第50話 エピローグ:探索する者たち

 のんのん:決闘は一騎、いや本物のイッキが勝ったみたいだけど、アーカイブ確認したら、デカイスライムと対峙した時、すんげえ遠吠えしてピカっと光ったら、スライム消えてたし。


 イカタンコ:あ~もう、あん時、避難なんてしなきゃよかった!


 ゴルドウィーク:全財産没収でシグマインテリジェンスは解散したけど、結局、今回の騒動なんだったんだ?


 ラーの浴槽流:ニュースだと、なりすましと企業乗っ取り騒動


 坦々カレー:一応、乗っ取りは疑惑ね、今のところは!


 けもけも:なんでミヤマが、シグマについてダンマリだったのか、合点行ったわ


 ウンババ:戸田一騎について、社員がマスコミの取材に硬い口を閉ざしていたのもね


 きなここげぱん:その戸田一騎がイッキ本人なんだから、そりゃダンマリ決めこむわな


 チン竹ノ子:前社長の子供ってだけで、どんだけ忠義厚いのよ、あの会社!


 兎太郎:そりゃ希少機材で会社に利益もたらしてんだ。まだ経営者じゃなくても、そうなるって!


 ウルマーノフ:しっかし、改めて事件の全容見てみると凄まじいな


 獅子吼:探索者組合に預けた希少機材の横流し。流したのは偽イッキことシグマの実家から派遣されたスタッフだっていうし。


 ハインリッヒ:ブロックルーチン解除にも関わってるぽいな


 むきむきチワワン:実家の天島グループって、かなりすげえ財閥グループじゃないか


 ワルイガー:どのニュースも、二年前に買収し損ねたから、今度は、社会的信用の失墜を起こして買収する計画だった疑惑ばっかり流してる


 くんかくんか:あ~電機殻エレキハルあるないの押し問答の記者会見か、あれは痛快だったわ!


 じめじめシメジ:驚かないのいないって。本物イッキが持ち帰ったドでかい電機殻エレキハルで大番狂わせだぞ。


 マーロー:偽イッキことシグマが倒した黒騎士、あれ捏造だったみたいね。警察が押収したデータの中に、なりすまし防止用のブロックルーチンを解除された電子礼装アバターがあって、黒騎士だけでなく、レイブンテイルの面々の分まであったときた。


 おおまのクジラ:電子の着ぐるみとは言ったもんだ。


 さむ武闘:結局、イッキは先代社長の息子だから、企業乗っ取り前の前菜として、ダンジョンアカウントを乗っ取られたってわけか。


 兎太郎:とんだとばっちりだな。


 明太子:乗っ取られても新規アカウントでやりなおして、その結果、偽者を倒すんだから半端ない胆力だぞ


 アプルン:なら、本物のイッキが倒した黒騎士は?


 ありあどね:それガチ本物確定。リーゼルトがSNSに、イッキが黒騎士倒す瞬間の写真を何枚も載せてる。


 金鮭介:今回の騒動でリーゼルトさんが沈黙を保ってたのも、弟子なら解決できるって信頼していたからかね?


サイクロン:師弟愛だね~スパルタすぎるが!


ミート:そういや知ってるか? 最近レイブンテイルに可愛い子入ったって?


獅子吼:どっかからの移籍?


ミート:いんや、探索歴0年の新人、すんげえ可愛いのよ。


ヤンヤンヤンカー:メンバー表見てきたけど、準備中でわんこの写真しかねえぞ!


赤骨:悪いこと言わん。下手に手出すの止めとけ。あの灰色わんこにガジガジしてガジガジされるぞ


サバンババン:俺見たぞ、レイブンテイルの再雇用試験で、その子にナンパしてた奴が、わんこの犬パンチでボコボコにしてやられたの!


めぐろのメダカ:シリムスビ先生ならなんかわかりそうだけど、最近見ないな


イカタンコ:お前らが尻尻言うから、愛想尽かしたんだろうよ?


一同:しりませんよ!


