ふられて!

風月(ふげつ)

ふられて!

第1話 ふられてばかりの男の子

 「ごめんなさい。あなたとはつきあえないです。」

 

 そう言って目の前の女の子がお辞儀している

 

 「そっ、そう。ご、ごめんね。今日は時間とってくれてありがとう。」

 

 最近夕焼けが目に染みる。古式ゆかしき告白の作法として、体育館裏で告白をした。俺は今話していた女の子の背中をぼぉっと眺めながら、夕焼けの赤い色が赤いと思っていたところだった。


 「かっこわる。」

 

 後ろを振り返った。俺はため息をつく。


 「またお前か、今回はバレないようにしていたのに、なんでそう毎回毎回人の告白を覗くかね。」


 「毎回毎回かわいそうだから慰めてあげようかなって思っているだけよ。」


 「それは余計なお世話だね。自分の始末ぐらい自分でつけられる。」

 

 「そんなこと言っちゃって、そんな顔してよく言うわね。」


こいつだ。俺の心を逆撫でするようなことを言ってくる幼なじみだ。家が向いなのと歳が同じなので、昔はよく遊んだ。お互いの両親は今も仲が良いので交流があるようだが、近頃はこいつとはいっしょにはいないのだ。


 「どんな顔でもいいだろ。学校一の美少女さんに言われてもなんとも思わないね。」


 「ほお強がっちゃって。昔からそういうところあるよね。小さいのに頑張っちゃって、小学生のとき年上の子達とケンカもしてたよね。」


 「それはお前が泣いてたから…。」


 「泣いてたから何?」

 

 「なんでもない!」


 いつもこうだ、普通に話したいのにケンカになってしまう。昔は彼女も小さかった。色が白くて弱々しかった。向かいに引っ越してきたときは、おばさんの後ろから出てこなかった。いつも家の中にいて青っ白い顔をしていた。


 母さんたちが仲良くなったのでそれでお互いも仲良くなった。仲良くなったら宿題を教えてくれた。普通にみんなが解ける問題は俺も解ける。だがこいつは違う、解けない問題も考えて考えて解いてきた。クラスの中で勉強ができる子という立ち位置を確立していった。


 俺は友達として鼻が高かったし、あいつも友達と思ってくれていたのだと思った。小学校の頃は楽しかった。高学年になると身長が低かったあいつが、だんだん伸びてきた。卒業するころには大人のように大きくなり、今の俺はもう完全に抜かれていた。


 中学校に入ったあとはもうあいつは伸び伸びとやっていた。勉強はできる、身長も伸びたので身体能力も高い、みんながあいつに一目を置くようになっていった。それでも昔のように接してくるあいつには感謝していた。


 でもある日聞いてしまったんだ。あいつの唯一の汚点が俺だということを。


 カンペキ美少女、モデルのような容姿や体型、学力に運動能力もトップクラス。そのあいつの評価を下げているのは俺だということを知ってしまった。


 「何で我が校のアイドルがあんなちんちくりんといっしょにいるんだろうね。」


 何気ない一言だったんだろうけれど、俺の心の奥を貫いていった。次の日から登下校一緒に行っていたのをやめた。あいつには怒られ理由を聞かれたが言えなかった。それ以来よくケンカするようになった。まあそれであいつの評価が上がるのならばいいだろう。


 だからだんだん疎遠になっていった。会えば口ゲンカになることが多い。今も口ゲンカ中だ。


 「いったい何回ふられればいいのよ。」


 「回数なんて数えてない!」


 「教えてあげようか、5月は2回、6月は1回、9月に1回…。」


 「やめろ!そんなの数えるな!」


 「だいたい節操がないのよ。本当にその子たちのこと好きになったの。」


 「あったりまえだ。それじゃなきゃ告ったりしない。」


 「なんだか目があってちょっと楽しくしゃべっただけで、”きっとあの子俺のこと好きになったんだ。”って勘違いしていない。」


 「そ、そんなこと思ってない!」


 「男子って、すぐこれだから嫌よね〜。本当にただ目があっただけなんだけれどね〜。」


 「うっ。」


 そのとおりだ。でも全く脈ないわけではないだろう。


 「男子って大きな括りにするとわかっている男子に申し訳ないですね。あなただけがそう思っていことにしておかないとだね。」


 「なんだか腹が立つな。」


 「図星だから腹が立つんだよ。ズ・ボ・シだね〜。」


 「そんな人がふられたときに言わなくてもいいじゃないか。」


 「だから昔のよしみで慰めてあげようとしたら、そっちが攻撃的だっただけじゃん。」


 「そっちこそ、このあいだイケメン元会長からの交際断ったそうじゃん。」


 俺は苦しまぎれにおみまいする。


 「だって初めてしゃべった会話が”付き合ってください。”って言われて、”はい、つきあいます。”って言える?まだ何にも知らないのに。」


 「生徒会会長やってたぐらいだから、人望も厚いだろ。しかもイケメンだし。」


 「私中身で決めるから、容姿は関係ない。」


 こいつ一度決めたら聞かないんだよな。


 「中身だっていいだろうよ。」


 「初めてしゃべったんだからわかんないよ。あなたなら小さい頃からいっしょだからよくわかっていますけれどね〜。」


 「くっそ〜、知られたくないことまで知っているよな。」


 「はい知ってまぁ〜す。あんなことやこんなことまで。」


 もうぐうの音も出ない。


 「それにしてもそんなにふり続けなくったっていいだろ。お前が誰とも付き合わないのは有名になったよな。」


 「別に有名になりたい訳じゃないわ。」


 それでも玉砕覚悟の男子が何人も挑戦していると聞く。


 「男子たちがかわいそうだと思わないんかね〜。」


 「お情けでつきあう方がいやでしょうよ。」


 「まあそれもそうか。」


 あいつと話しているとつい忘れてしまう。自分が今さっきふられていたということを。


 あいつに背を抜かれてからあいつには敵わないことを知った。背だけでなく定期テストも体育の実技も勝てないのだ。もっぱら敵わないのは俺だけではないが。

 それでもなんだか背の高いあいつの目線は文字通り上から目線だ。馬鹿にされている気がしたので、にらみかえしてやった。待ってろいつか見かえしてやる。

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