HAPPY HELLOWEEN!!🎃👻🍭

入江 涼子

第1話

 あたしは1人きりで不思議な空間の中を歩き続けていた。


 確か、さっきまで友人の亜希と一緒だったはずなのに。辺りを見回してみても、ぷかぷかと浮かぶ蝋燭やカボチャのジャック・オー・ランタン、グレーの霧くらいしかない。しかも、薄暗いときた。仕方なく、人を探そうと歩くのを再開したのだった。


 * * *


 今から、遡ること夕方に。あたしもとい、倉敷真夜くらしきまよは友人で同じ高校のクラスメイトに当たる榊󠄀亜希さかきあきと2人でハロウィンのコスプレをしていた。あたしが魔女っ子なら、亜希はシーツお化けの仮装だ。ちなみに、顔の部分は目や鼻、口の辺りは切り込みが入れてある。しかも、動きやすいように膝丈だ。


「ねえ、真夜。ハロウィン、楽しみだね」


「うん、今日は同じクラスの梅田さん家に集合だったよね?」


「そうだよ、それで。梅田さんのお母さんに「トリック・オア・トリート!」って言って。お菓子や飲み物をもらう予定なんだ」


 表情はよく見えないけど、亜希は楽しそうにしている。声のトーンなどであたしにも分かった。


「じゃあ、そろそろ行こうよ」


「うん!」


 あたしと亜希はコスプレのままで夕暮れ時の街に繰り出した。


 テクテクと歩きながら、亜希と梅田さんの家を目指す。街の通りには思い思いに仮装姿の人や普段着姿の人など、いろんな人々がいる。あたしと亜希は何とはなしに歩きながら、それを眺めていた。


「やっぱり、ちらほらといるね」


「うん、もっとたくさんいるかと思ってたけど」


 そんな事を言いつつも足は止めない。亜希が先に歩きながら、梅田さんの家まで案内してくれた。あたし、行くのは今日が初めてなんだよね。一生懸命に亜希の後を付いて歩いた。


  徐々に辺りが暗くなっていく。急ぎ足で歩いていたら、梅田さんの家に着いたらしい。亜希が口を開いた。


「ここが梅田さん家だよ、真夜」


「やっと、着いたあ。意外と遠かったね」


「……うん、あれ?」


「亜希?」


「おかしいなあ、もう日が暮れているのに。梅田さん家、明かりがついてないね?」


 あたしは驚きながらも、亜希が見ている方に目を凝らした。確かに、梅田さん家の窓からは明かりが洩れていない。おかしいな、お母さんや梅田さん、皆はいないのかな?

 首を傾げていたら。目の前に真っ黒な煙みたいなものが立ち込める。


「……真夜?!」


「あ、亜希!!」


 互いに大きな声で呼び合ったが。あたしは呆気なく、煙状のものに囚われてしまう。亜希の必死に呼ぶ声だけが響いていた……。


 * * *


 そして、今に至る。ゆらゆらと空間自体が藍色や紫に揺らぐ。歩き続けても、果てが見えない。立ち止まり、あたしはふうと息をついた。


『……ふむ、珍客さねえ。あんた、こちらに迷い込んだ堺人さかいびとかい?』


「だ、誰!?」


『ああ、あたしはあの世とこの世の境目を守る番人さ。この世では魔女とも呼ばれているがねえ』


「魔女かあ」


『ふむ、境人もとい、嬢ちゃん。あんた、元の場所に戻りたいかい?』


 魔女こと境目の番人らしき女性は真剣な表情で問いかける。黒い三角帽にマント、足首丈の同色のワンピース姿だ。片手には短い杖みたいなのを持っていた。本当に魔女らしいけど。

 あたしは番人を見ながら、おもむろに頷いた。


「はい、戻りたいです。亜希も心配しているだろうから」


『……そうかい、分かったよ。あたしが嬢ちゃんをこの世まで帰してやるよ、その代わりに。あんたが持つ物を1つもらう』


「……あたしが持つ物かあ、なら。ポケットにがあったはずなんだけど」


 あたしは考えながら、衣装のスカートにあるポケットを漁る。ゴソゴソとしていたら、固い石が指先に当たった。出して、番人さんに見せる。


「あった、番人さん。これは引き換えにできますか?」


『おや、それは。ちょっと、貸しておくれ』


「分かりました」


 頷いて番人さんに石を渡した。彼女はそれを指先で弾いたり、杖をかざしたりと調べ始める。あたしは待ったのだった。

 

 しばらくして、番人さんはふむと頷いた。


『合格だ、あんたが渡した石はいわゆるパワーストーンだね。しかも、結構珍しい品ときた。これ、この世で言う「オパール」じゃないかい?』


「はい、昔にお父さんが誕生日プレゼントにくれました。いつも、お守り代わりに持っていたんです」


『そうか、分かったよ。ありがとう、もらったオパールは大事にする。さ、時間だ。目を閉じな』


 あたしは頷いて、瞼を閉じた。番人さんは何かを唱え始める。


『……我を守護せし冥王よ、かの者をあるべき所に帰し給え!!』


 途端に、目の前が真っ白な光に染まったらしい。意識もそこで途絶えた。


 * * *


 はっと我に返った。辺りは真っ暗で目の前には泣きそうな顔の亜希がいた。


「……良かった、真夜。いきなり、黒い霧みたいなのに飲み込まれてさ。あんたが消えちゃって。凄く、あっちこっち探し回ったんだよ!」


「え、そうだったの?!」


「うん、梅田さん達と手分けしてここら一帯を探したんだけど。全然、見つからなくてさ。お母さんが警察に電話するって言い出すし。真夜がいない間、大騒ぎだったんだから」


「ごめん、亜希。梅田さんや皆、お母さんには謝らないとね。でも、心配して探し回ってくれたんだ。ありがとう」


「うん、真夜が無事で良かった!さ、中に入ろうよ!」


 あたしは頷くと、亜希と一緒に梅田さんの家に向かった。見たら、煌々と暖かな明かりが洩れていた。


 ――END――


 


 

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