――――――――――――――――――――――


 騒動から三ヶ月後、<ミヤマ>本社ビル社長室にて――

 会社から伝えられる調査結果にイッキは面を喰らった。

 シグマがイッキのなりすましであり、一騎がイッキであったことから、しばしの間、ファンやマスコミ、そして学業に追われ、多忙を極めることになったのは別の話。

 社長室にて陽人から渡された資料に、どれも驚嘆の声ばかり漏らす。

「はがはが」

 イッキの驚嘆を余所に、ソファーの上でうるすけは、金属球を噛み噛みガジガジして遊んでいた。

「なんだ、この顔! 本当に赤の他人なのか!」

 最終調査結果に、イッキは愕然とするしかない。

 何度も写真と端末のカメラに写る自分の顔を見比べてしまう。

 俺のほうがかっこいいと。

天島虹輝あまじまこうき。それがシグマの本名なんだ」

 社長である陽人の顔は困惑していた。

 瓜二つに加えて。同い年、同じ身長、同じ体重。

 困惑せぬほうがおかしい。

「なら、幻界ムンドでの顔は素面だってことかよ!」

「これは君の両親、特に真希さんから口止めされていたことなんだが……」

 まるで毒杯を飲み干したような苦しい顔つきだった。

「君のお母さんの旧姓は天島。本名は天島真輝まき。会長の孫娘にあたってね、六人姉弟の長子なんだ」

 資料にある天島は日本どころか、世界有数の財閥だ。

 実家について、頑なに語らない理由と改名した訳があった。

「天島家は完全実力主義で、後継者育成として代々幼少の頃から血縁者同士を競わせてきたんだ。少しでも追い抜かれれば家を放逐。どこぞの家に養子として出して縁を切ってきた。君のお母さんは最有力候補だったけど、家のやり方を嫌い、家を出ては追っ手を叩き伏せながら、各地を転々としていたんだ。キャンプ場で出会った男性と意気投合、改名したのは結婚前だね。実家の方は、後継者候補を切り捨て続けたことで後継者がいない問題ができた。唯一残っていたのは、真希さんの妹の子供、つまりは――」

