仲間に裏切られた魔法使い⑪




アルセは外から侵入するための長い梯子を用意していた。 以前はなかったことからどこかに隠しておいたのだろう。 かなりの長さがありギリギリ上部の窓まで届きそうだ。


「いや、今すぐって・・・」

「まだ時間はあるんだろ。 牢屋の破壊は俺がやった方がいいよな? ドラゴンはしばらく使えないだろうし」


そう思い早速魔力を溜め始めた。 だが午前中より更に魔力がなくなっていて溜まるのが遅い。


「・・・すまないがお願いしたい。本当はドラゴンを置いていくつもりなんかなかったんだが、追手がかかってしまってどうしようもなかった」

「魔力を溜めるのにかなり時間がかかるぞ?」

「それは構わない。 今すぐとはいってもこんなに明るくてはすぐに見つかってしまう。 姿が見えにくい夜に侵入すれば騒ぎになりにくい」

「はは。 流石経験者の実体験は重みが違うな」

「おいおい、それを言うなよ。 それに魔法石の隠し場所まで行けばもっと魔力が溜まりやすくなるんじゃないか?」

「確かにそうかもしれないけど、今アルセは指名手配されているんだ。 あまり動き回らない方がいいだろ」

「それもそうか。 ・・・何かさっきとは立場が逆になってしまったな」

「そもそも俺は冤罪でだな・・・。 まぁいいや」

「迷惑をかけたことは本当にすまないと思っている。 一つ聞きたいんだけどエルヴィスは牢屋の檻を壊して脱獄してきたのか?」

「あぁ。 でも今の魔力ならそれでも時間はかかるだろうな。 いや、そうか。 俺の魔力が少ないということは牢屋は更に脆くなっているということか」

「大きな音で魔力を放てばそれだけで看守たちに気付かれる。 だからそもそもチャンスは一度だ」

「仲間はどこにいるのか分かるのか?」

「・・・ごめん。 流石に仲間がどこの牢屋にいるのかまでは分かっていない。 たくさん階もあるし探すのは大変だろうな」

「仲間ってどんな奴?」


特徴を聞いているうちに今朝エルヴィスの牢屋の前にいた男の特徴と一致した。


「まさか・・・」

「どうした?」

「アイツは確か半年前の殺人事件の犯人・・・。 アイツはアルセの罪を被った冤罪だったのか」

「もしかして知っているのか!?」

「思えばアイツも仲間のことを話していた! きっとソイツだ!!」

「その俺の仲間はどこにいる!?」

「俺がいた牢屋の向かい側だ!! ソイツも『時間がない』とか言っていたしそれはきっと明日が死刑執行だったからだ」


エルヴィスは建物を見上げる。 エルヴィスが抜けてきた窓は未だに開いておりそこまでの中のルートは分かっていた。


「なぁ俺だけでも魔法石の近くで充填したいんだけど魔法石は今どこにある?」

「・・・ここから少し離れた森に隠してある。 俺が行かないと場所は分からないと思うけど」

「それでも構わない。 近くにさえ行けば多少の効果はあるだろ。 魔力さえ溜められたら何とかできる」


何となく頭の中で計画が組み上がっていく。


「じゃああの窓から侵入すれば俺の仲間のところへは行けるんだな」

「あぁ、行ける。 上の様子は分からないけど今度は梯子があるから問題ないと思う」

「梯子を使えば安全に降りられたのにすまなかったな。 あの時は梯子を人に見せるわけにはいかないと思ったから」

「もう俺が頼った時には落ちかけていたから梯子なんて準備できなかっただろ。 それに痛かったのはドラゴンだしな」

「魔力不足で大変な思いをしているから終わったらドラゴンには美味いものでも食わせてやらないと」

「そうしてやってくれ。 俺の目の前で魔力不足で消えていったよ」

「そうだったのか。 ドラゴンに囮になってもらわないと逃げられそうになかったからさ」

「囮か。 どうしてしまっていかなかったのかと思っていたけどそういうことだったのか」


穏やかな表情をしていたアルセだったが覚悟を決めたような顔つきになった。


「俺も一緒に行っていいか?」

「助けたい気持ちは分かるけどここにいてくれないか? アルセには仲間を受け止める役目がある」

「受け止める・・・?」


一度別れて森へと行き魔法力を十分に溜めた。 辺りが暗くなった頃に戻りエルヴィスは梯子を使って開いている窓から侵入した。 そして無事アルセの仲間マシューのもとへと向かうことができた。


「よッ」

「・・・君は、今朝の・・・。 脱獄したからか大変な騒ぎになっていたよ」

「まぁ、そうだろうな。 でももう一度その騒ぎを聞くことになる」

「え・・・」

「今度は牢屋の外でな」


エルヴィスは長時間溜めていた魔力で牢屋の格子を破壊した。 対策されたのか今度は警報が鳴る。


「急げ!!」

「う、うん・・・」


明日死刑というのは嘘ではないのだろう。 マシューの顔は諦めてしまったような表情をしていたが脱獄を促すと急ぐように牢屋から出てきた。 だが体力がないのか動きが遅くこのままでは捕まってしまう。


「俺に掴まれ!!」


来た道を戻り梯子から外を見下ろした。


「受け止めてくれよー!! よし、ここから飛び降りるんだ」

「え!? いや、それは流石にッ・・・」

「大丈夫。 下にいる奴が絶対に受け止めてくれるから」


マシューの体力では梯子をのんびり降りている時間はないと思いそう提案した。 マシューは勇気を出し飛び降りると今度はきちんとアルセが受け止めてくれた。


「アルセ・・・! 会いたかった・・・!!」

「今まで助けにいってやれなくて本当にごめん。 俺も会いたかった・・・ッ!」


エルヴィスも梯子で下へ着く頃にはアルセとマシューは再開して抱き合っていた。


「・・・いいところ悪いんだけど大事になる前にもう一度本当のことを警察に話しにいった方がいい」


それに二人は頷いた。 ここまでしなくてもよかったのだが警察が何も話を聞いてくれないのなら仕方がなかった。

最終的にアルセは捕まったが魔法石が無事戻ってきたということでそれ程大した罪にはならないようだった。



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仲間に裏切られた魔法使い ゆーり。 @koigokoro

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