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「あぁー疲れた」

ガーネットは学園内にある寮に帰るとすぐにベッドの上にダイブし、顔を枕に埋めた。そんなガーネットを見ているリリーは苦笑した。

「あはは。でも私も疲れた。せっかくの休日だったのに、災難だったよね。全然遊べなかったし」

「ほんとだよほんと!明日休みにしてほしいくらいだよ」

「有給欲しーー」

結局、闇退治は昼過ぎの十五時頃に終わった。学園を出たのが朝の九時頃なので、ほぼ半日である。街に出かけたのが良くなかった。けれど、もし自分たちが出かけていなかったら、闇の被害に遭う者が現れてしまう可能性があった。今回はたまたま被害者はいなかったものの、いつもそうだとは限らない。だから、結果的には街に行って良かったのだと思う。けれど、もう少し早く魔術師たちが来てくれれば良かったのに、と思ってしまうのもまた事実。でもまぁしょうがないかとため息をついた時に、ガーネットはあることを思い出した。そのせいか、ガーネットの顔はだんだんと青ざめていく。

「どうしたの?」

リリーがガーネットの顔を覗き込む。

「ドレスのデザイン。やばい」

やってしまった。本当ならデザインを考えるため(という名の遊び)に出かけたつもりだったのに。

「えぇ〜ガーネット、まだドレスのデザイン決まってないの?私、もう終わっちゃったよ?」

今度こそ意気消沈するガーネットをリリーは煽ってきた。

「うぅっ、いつのまに?リリーが早すぎるんだよぉ」

そんな一日でできるものなのだろうか。ガーネットには考えられない。

「昨日レオが教えに来てくれたでしょ?その時に良いデザインがぱっと思い浮かんでね、もうできちゃったんだ〜」

「すごすぎる」

「えっへん」

確かに、昨日のデザインをするリリーの手には迷いがなかった。やはり、できる者は違うらしい、と再確認する。

「まじどーしよう」

目の端に笑顔のリリーが映った。事あるごとに、ガーネットの心はえぐられていく気がする。もうえぐらないでくれと、常々願う。

「夕飯までまだ時間あるから、ちょっとやっちゃえば?」

夕飯は十八時二十分からなので、確かに時間はある。だが。

「そんな体力なーい」

闇退治をしてくたくたなのだ。

「そんなこと言ってると、永遠に終わらないよ?」

「うぐっ。お、おっしゃる通りです、、、」

リリーは、可愛い顔してズバッと言うタイプである。今、ガーネットの心は痛い。やはり、ここはリリーに助けを求めるしかない。ちょっと悔しいが、仕方ない。

「、、、リリー」

「ん、なに?」

「デザインの仕方、この私にご伝授くださいませ」

ガーネットは、ベッドの上で深々と頭を下げた。さぁ、リリーの返答は、、、?

「いいよ」

「ほんと!?」

「うん。ただし、条件付きだよ〜」

条件なんてなんのその。なんでも聞いてみせる。

「その条件はなに?」

「高級カスタードプリン五個買ってくること!」

リリーの言う『高級カスタードプリン』とは、老夫婦が経営している老舗の菓子屋で販売されている、今街でものすごく人気の高い菓子だ。朝早くから行列ができ、手に入るのが難しいといわれている。しかも、それが五個も。

「めっちゃ並んで全然買えないやつじゃんそれ」

一回だけ、ガーネットも並んだことがあるのだが、二十人くらい前で完売してしまったのだ。時間を惜しんで並んだのに手に入らなくて、その日一日何もやる気が起きなかった。そんなプリンを買えと。

「そうだよ〜。よろしくね、ガーネット!」

目をキラキラさせて、期待の眼差しをガーネットに向けるリリー。そんな行列に並んでいたら、尚更ドレスなんて作れない気がするのだが、気のせいだろうか。まぁ、最初に頼んだのはガーネットだ。ここは、リリーの条件を受け入れよう。

「分かった。だから、プリン、私にもわけてね!」

「りょーかい。五個あるから〜〜」

「うんうん。二個とか?」

「そのうちの一個を半分こしよ〜ね」

「あはは、なんでやねん!期待させといて、落とすタイプね」

これは、一体どういう反応をすれば良いのだろう。一瞬迷ってしまうガーネットだった。この後、『リリー先生デザインスパルタ指導』が幕を開ける。

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闇の扉を開いたら 花霞千夜 @Hanagasumi824

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