「天島虹輝は、母方の従兄弟ってわけか」

 天島虹輝の母親、美輝みきの写真を見れば、亡くなったイッキの母親と瓜二つ。

 当然だろう。一卵性双生児だからそっくりだ。

「なら母親、いや叔母さんは?」

「偶然にも旦那さん共々、二人が乗っていた飛行機……ZMA-四三一便に乗っていたみたいなんだ」

 偶発的に再会したのか、それとも互いに知らぬままだったのか、姉妹仲は、と今となっては不明のままだ。

「君に言うのもなんだが、当時、財閥の実権は、実質、天島美輝が握っていたようなんだ。天島虹輝も君が知るような傲慢らしさはなく、君と同じ性格だったらしい」

「……頭に血が上りやすかった面があると」

 無言で頷かないで欲しい。少し心に傷ついた。

 後、ソファーの犬、笑うな、電気抜きにするぞ。

「つまりは、あの二年間で、あんな性格になったと……下手すりゃ俺もああなっていたと……」

 鬱屈した気分になる。

 イッキは、己がどれだけ周囲に恵まれているのか、氏より育ちだと本当に痛感する。

「奪ったイッキくんのアカウントが使えたのも、ブロックルーチン以前に、生体認証が一致していたからだから驚きでしかないよ」

「完全に一致するなんて天文学者も真っ青な確率だな」

 今回の騒動も、探索者シーカーとして活躍し、財閥後継者として箔付けするため。

 調査によれば、アカウント奪取は、イッキに対する個人的な当てつけもあったようだ。

 結果としてシグマインテリジェンスは解散。

 数々の不正及び迷惑行為もあるが、もっともな要因は、決闘により全財産がイッキを介してレイブンテイルに流れたことでチーム運営が不可能となったこと。

 なお財産の処遇については、チームメンバーと話し合った結果、メンバー引き抜きにより弱体化した各チームに分配する形で落ち着いた。

「うわ、どいつもこいつも名前に輝の文字がある。なるほど、俺を一輝ってつけようとした親族は、こいつらだったわけか」

 財閥側は、数々の不正行為が暴露されたことで窮地に立たされている。

 天島虹輝個人の行動だけでなく、承知の上でスポンサーとしてバックアップしていたことから言い逃れはできずにいる。

 後はもう幻界ムンドではなく法廷がステージだ。

 両親の代からいる顧問弁護士が、やる気に満ちていたのは別の話である。

「本来の計画なら、社会的信用が失墜したミヤマに買収を持ちかける。その後は、子会社化して社長に添える計画だったようだけど……」

「俺のせいで失敗したと」

 事の顛末は、案外呆気ないのが世の常。

 行方不明だったシグマこと天島虹輝は、負傷した状態にて都外の住宅街で発見される。

「なんか加担したスタッフの証言だと、天島虹輝に協力者がいたみたいなんだ」

「記憶と記録、ダブルの喪失で、掴めずと」

 端末のOSごとアカウント奪取の仕組みが判明すれば、今後の自衛に繋げられたが、残念だ。

 証言をとろうにも、幻界ムンド絡みの記憶だけ抜け落ち、聞き取りが行えない。

 Seフォンとて中のデータはきれいさっぱり消えている。

 財閥側も天島虹輝の裏に協力者がいるのを掴んでいたようだが、足取りは途絶え、誰なのか不明のままであった。

 命はあるのだ。

 あの性格を踏まえれば再起するだろう。

 財閥側も唯一残った後継者でもあるし、下手に放逐はしないはず。

「協力者は、色眼鏡の男……使用していたのは紛れもなくスケアスモデル……はい、終了! 終わり! 当てにならん!」

 資料に目を通すなり、すぐさま元の位置に戻す。

 当てにならない。意味がない。容疑者が多すぎる。

「うちで一番売れてる眼鏡じゃないの!」

 世界で一番売れているモデルである。

 仮にモデル元となったリーゼルト・スケアスが協力者と仮定しても、その名が出てこない時点で白だ。

「君とうるすけが倒したスライムも、恐らくだけど」

「そいつが渡したんだろうが……」

 謎は結局残った。

 ライザスラムは探して辿り着ける場所でも、望んで行ける場所でもない。

 ダンジョンに逃げ出したスライムの能力に気づき、利用した、が妥当だろうと、黒幕の狙いは不明のままだ。

「ただ確かに言えるのは、うるすけをコピーできたのは、毛を食わせたからだろう」

「おう、あれか! 尻尾ボンってやったあれだな!」

 思い出すように、ソファーのうるすけが四脚で立ち上がれば、ご自慢のふさふさ尻尾をブンブンと振るう。

「記憶が確かなら、俺がうるすけの相手をしている間、自動掃除機が横切ったんだ。そこから毛を一本でも回収すれば……」

 合点が行く。

 充電ステーションの端っこは、実質、うるすけ専用であった。

 仕掛けて狙うのは容易い。

 問題は誰が仕掛けた、であるが、黒幕と同様不明だ。

「結局、元のアカウントは戻ってこなかったが」

 それでもうるすけは戻ってきた。明菜も帰ってきた。

 チームも再起の波に乗り、絶好調だ。

 引き抜かれたメンバーの中には復職希望者もおり、ふてぶてしさに一悶着あったが、難易度高めの再試験にて落ち着いた。

「これはこれでいけるんだよな」

 新しい仮面を端末から顕現する。

 なんとなく気に入っていたりする。

 正体は決闘中にバレているため、素顔隠す仮面は、もう必要ないが、愛着ができていた。

 ふと端末からコール音が鳴り響く。

「はい、もしもし?」

 表示されるのは資料で知った番号。

