仲間に裏切られた魔法使い⑩




エルヴィスも一度街へ戻って捜索を再開する。 だがアルセの行き先は全く分からず途方に暮れていた。


―――このままだとマズい・・・。

―――もしあんなに親切なアルセが本当に犯人だったら魔法石を盗んだ深い理由がきっとあるはずなのに。


街全体を見渡してみる。 アルセは髪のこともあり目立つ格好をしている。 ただ指名手配されている現在、何の変装もしていないとは考えにくい。


―――見えるのはアルセを追奔逐北しているだろう警察ばかりだな。

―――警察に捕まってしまう前にまずは俺がアルセを見つけ出したい。


これだけ捜して見つからなければもう街にはいないような気がした。 そうすると気になるのは先程のドラゴンのこと。 アルセといる間は元気だったのに今弱っていたのは魔力が足りないから。

では何故魔力が足りないかというとアルセが近くにいないからだろう。


―――魔法石が神殿にある時と今では明らかに魔力の放出の度合いが違っているだろう。

―――それでも近くにいれば魔法が使えていた。

―――アルセは一体どこへ行ったんだ・・・?


考えているうちにアルセと出会った時のことを思い出す。


―――思えばどうしてアルセは牢屋の傍にいたんだ?

―――警察の反応を見るに脱獄犯っていう感じでもなさそうだったな。


牢屋は罪人を閉じ込めるための場所で周りには何もない。


―――じゃあ、あそこにいたということはそこに何か用でもあったのか・・・?

―――そもそも魔法石を盗んだ犯人がアルセだとしてどうしてそんなことをしたんだろう。


そう考えた時エルヴィスは牢獄へ向けて駆け出していた。


「これは時間がかかるな。 しかも魔法力がないと俺はかなり疲れるし」


行きはドラゴンに乗っていたこともあり帰りは大変な道のりではある。 ただアルセのことがどうしても気になり夢中で走った。

魔法力もなければ体力も人並みでしかないエルヴィスではあるが気付けば目的地へ到着していた。


「時間はかかっちまったけど・・・」


呼吸を整えながら牢獄の周囲を見て回る。 そして予想は的中し牢獄の近くでアルセの姿を発見した。


「アルセ!!」

「ッ、エルヴィス・・・。 どうしてここが」


牢獄を見上げていたアルセだったがエルヴィスの声に反応した。


「何の理由もなくこんなところへ来るはずがない。 そう考えた時自然と足は動いていた」

「・・・」

「・・・アルセなのか? 魔法石を盗んだのは」

「・・・あぁ」

「警察が今アルセを捜し回っているぞ」

「分かってる。 でも今は魔法石を持っていない」

「だろうな、魔法力が全然戻らないし。 どうしてこんなことをしたんだ?」


問うとアルセは寂しそうな目で牢獄を再び見上げた。


「・・・捕らえられている仲間を助けるためだよ」

「仲間?」

「半年前俺は通り魔に襲われてその反撃として相手を殺してしまったんだ。 もちろん殺す気なんてなかったさ。 ・・・だけど警察によると『犯人は皆そう言うんだ』って」

「・・・そうだな」

「俺はやってしまった負い目から警察の拷問に近い追及を甘んじて受けた。 何度も死ぬかと思った。 だけどそれを知った仲間のリーダーが庇ってくれて俺の代わりに捕まったんだ」

「俺の元仲間とは大違いだな」

「罪悪感に苛まれる毎日で俺は何度も自首をしに行った。 だけど警察は誰も信じてくれない。 仲間の解放もしてくれない。 ・・・だったら俺が直接助けに行くしかないだろ?」


そう言うアルセの目は既に正気を保っていなかった。


「いや、落ち着け! 仲間を救うもっといい方法があるかもしれないだろ!? 俺と一緒に考えようぜ!!」


そのようなことをしてしまえばアルセは即捕まってしまうと思い止めようとした。 だがアルセは首を横に振る。


「もう遅いんだ。 仲間の死刑執行日は明日。 悪いことなんて何一つしていなかったけど、俺たちはそれなりに目立ったグループだったから警察としても目障りだったんだと思う」

「それだけで死刑になるのか!?」

「本来であれば死刑になんてなるはずがない。 ・・・もしかしたら俺が自首しようとしても聞き入れられなかったのはリーダーを処分するのが本当の目的だったからなのかもしれない」

「酷過ぎる・・・」

「だからもう今日しかチャンスはないんだよ」


そう言われると何も言うことができない。


「・・・だけど何故魔法石を盗んだんだ?」

「エルヴィスは今日どうやって脱出してきた?」

「え?」

「牢屋には強い結界が張られているから脱出は不可能。 だったら魔力を奪ってしまえば牢屋を破壊できると思ったんだ」

「確かに結界が薄まったおかげで俺は脱獄できた。 でも今朝もここにいたんだろ? だったら今朝すぐに実行すればよかったじゃないか!」

「そうしようと思っていたさ! 準備が整い、今だという瞬間にエルヴィスが落ちて来たんだろ!!」

「あ・・・」

「エルヴィスが降ってきたと思えば警察に追われているし、俺も捕まって事情聴取されれば石を盗んだ犯人が俺だとバレる可能性がある。 だからいったん逃げたまでさ」


自分のせいで計画を台無しにしてしまったと分かり何となくバツが悪い。


「あー、そうだったのか・・・。 悪いな、タイミングが悪くて」

「別にいいよ。 今ここへ戻ってこられたんだから」

「なら今すぐに救いにいこうぜ。 捕まった仲間をさ」



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