無自覚ヒロイン★かすみちゃん

カボチャ

かすみ視点 その1

 私は、言われるまで気づいていなかった。

 まさか仲の良い男子から、愛されているなんて。



 私は影澤霞かげざわかすみ、高校一年生。

 学力は、平均よりちょっと上。

 容姿は、普通かそれ以下。

 友達は、浅く広く、男女構わず広げるタイプ。

 どちらかといえば陰キャの、普通の女の子。

 そんな私は先日、✕✕高校に入学式した。

 私の住んでいる地域で、学力が平均以上の子が集まる高校だ。


「皆さん、✕✕高校入学、おめでとう!受験お疲れ様!まずは一週間、高校生活に慣れるためのオリエンテーリング授業を行うからなー」


 私達一年B組の担任、若谷わかや先生が、ホチキスで止めてあるプリントを配りながら言った。

 私は一番前の席だったので、先生から直接プリントを受け取った。


「ありがとうございます」


 私は小声で先生にお礼を言った。

 聞こえているかどうかも微妙なレベルの小声だったが、まあ、言わないよりは良いだろう。

 プリントを後ろに回しながら、手元のプリントに目を通す。

 プリントのタイトルには、『一年B組 オリエンテーション資料』と書かれていた。


「うーっし、全員回ったか?んじゃ、目通してくれ。あ、名前書いとけよー」


 名前を書き、ペラペラとページをめくってみる。中には学年の先生の自己紹介やクラス名簿、校内地図や基本時間割などが書いてあった。

 しかし私のページをめくる手は、途中で止まった。

 ―――12ページ目が、真っ白だった。

 私は近所の人に確認してみることにした。


「ねえ航大、12ページ目ってさ、真っ白だったりする?」


 私の左隣にいたのは、奇跡的にも、塩谷航大しおたにこうたという、小中が一緒の男子だった。

 流石に小中が一緒だとお互い仲良くなるもので、私が声を掛けるとすぐに反応してくれた。


「え、12ページ? ……いや、フツーに部活紹介とか書かれてるけど?」


 航大が12ページを見せてくれた。

 確かに、航大の資料の12ページには部活動紹介が載っている。


「うわ、マジだ。私の真っ白なんだけどw」

「うわ、マジじゃんw 変えてきなよ」

「うん、行ってくるわ」

「行ってら〜」


 周囲は初対面が多い中、私達だけ馴れ馴れしく話していたせいか、視線が集まっていた。

 私は立ち上がり、教壇にいる先生に声を掛ける。


「先生ー、私の資料、印刷ミスがあったんですけど……」

「え、マジ?ちょ、変えるからちょうだい」

「はい、お願いします」


 先生は自分が持っていたものと交換してくれた。

 どうやら予備が無かったようだ。


「おーい、他のやつ、印刷ミス無いかー? あ、影澤、ありがとな」

「あっ、いえいえ……」


 私は先生が既に私の名前を覚えていることに驚きながら、自席に戻った。

 資料に目を落とすと、そこには先生の名前が書いてあった。

 そういえば、先生と交換した私の資料にも、私の名前が書いてあった。

 確認する前に名前を書いてしまったため、先生に申し訳ないが、仕方がない。


「あ、その資料、家で読んどけばいいから。よーし、じゃあ初めに自己紹介でもすっか。ほら、赤川から」

「は、はいっ!?」


 先生が一番右の列の先頭の男子を指名した。

 その男子は慌てて立ったせいで、手元の資料を落としてしまった。

 しかも、どうやらホチキス止めが甘かったらしく、冊子状になっていたプリントがばらばらになって広がってしまった。

 私の足元にも流れてきたので、私は立ち上がり、拾うのを手伝った。

 それを見た航大も立ち上がり、拾うのを手伝ってくれた。


「はい、多分これで全部だと思う」

「あ、ありがとうございます!」


 私と航大がプリントをその男子に渡すと、その男子は羞恥心からか、顔を少し赤らめて受け取った。


「誰にでもあることだって。気にする必要ないよ」

「そそ。何なら今の自己紹介のネタにもなるんじゃね?」

「は、はい!ありがとうございます!」


 私と航大がフォローし、席に戻ると、自己紹介がスタートした。


「えっと、赤川裕太郎あかがわゆうたろうです。赤中から来ました。その……さっき見てもらった通り、僕はドジなんですが……これから一年、よろしくお願いします!」


 裕太郎の自己紹介が終わると、クラスの皆はパチパチと拍手をした。

 自己紹介はテンポよく進んでいき、5分もせずに私の番になった。

 私はなるべく音を立てないように椅子を引いて立ち上がり、教壇に向かった。