 相手は、祖父を名乗る男からであった。

「いやいや、今更お電話されてきても迷惑なんですよ。え? 後継者として迎え入れたい? まあ条件次第では、いいですけど~?」

 椅子に座る社長である陽人の厳つい顔が曇る。

「条件を飲む? それなら、会社が発行した全株式を、この孫に全部、譲渡してくれるのなら構いませんが?」

 電話口の相手の声が言いよどむ。

 株式を一定以上保有することは=経営権を有することになる。

 半数ではなく、全てなど無理難題、他の株主と衝突でしかない。

「わるいかおしてんぞ?」

「ホントだよね」

 うるすけと陽人には、黙りなさいと目線向ける。

「あ~無理ですか。もし次、性懲りもなく噛みついてくるなら、うちのうるすけが、そちらの本社ビルを屋上からガジガジしますからね!」 

 母方の祖父との通話は終わりを迎える。

 無理難題をふっかけたのはわざとだ。

 母親が実家を頑なに語らなかった理由が、今ならわかる。

 子供たちを、実家の後継問題に関わらせないためだ。

「今からガジガジできるぞ?」

 うるすけは嬉々として犬歯剥き出しに、尻尾をブンブン振り回す。

「性懲りもなく仕掛けてきたら、だよ」

「ふん、オレとイッキはサイキョーでサイコーだ! 負け犬にして吠え面かかせてやるよ」

 頼もしい相棒である。

 再度、端末がコール音を響かせる。

 妹のハルナからだ。

『兄さん、お話はまだ終わらないんですか! みんな待ってますよ!』

「わーった、今からいくよ!」

「ハルナくん、元気になってよかったね」

 リーゼルトが用意してくれた薬によりハルナは、いや奇病に苦しむ全員が全快した。

 後遺症もなく、元気な姿に自然と笑みが綻びる。

 リハビリをこなし、謳歌できなかった学生生活を過ごすと思った途端、探索者シーカーになると言い出した。

 兄として困惑するし反対したが、助けられてきたからこそ助けたいとする妹の想いを尊重させた。

「それじゃおじさん、ちょっと行ってくる」

「ああ、気をつけてね」

 イッキはそのまま、うるすけと共に地下へと向かう。

 転送門ポータルをくぐり抜け、ホームへと向かう。

『遅い!』

 チーム一同、遅参したイッキとうるすけを総出で出迎える。

 悪い悪いと平謝りするしかない。

「さ~て、リーゼルトの卒業試験、いっちょクリアして見ますか!」

「おうよ、樹のてっぺんだろう! オレ、てっぺんに着いたら先端ガジガジする!」

「なら、私はハンモック吊してお昼寝する!」

「あんたら、遊びに行くんじゃないんだよ」

「そういう燐香だって、バーベキュー、うごっ!」

「あぁ? バン兄、なんか言った?」

「先端を那須与一みたく射抜くのも一興だな」

 かけがいのないチームメイトにイッキは自然と笑みをこぼす。

 このチームなら行ける。

 たどり着ける。

 大樹にたどり着いた先になにがあるのか分からない。

(リーゼルト、あんたの真意を確かめるためにも!)

 大樹の存在は打ち明けても、その意味をメンバーには打ち明けていない。

 不安はある。

 いつ世界が終わるのか、不透明な部位もある。

 だがリーゼルトが課した課題には、何かしらの意味がある。

 不明瞭な面があろうと、未知だからこそ、手探りで切り拓き進む。

 何故なら自分たちは、探し求め、探し続ける者、探索者シーカーだからだ。


 ―――――――――――――――――――――


 私、リーゼルト・スケアスは、大樹の頂きにて記す。

 これは、とある探索者シーカーの再起と成長の物語。

 世界は幻界ムンドの浸食を受けようと、時計の針は進む。

 進んだ針は戻らない。だから進めるだけ。

 いずれ、彼の者たちは大樹の頂きに至るだろう。

 その時、私は最後の試練として、彼の者たちと相対することになる。

 これは避けられぬ運命さだめ

 全ては世界を拓き、大樹を解放するため。

 大樹と、この世界、双方を救うための必要な儀式なのだから。


幻界見聞録The Travels of Riesruto―錬狼の章―九五頁八行より>


第一部―完―

――――――――――――――――――

これにて完結!

これは一人と一匹の再起と再会の物語。

再起と再会を果たした故、このお話は一旦終わりを迎えます。

本来の予定なら、クリスマスあたりで完結する予定でした。

ですが、自分が思っている以上に、読まれているため嬉しさのあまり、あれこれ加筆した結果、10万文字が16万文字となりました!

これは皆様の応援とご拝読の賜物であります。

基本的に、こうけんは、祭りを完全独走全力で楽しむタイプなので、PV星レビュー云々は、書き終わるまで執着しない方です。

ですが、まだ完結してないのに、読むに読まれて星やレビューの味を知ってしまっては、そうはいかない。

いや、本当に書いてて楽しい。読まれて嬉しい。

カクヨムコンはまだまだ続きます。

こうけんの次回作にご期待ください。

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ダンジョンアカウントを奪われた錬金の探索者、仮面をつけて再起する こうけん @koken

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