10「ふうせんの日」八起正道
さて、このへんで血も凍るような恐ろしい話をおひとつ……。
作者の八起正道さんは、トラウマ童話「ぼくのじしんえにっき」でデビューされた方です。
この作品もいろいろ語れるんですが、略。
「ふうせんの日」では、現代の原発事故をテーマにしています。
その描写がすごい。
「おじさんは原発に勤めてて、お金がたくさんあるから、美人な奥さんをもらえたんだ」ということを、わかりやすく解説しています。
そう、ここには原発ムラの様子が克明に描かれてるのです。
「風流夢譚」(深沢七郎)どころじゃない、現代日本の大きなタブーに触れています。
さて、いろいろあって主人公は被爆するんですが、救いはどこにもありません。
被爆した自分と友だちの様子が……。
裸足のゲンとはまた違った、閉塞感にあふれ、追いつめられていく描写がすごい。
で、作者はこの作品を最後に、筆をとっていません。
デビューした時は「アイデアが体中にあふれている人だ」と評されていたのに。
消された……んでしょうか……?
===
「ふうせんの日」八起正道
ほるぷ創作文庫 1992年
===
――おっと、こんな夜更けにチャイムの音が。
誰だろう。宅配便かな?
とりあえず完結設定しておくか。
【おしまい】
トラウマ児童文学の本棚 松田 夕記子 @tebasaki-yukio
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