ出て、通路を歩く。


 ここに住んでいる少年は今、起きたはずだが、全ての戸は開いている。

 ぼんやりとしながらも、自分が住んでいる家であるため、柱にぶつかることはなく、長い縁側の通路、その全体の真ん中で腰を下ろす。

 上から見れば、長方形である家。玄関がある正面から見て左側。白い小さな石が敷き詰められ、その奥は少し地形が上がりつつそこに段々と花々が植え並べられている。

 そんな光景が縁側から見え、眺めるにはちょうどいい景色となっている。

 この家を建てた人が金持ちであるため、最新な時代を生きる少年の配慮のために電気屋水回りの技術は今のもので備わっている。


「ふわぁ~」


 正座の体勢から足を崩し、自然と込み上げてくる欠伸をしながら、口の前に手をあてる。

 空と海を同じ色で表現している和服は着崩れ、片方の小さい肩が露出して今も尚ずれ落ちている。

 その少年の髪は肩まで伸び、幼い顔つきから横から見ると少女に見える。彼の成長は遅く、平均身長より下、小柄な少年が睦宮有一の特徴である。

 まだ眠気が消えることはなく、酔いが抜けるのを自然に待つが如く、ぼーっと少年は業火な庭を眺めている。


 しかし彼は『普通』からかけ離れている。

 それはなぜか。一般的に普通とは平均的の事を言うだろう。ならば、彼の身長が平均より低いから、彼が本当の両親を知らないから、実は自分の“睦宮むつみや”という苗字は引き取ってくれた人がつけた名前であるため、実の両親との繋がりなど本当に見当たらない。


 そして自分の中には何もない、空っぽだから……。

 すると床から伝わる小さな振動、誰かが近づいていることに気付く。


「有一、寝ぼけておるのか?」


「ん、おばあちゃん……」


 その人物は玄関、台所方面から来た人物は小柄な有一と同じ背丈であり、真っ白な着物に身を包み、白いストレートの長髪、しわやシミなど存在しない白い肌……有一がおばあちゃんと呼んだ人物の外見は一切老けているようには見えず、それどころか、十二歳である彼と同じか、年下の少女に見える。

 ちなみに初対面、呼び方について自分からそう呼ぶようにと言ってきたため、決して暴言ではない。


「寝ぼけておるなら、顔を洗ってきなさい。朝ごはんはもうできておるぞ?」


 少しかがみ、有一の様子を見る。

 そのちょっとした仕草、言葉遣いには古さというより年季を感じる違和感、子供でありながらも、おばあちゃんと呼ばれても違和感のない言動に普通なら脳の処理が追いつかないだろうが、彼女こそが睦宮有一むつみやゆういちの引き取った義理の両親兼おばあちゃんである。


 その名は白瑞真白しらみずましろである。


「うん……」


 有一は真白の言うことを聞き、洗面所に向かい、顔を洗い、朝食が並べられている和室に移動し、座布団の上に座る。


「はぁ~、相も変わらず、時間にルーズだな。まぁ、俺は別にいいが、これで学校に行けんのか?」


 義理の両親に含まれる人物その二。真白と同じく白く少し長い髪を後ろで縛った少年のような男性。紹介では真白の弟、白瑞白瀬しらみずしらせである。姉弟だからか、身長も真白より少し上だが、遠目から見たら、似ている。

 彼の担当は家事全般、むしろ姉である真白が命令しており、真白の方は朝のみ顔を出し、その後は仕事らしい。


「まあ、よい。急がせようと厳しくしようと、状況が良くなるわけがなかろう。意識改革は大の得意じゃが安心するがよい。今日は助力を、な。後は、妾の良いように――」


 この家の献立はバランスの良い、典型的なものだ。特に朝は。

 基本的に献立については言ってくれれば、望むものを作ってくれる待遇なのだ。


「……いただきます」


 有一の性格はマイペースだ。真白と白瀬の話はちゃんと聞いているが、有一のペースでは深くは考えない。学校は嫌なわけではない、今まで行ったことがないため、楽しみはしているが、朝が弱いのは仕方がない。


「ふむ、上手い」


「ありがとう。姉さん」


 基本的にこの家の中は賑やかとは言えないが、自分の本音を打ち明けることが得意ではない有一だが、この二人にはもちろん感謝をしている。

 我儘なんて思いつかない。自分の中にやりたいことがないから。望みを叶えられるなんて思ってはいない。


「ごちそうさま」


 少年はポツンとした存在だ。十二歳の子供、何の変哲もない存在。

 彼の境遇は決して普通まで満たされたものではなかったが、そんな少年、有一を白瑞真白しらみずましろが彼を養子にした理由、それは――


「じゃあ、気を付けての。まぁ、かの『真説学園しんせつがくえん』は妾が管理しておりからな。心配はいらぬが……一応じゃが、あそこじゃからの?」


 山の上にある家はこの神影みかげ市を見渡せる位置にある。

 首都から離れ、山に囲まれた地方都市だ。人口は毎年減少しているが、そんな人の状況に反して大きなショッピングモールや学校が建てられるなど市の意向としては人の活気を取り戻そうとしているのかもしれない。


 その市の中心、古びた学校を取り壊し、新しく建てた白い建物が目立つ。


「あれが『真説学園』じゃ。坂を降りれば、成坂真樺なるさかしんかという少年が待っているからの。妾の眼が間違っていなければ、友として仲良くできるはずじゃ」


「分かったよ」


 少年は肩に紐をかけ、刀を携帯している。


「じゃあ、しばしの別れじゃ」


「そんな大げさだよ」


「いいや、この間に有一、お主の望みが見えてくれるはずじゃ。その時を見逃すではないぞ? あと、他者には気を付けるのじゃぞ?」


「うん。じゃあ」


 非常に淡泊とした会話だが、彼なりに助言を聞き、坂道を歩いて行く。

 それを手を振り、見送る少女と少年の姿をした二人。


「本当に自力で任せていいのか、姉さん?」


「あぁ、良い。経験上、そしてあの子の潜在能力は特殊も特殊。まさか、一般の子にあれほどの力が宿るなんての。やはり、この世界は恵まれておるな。開花したなら、儀式に組み込む。別世界からの他所者も……全てを使い、我々の理想を実現させようじゃないか」


 不気味な笑み、少女でありながら、嫌な悪寒が空間を支配するような圧が白い少女から広がっている。

 その外見から始め、白瑞真白は異様そのものでありながら、真っ当な人間である。


 これは、そんな彼女が選んだ睦宮有一むつみやゆういちという旅人の物語である。

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