仲間に裏切られた魔法使い⑫




半年後



エルヴィスはマシューと共に街を歩いていた。


「魔法石を盗んだのはアルセだったけどエルヴィスは仲間に売られて冤罪で捕まったんだっけ」

「そうそう。 あの時は脳みそが爆発しそうなくらいにショックだったけどそれも大分和らいだわ」


二人は半年前の出来事を振り返っていた。


「あれからもう半年。 アルセが代わりに捕まって俺もショックだったけどエルヴィスがいてくれたから道を踏み外さない支えになった。 結局あの件についてはよく分からないことも多い。

 それに本当に俺自身もう諦めていたんだ」

「大袈裟だなぁ。 マシューにはまだグループが存在して仲間がいるだろ」

「そうだけど再会した時は気まずかったよ。 アルセの代わりに俺が戻っても素直に喜んではくれなかったから。 どうしても周囲からは厄介な人間だと思われてしまう」


マシューが釈放されアルセが捕まって以来エルヴィスはマシューと一緒にいることが増えた。

もう無関係だからとエルヴィスは離れようとしたのだが少なくともお礼がしたいということで度々会っていったのだ。


「仲間たちはアルセの正当防衛だってことを知っていたんじゃないのか?」

「事実はそうだとしても一般に周知されているのは俺が死刑囚としてのことだから」

「そりゃあそうか。 難しいものだな」

「うん。 だけどアルセが戻ってきたらまた旅を再開しようと思ってる。 解けかけた繋がりは少しずつ強固になってくれると思う。 ・・・それでエルヴィスはどうなのかなと思ってね」

「どう、って?」

「エルヴィスと元々のグループにも多くの人生が詰まっていると思うんだ。 ただそれはたった一つの過ちで壊れてしまった」


マシューはエルヴィスのグループに誰がいるのかは知らないが起きた出来事は全て聞いていた。


「いや、たった一つの過ちじゃないぞ?」

「というと?」

「俺が知らなかっただけでわだかまりは少しずつ大きくなっていた。 あんなことが起きていなかったとしてもこの先上手いことやっていけたとは到底思えない。

 どうやら原因は俺のせいらしいけど、魔法使いがトドメを刺すってマシューのグループだとなかったのか?」


マシューに自身のグループで起きていた問題を包み隠さず話した。 一般的にはよくある問題でも他のグループでどう対処しているのかは気になるところだ。


「なるほど。 ウチでもトドメを刺した人間が多く報酬を得られることに変わりはないよ。 ただその後空気を読んで分配するみたいなことはあったかな。

 もっとも魔法使いがいなかったからトドメを刺す人間が固定されることはなかったしエルヴィスのところとは一致しないのかもしれない」

「俺が魔法使いになったのが悪かったのかなぁ」

「そんなことはない。 ウチでも遠隔攻撃を担当するメンバーがいるけど、それでも魔法のような威力はないんだ。 魔法があれば、そんな状況をこれまで何度となく経験している。

 それにエルヴィスが魔法を憶えていなかったら今頃俺はこの世に生きていなかっただろうし」


脱獄できたことは本当にエルヴィスのおかげだったと言えた。 もしアルセ一人で牢屋の前までやってきたとしても牢を破壊することはできなかっただろう。


―――もしかしたらアルセはそんなことも分かっていて、最後に望みをかけたのかもしれないな。


そうしているうちに酒場を通りかかった。 その時偶然ブレントがいるのを発見する。


「・・・ブレント」


昼間から酒を飲んで荒れた様子のブレント。 ブレントもエルヴィスの存在に気付きこちらをチラリと見た。


「・・・もしかしてあの人が?」


マシューが尋ねてくる。 だがブレントは数秒エルヴィスを見ると不機嫌そうに視線をそらした。


「・・・見て分かっただろ。 俺のグループはあんな感じさ」


そう言って足早に歩き出す。 ブレントも一度は捕まった。 だが魔法石が戻ったことによって映し出された新たな防犯カメラの証拠で早めに釈放されたのだ。 その後ブレントはオスカーを見捨てたらしい。

結託はしていたが防犯カメラに映っていたのはエルヴィスの恰好をしたオスカーだけだったため主犯はオスカーだと断定された。


「もう一人は? 女性がいる、って言っていなかった?」

「アイツはまだオスカーのことを待っているらしいぞ。 だけど需要の関係で今は他のグループで活動しているんだと」

「そうなんだ・・・」

「見ての通り俺たちはもうバラバラだ。 元通りになる道はない。 ・・・残念かどうかは分からないけど」


その言葉にマシューは不安そうに尋ねてきた。


「・・・本当にいいんだね? もう後戻りはできないよ?」

「当たり前だ」


そうして二人はかつてお世話になった建物へとやってきた。 しばらく待っていると今日釈放されたオスカーがひょろひょろと建物から出てきた。


「よう、オスカー」


そのエルヴィスの声にオスカーはゆっくりと顔を上げる。 そして驚いた表情を見せた。


「エルヴィス・・・! 迎えに来てくれたのか?」


それを嬉しく思ったのか縋るように手を伸ばしてきた。 触れられないようにエルヴィスは後退る。


「・・・?」

「違う。 別れの言葉を言いにきたんだ」

「え・・・?」

「俺には新しい仲間が手に入った。 だからもうオスカーたちなんて必要ない」

「そんな・・・」

「ありがとな、三年間。 とても楽しくて濃い人生だった」


オスカーはその場に崩れ落ちた。


「ただ俺は袂を分かつけどオスカーのことを待ってくれている人が少なからずいる。 その期待を裏切るような真似だけはするなよ」


―――どんなに信頼していてもいつかは信頼を失い裏切られることもあると知った。

―――だから俺は今に全力を注いで精一杯に生き今の時間を大切にしようと思えることができたんだ。


エルヴィスは踵を返し向かったのはマシューと釈放されたアルセのもとだった。






                                -END-



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仲間に裏切られた魔法使い ゆーり。 @koigokoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