テーマはアイドルでありながら、本作が真に見つめているのは登場人物たちの内面である。物語全体には言いようのない不安が漂い、人間関係は常に均衡を失いかけたまま続いている。一人称の語りによって、二人の繊細で壊れやすい感情が描かれていくが、現実では時間が流れているにもかかわらず、彼女たちはいつまでもあの蒸し暑い夏の中に取り残されたままのようだ。
心の揺れと過去の記憶が交錯し、前に進みきれず、立ち止まったまま何度も引き戻される。時間は主観の中で引き延ばされ、ほとんど静止したような感覚となり、物語全体のリズムと感情の基調を形作っている。
作品の文体には強い文学的な質感があり、「美と汚辱」「生と死」「前進と停滞」「未成年と成人」といった対比が鮮やかに浮かび上がる。それらは単なる演出にとどまらず、二人の歩調のずれや感情の噛み合わなさを浮かび上がらせ、関係性をいっそう脆く、そして現実的に映し出している。
二人は互いに依存しているというよりも、相手の幸せを願うあまり、自分を見失っていくように見える。「誰かのために生きる」という感情こそが、彼女たちを少しずつ自分自身から遠ざけてしまうのだ。
二人にとっての「幸福」は、形になるまで常に矛盾と曖昧さを孕んでいる。もしこの世に疑う余地のない幸福があるとすれば、それはもはや追い求める必要のないものとなる。だからこそ、人はその不確かさに惹かれ、何度も手を伸ばしてしまう。たとえその姿が、不器用であったとしても。
最終話の構成は実に見事だった。作者は主軸ではないキャラクターに物語の締めを託し、そこに特別な「距離」と「位置」を与えている。語りには具体的な名前が登場せず、関係性の説明も意図的に留保されていた。それによって物語の残響がいっそう深く、静かに広がっていく。
結末ではタイトルと出会いの季節が回収され、時間と関係性が穏やかに、けれど確かに前へと進んでいる。そのキャラクターは、まるで読者と肩を並べて立ち、舞台の縁から二人の変化を見届けているようだった。彼女たちはもう舞台の中心にはいないが、たしかにそこにいた──その痕跡だけが、そっと残されている。
……こんな構成、あまりに狡猾すぎる。悔しいほど巧い。こんなにも成熟した作品に出会えるなんて、ただただ感嘆するばかりだった。
言葉にならない高揚と、夏の終わりにだけ残される静かな余韻。私のなかに今も響き続けている。
推しのアイドル「凛奈」が卒業してしまい、心の拠り所を失ってしまった「世奈」でしたが、ある日、バイト先でそのアイドル「凛奈」と偶然の再会をします。
憧れの存在との夢のような時間を過ごす世奈でしたが、凛奈は凛奈で自身の「最後の地」を探しているところなのでした。
一方の世奈は、アイドル「凛奈」の存在でつらい家庭環境をぎりぎりで耐えている状態でした。
やがてふたりは互いの事情を知ることとなり、アイドルとファンという関係ではなく、女の子同士で惹かれていくようになっていきます。
そこには共依存のような危うさがあり、また、つらい現実を見て見ないふりをする日々でもあり……。
主人公ふたりの心の痛みが丁寧に描かれ、それを舐め合うようなふたりの関係には百合とは違った尊いものが感じられます。
互いに依存しつつも、このままではただ問題を先送りしているだけだと自覚しながらも、解決への道を進めない日々。けれども一方が前を向き始めると、置いて行かないで欲しいと願ってしまう心の脆さ。
どのような結末を迎えるのか、最後まで見届けたい作品です!
百合や共依存といったワードに惹かれる方、痛みや不幸の中で生きていく姿に共感を覚える方、ぜひとも一読くださいませ!
※このレビューは「第52話 身体で繋ぎ止めたくて」が最新話の時に書かれたものです。
推しの握手会に行った主人公は、その会場で行われたミニライブで、推しの卒業を知らされる。それは主人公にとって、支えがなくなることを示していた。何故なら主人公の彼女にとって、アイドルである女性は日常で生きる活力そのものだったからだ。
主人公は女子高校生でありながら、日中に書店でバイトをしていた。推しを失った主人公は、バイト先でも荒んでいった。そんな中、一人の女性が主人公に声を掛ける。
その女性はこの辺りを観光していたらしいのだが、実は自分の素を探していた。そんな女性の旅に巻き込まれる形で、主人公は行楽地などを案内して回る。その度の中で、主人公と女性の距離は縮まっていく。
しかし、女性も訳アリであると同時に、主人公もまた、辛い過去、そして秘密を抱えていた。女性は主人公を助け、二人の距離はますます縮まっていく。
心の支えを失った女子高校生と、素の自分を探す女性。
冷たかった手は、お互いに温め合うことを欲しているようだった。
百合小説というだけではなく、家族の在り方や、生き方の物語。
百合が苦手な方にもお勧めの一作です。
是非、御一読下さい。