 そして私は、大きくはない、でも最後列でもぎり聞こえそうな声量で、喋りだす。


「……影澤霞です。花中から来ました。本を読むのが好きです。一年間、よろしくお願いします」


 なんとも掴みどころのない自己紹介。

 まあ、妥当だろう。なんてったって私は、頭が良くもなければ可愛くもない、モブキャラなんだし。

 パチパチと拍手が聞こえる。

 皆偉いな、ちゃんとモブキャラにも拍手してて。

 この調子で自己紹介はポンポンと進み、15分もすれば、クラス40人全員が自己紹介を終わらせた。


「みんな短くねぇか?ま、その分俺が自己紹介するしいいけど」


 そう言って先生は、先程まで生徒が自己紹介をしていたところに移動した。


「ども、今回一年B組の担任になりました、若谷大地わかやたいちです、あ、タイチって大地だいちって書いて読むから。よくダイチさんって呼ばれるけど。間違えんなよ」


 先生が黒板に自分の名前を漢字で書く。

 資料を配られた時、ダイチだと思っていた。危ない。


「んーと、俺の教科は国語で、お前らのクラスも担当すっからよろしく。ちなみに俺の高1の時の国語の評定2な」


 先生がピースをしながらそう言うと、クラスのどこからか「信用できねえ!」とツッコミが入り、クラスが笑いに包まれた。


「はは、安心しろ、高3には3に上がってたから」

「いや国語教師ならせめて4まで上げろよ!」

「いやしゃあねえよ。だって俺、国語嫌いだし」

「じゃあなんで国語教師なったんだよ!?」


 こんな感じで、先生の自己紹介中は常に笑いが絶えなかった。


「は〜、笑った笑った。ま、クラスの緊張も馴染んだところで、ちょっとしたゲームでもすっか」


 どうやら先生は、初対面すぎて緊張していたクラスを和ませるため、あの自己紹介をしたようだ。

 きっとこの人はいい先生なんだな、と思う。

 先生がお腹を抱えながら、教卓の上に置いてあるプリントを手に取り、配り始めた。

 私は再び、プリントをもらう瞬間に、小声でお礼をする。

 すると今度は、先生は一瞬私の方を見て、笑顔を見せた。

 プリントには、『〜クラスの人を知ろう〜 ビンゴ大会』と書かれていた。


「よーし、みんなペン持って立てー」


 皆がペンケースからペンを一本取り出し、立ち上がった。


「今から場所移動するからな、プリントとペン持ってついて来い」



 移動先は、教室の隣の講義室だった。

 講義室といっても、サイズが1.5倍ほどの大きさがあるだけで、普通の教室と何ら変わりは無かった。


「全員いるか?じゃ、机壁に寄せて空間作れー」


 先生に指示される通り、私達は椅子を机に乗せ、壁に寄せた。

 講義室の前方に、教室の半分ほどのサイズの空間ができた。


「んじゃ、まず女子。輪になれ」


 先生が指示し、クラスの女子が輪になった。

 一部の男子が行き場を失い、おどおどしていた。なんかかわいい。


「じゃあ男子、輪の中に入れー」


 輪の外にいた男子が、気まずそうに女子の間を通って輪の中に入る。

 先生は輪の外側で壁によりかかり、腕を組んでいた。


「じゃ、男子、どこでもいいから女子の前に立てー」



〜ひとくちmomo〜

 こちらの作品を読んでくださった方、ありがとうございます!

 こんにちは、カボチャです。

 初見の方のために解説すると、〜ひとくちmomo〜とは、私の作品たちの中での「あとがき」的な存在です。今回の作品では基本行いませんが、次回予告や変更点等を記載しています。

 私の処女作(未完結)、「新・桃太郎伝説」の桃と、メモを掛けてます。スベりましたね。そんなのわかってます。

 今作品は、現在随筆中の作品に疲れてしまった時や、恋愛系の妄想が爆発した時に書く場所として使う予定です。

 そのため不定期更新です!おそらく更新頻度そこそこあると思いますが!

 お目汚しに、ご覧ください(^^)


 良ければ私の本命作品にも、目を通してくださると嬉しいです!

「新・桃太郎伝説」https://kakuyomu.jp/works/16818093083976499104/episodes/16818093083979049066

「ぼっちちゃんと無口くん」(短編)https://kakuyomu.jp/works/16818093084641835043/episodes/16818093084642558424

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