第2話 ふってばかりの女の子

 「あぁ、またふられている…。」


 彼には悪いがホッとしている。もう彼は何度もここ体育館裏でふられている。親友の情報網の正確さには感服する。今日この時間に彼が告白することを教えてくれた。


 朝聞いたときから気が気じゃなかったので、今日1日何も手につかなかった。きっとあいつのことだから成功しないに決まっている。しょうがない幼馴染として慰めに行ってやろう。


 「かっこわる。」


 ふられたばかりの彼に声をかける。彼がにらんでくる。


 「またお前か、今回はバレないようにしていたのに、なんでそう毎回毎回人の告白を覗くかね。」


何だか悪態ついてくる。


 「毎回毎回かわいそうだから慰めてあげようかなっておもっているだけよ。」


 つい強がってそんなことを言ってしまう。今さっき彼がふられているのをみて顔が綻ぶ。


 「何だかその顔腹立つ。」


 「その顔って特になんにも言ってないし。」


 「何だかそのニヤついた顔がムカつく。そんなに俺が振られるのが嬉しいかね。」


 そんなつもりはないのだが、それについケンカ腰で応えてしまう。


 昔はそんなんじゃなかった。体も弱かった私は外であんまり遊ばなかった。家で本を読んだりするのが好きだった。でもあいつの家の前に引っ越したときから世界が広がった。


 彼は自分の知らない世界を知っていた。初めのうちは彼の体力についていけなかったのでいやだったが、途中から彼が十分配慮してくれているのに気づいた。自分よりもまず私を大切にしてくれているのがわかってからは全幅の信頼を置いている。


 小学校は彼と放課後何して遊ぶのかが楽しみだった。中学に入ってしばらくしたとき、いつもいっしょに登下校していたのだが急に


 「お前とはいっしょに行かない!」


って言い出した。理由を聞いても


 「それは言えない。」


の一点張りだった。


 私が女の子というのもあって、背が大きくなり彼の方が小さくなった。それでも私は彼が好き。いろんな世界を広げてくれた彼が好き。最近話さなくなった彼が告白するというと、つい心配になって見に行ってしまう。今日もふられてひと安心だ。


 ふられて思わずニヤついてしまった。いかん顔に出てしまった。でも彼には


 「別ににやけてなんてないよ。」


 と返した。


 「だいたい何なんだよ。お前みたいな美少女が、俺みたいなのの近くにいちゃダメなんだよ。」


 「だって家帰る方向いっしょじゃん。」


 「そうじゃなくって!みんなの憧れ我が校のアイドルさんが、俺といちゃダメなの。」


 「なんで?どこにいようと私の自由でしょ。」


 「何でもいいけど、ダメなもんはダメなんだ。」


 強く来られると私も強く返してしまう。まずい、いつものケンカのパターンだ。


 「何言ってんの、何一つ私に勝てないくせして命令しないで。」


 「くそ〜、言い返せない。」


 「へぇ〜、何か勝てるものでもあるの〜?」


 と彼を挑発してみる。彼がにらんでくる。


 ぐうの音も出ない彼をみているとちょっとかわいそうになった。そうしたら彼が言ってきた。


 「わかった、俺が新しい彼女を作れたら俺のことを認めろ!その上から目線をやめろ!」


 「はあ〜、何言ってんの!」


 いきなりの言葉に動揺する。なんでどうしてこうなった。気がついた時には彼はもう背中を向けて歩いていた。


 「なによそれ!なんなのよ!」


 慌てて声をかけたけれど、彼は振り向かずに行ってしまった。


 ちょっと待って、私も彼に自信を持ってもらって昔のように引っ張ってもらいたい。そのためには私が負けるのがいい。負けるためには、彼に彼女ができないといけないということ?


 「だめ!それだめ!」


 つい口に出てしまったけれどいったい何のために今まで努力してきたと思ってんの。

 勉強は褒めてくれたから頑張ったし、かわいい子が好きって言うから頑張ってかわいくなろうと努力しているし、生徒会長だって先生に言われたときは辞退したけれど、あなたに


 「お前ならできるよ。」


 って言われたからやったんじゃん。みんなあなたに褒めてもらいたいだけなのに何で!


 部長だって委員長だってやっている。そっちこそ何すれば私を認めてくれるの?あの約束忘れちゃったの?


 私は泣きそうになったけれど、もうずいぶん待っている。ここで諦めるわけにはいかないのだ。数多ある告白を断っているのは、たった一つの告白を待っているだけなの。それなのに…。


 もう夕日はとっくに沈んで姿を消してしまったけれど雲が真っ赤に燃えていた。その赤が彼女を包んでいたが、やがて暗く沈んでいった。

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ふられて! 風月(ふげつ) @hugetu2

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