家と血
鹽夜亮
第1話 箪笥の奥
私の家系には謎が多い。
地域の人々、そして祖父やその兄弟姉妹から言い伝えられている限りでも、『本家』、『庄屋』、『寺子屋』と、大層な文言が並ぶ。
しかし、それを立証する物的な何かは、所有している膨大な土地以外に何も見つかっていない。家系図は近隣の寺の火災と共に焼失したと言われており、祖父曰く他の情報に関しては『父(私からすれば曽祖父)すら何を仕事にしていたかわからない』というほどだ。
私はこれらの家系への言い伝えに関して、疑ってかかっていた。否、これを書き、様々な調べを進めた今でも確証は得られずにいる。田舎独自の詐称か、よくわからない言い伝えだろう、と。
そうは言うものの、ここ数年をかけて私は旧母屋…築年数すら不明の、曽祖父母の代まで現役だった古い家…の探索を進めていた。祖父は、曽祖父母が亡くなって以来、大して手をつけていなかったと聞いていたからだ。事実、旧母屋の中には、曽祖父母の使っていた和服やら何やら、大量の物が残されている。
この旧母屋の探索も、最初はただの好奇心だった。暇つぶしに何か面白い物でも出てきたら良い、そんな軽い心持ちで始めたことだった。
それが俄かに重さを帯びるのは、第一の発見からだった。
和服の詰め込まれた箪笥を漁っていると、手に硬いものが触れた。取り出してみると、それは桐で出来た細長い箱だった。掛け軸だろうか。私の心は高鳴った。
早速箱を開くと、そこにあったのは脇差だった。ぞわり、と背筋に一瞬の悪寒が走った。脇差の存在など、誰からも聞いたことがない。錆に塗れたその脇差は、ただの洋服箪笥の、奥底に隠されていた。私のように手を突っ込んでがむしゃらに漁るか、全ての服を取り出さなければ見つけることのできない奥深くに。
私は発見した脇差をすぐに祖父に見せた。祖父は驚きと共に、こんなものがあったのは知らないし、聞いたこともないと言う。祖父は家系で行けば嫡男にあたり、実際この家を継いだ人間だ。曽祖父からの家督相続の際に聞かされてすらいない、というのはどうも気持ちが悪かった。真っ当な家宝であれば、相続時に話にも出ただろう。それに、わざわざ箪笥の奥深くに隠す必要もない。飾っておけばいいだけの話だ。だが、そもそもこの脇差は、私が手探りでみつけでもしない限り、永遠に存在そのものが無かったことにされていた、ということになる。祖父以外の家族にも話を聞いたが、脇差の存在を知るものは誰一人いなかった。…
好奇心によって始まった私の旧母屋探索は、この発見によって俄かに熱を帯びた。何かが隠されている、その可能性が強くなったからだ。それはただの期待だったかもしれない。だが、じんわりとその重さを伝えてくる脇差は、まるで私に『探せ』と言っているようだった。
ここに至って、私は一つの決断をした。
旧母屋には、曽祖母以外が立ち入らなかった部屋がある。それは祖父や母から聞かされていた。入っては行けない、と言われていたことや、そもそもその部屋は日当たりの関係で昼間でも暗く、不気味だったから近づきたくなかったと言う話もあった。
その部屋に入らなければならない、そう思った。場所は知っていた。脇差の見つかった箪笥のある部屋の奥、まさに暗闇となっている押し入れ、その中にある扉がその部屋に繋がっている。これは脇差の発見後、祖父に旧母屋の見取り図を書いてもらい、それを外観から照らし合わせて判明したことだ。
あの部屋には何かが残されている。私の直感と好奇心と、若干の恐怖は、そう私に囁いて止まなかった。
家と血 鹽夜亮 @yuu1201
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