エッセイを書きま賞2024🥇🥈🥉 受賞作品その2

犀川 よう

「決定回避の法則:17アイスクリームと31アイスクリーム/まぁじんこぉる」に寄せて

「決定回避の法則:17アイスクリームと31アイスクリーム/まぁじんこぉる」

https://kakuyomu.jp/works/16818093085735695293/episodes/16818093085735696777


 本エッセイの面白いところは「決定回避の法則」という点に照らし合わして17アイスクリームと31アイスクリームを比較しているところである。まぁじんこぉるさんの主張を要約すれば、人間というのは選択肢が多すぎると選びきれなくなるという心理的状況を根拠として、様々なアイスのある31アイスクリームよりメニューを絞った自販機形式の17アイスクリームの方が優位性があるだろうというものである。

 その見解の正当性に言及する前に、わたしが本エッセイを選ばせていただいた理由を述べたい。それは何故かというと、「AとBを比較してどちらが良いか」というのが本来のエッセイの形であるという点において、今回参加していただいた中で数少ない作品であること。そしてその主張が明解でありかつ決定回避の法則という根拠を示しているところにある。本来はここまでを備えて初めて「エッセイ」と呼ぶべきものになるのであり、杓子定規的に非常に厳しく言えば、それ以外は体験記や感想文という範疇になるのだ。この点においてエッセイらしいエッセイという型を書けているところに魅力を感じたわけである。

 もうひとつは題材である。アイスクリームという誰にとってもわかりやすく好意的にとらえられるテーマに魅力を感じた。エッセイにおいてテーマの選定というのは極めて大事でテーマがつまらないとエッセイの出来が良くても読んではもらえない。本エッセイが醤油ラーメンと塩ラーメンであったならばこのような興味を引くエッセイは成立しなかったであろう。少なくともわたしが選ぶことはなかったと思われる。

 かくしてエッセイという体裁、その題材において簡明で興味深い点を評価させていただいた。ほとんどの人にとってアイスクリームは好物でありエピソードの一つや二つは持っているものではないだろうか。

 さて、31アイスクリームに対して決定回避の法則を持ち出した点については確かに首肯するものがある。アイスクリームとは離れてしまうがわたしはサブウェイが好きなのでよく行く。店についたらさっさとオーダーをして食べたいところ、パンのタイプから具材、トッピング、ソースなどを何度も質問される度に、ドラマ「地面師」に出演するピエール瀧氏のセリフではないが「もうええでしょう」と言いたい気分になる。カスタマイズできるのはありがたいが、一言「おきまり」を頼んで自分の望むものがすぐに出てくる方がありがたい。

 しかしながら、当事態は「面倒」なだけで「選びきれていない」わけではない。あれもこれも魅力的でどうしようという迷いではなく、単純にさっさと出してくれと思っているだけなのである。このあたりは「決定回避の法則」に即している部分ではないと思われる。31アイスクリームにもこのことは適合するのではないだろうか。本当に迷っているのはごく一部であり、それが経営にダメージを与えるまでには至っていないのではないかと、わたしは考えてみたくもなった。

 主張の妥当性についてだが、具体的な数値を入れると説得力がより出たのではないかと思う。売り上げ実績や利益率、客単価あたりの期毎のデータが示されていれば完璧だ。論理というのは個人的な見解でしかないが、数字は客観的な正義である。そのあたりを駆使すればさらに説得力のあるエッセイになったのではないだろうか。

 とは言うものの上記は蛇足でしかなく、本エッセイは非常にわかりやすく魅力的な作品であることは変わりない。誰でも31アイスクリームや17アイスクリームを取り上げれば思い出の一つ二つはエッセイや小説にできそうである。わたしも本エッセイを読みながら子供たちの小さいころを思い出した。それぞれ五百円硬貨を握りしめた息子と娘が31アイスクリームの列に並ぶ。目を輝かせながらショーケースやメニューを見て何を食べようか話し合っている。何かトラブルがあっても大丈夫なようにわたしの旦那が子供たちを遠巻きで見てくれていて、わたしはほんのわずかな時間だろうが子守りから解放されてテーブルで突っ伏している。できるだけ混雑していることを祈りウトウトしていると、やがてカップを持った子供たちが戻ってくる。どんなアイスクリームを選んだのかと見てみると、息子はチョコレートミントで娘はラブポーションサーティワンであった。二人は椅子に座ると早口に「いただきます」と言って食べ始める。何でもない家族の楽しみとささやかな休憩時間を作ってくれる31アイスクリームを思い出しながら、わたしは本エッセイを読むことができたのである。

 本エッセイはそんな楽しみを感じる機会がみなさんにも訪れることを祈りたくなるようなエッセイではないかと、わたしは感じた次第である。17アイスクリームもしかり、アイスクリームには優位性など関係なく、ただ幸せを運んでくれる食べ物であってほしいなどと夢想するのである。(犀川 よう)

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