教師近藤と最後

「それでは曲にいきましょう。近藤で、『どなたか近藤におかわりを~アコースティックバージョン~』」

 今、近藤によるラジオ番組がOAされています。まるで十年は軽く続いているかのように、実にその気な態度で進行しているところです。

 近藤がラジオ番組をというと、また何か思い立って勝手に入ってきたりしたのだろうと考えられがちですが、今回に限ってはそうではありません。そのラジオ局の関係者が「近藤という面白い教師がいる」という噂を耳にし、捜しだされて打診されて、パーソナリティーをする運びとなったのです。

 しかし、ラジオ局サイドは、「ちょっとユーモアのある」や「興味深い話ができる」人だと、近藤を誤解していたのです。まあ、彼のことをしっかり理解していれば、誘ったりなどしないでしょうけれども。

 お願いする前にきちんと調べるべきなのを怠ったのは当然問題でしたが、教師という堅い職業に加え、容姿は真面目な近藤を目にして、そんなおかしなことになるはずはないと油断したのもあるのでしょう。近藤が「私は素人ですから、そちらが望むようにしゃべったりはできません。私の好きにやっていいというのであれば、引き受けましょう」と口にした条件に、簡単にOKまでしてしまったのでした。

 結果、近藤のトークだけでもハチャメチャなのに、作ったコーナーや流す歌などもシュール極まりないものばかりで、放送中まともなところがほとんどない、ひどい有様となり、それをやめろと言うこともできません。

 本当に一握りのマニアックな人にはウケましたが、耳にした大半には「何じゃ、この番組」と離れていかれ、聴取率は低迷して、打ち切りが早々に決定し、現在話しているのが最後の放送なのです。

「それでは最後のお便り……おっと、いけねえ涙が。駄目だぞ、近藤! リスナーたちも悲しくてしょうがないんだ! それでも必死にお前さんの声に耳を傾けているんだ! ……よし! では改めて最後のお便り、『ラジオネーム、おんどれナメとるんかい』さん。えー、『私の名字も近藤といい、あんたのせいで馬鹿にされます。即刻名前を変えてください』……」

 近藤は少しの間黙り、そのラジオ番組のディレクターの木谷実紀夫は、どうしたんだ? と注目しました。

「それでは次のお便り。ラジオネーム……」

 無視したー! しかも、最後って言って、変な小芝居までしてあんなに盛り上げたのに、次って。

 実紀夫は心の中でツッコみました。近藤と何度も接するうちに、彼はすっかりツッコミ上手になったのでした。

 それはともかく、近藤は名前を変えるわけにはいきません。お気づきの方も多いでしょうけれども、この作品のタイトルの「教師近藤」は、「公私混同」とかかっているのですから。

 番組を終えてブースから出てきた近藤は、もはやすっかり芸能人、もっと言うなら、二枚目俳優のようなかっこつけた立ち振る舞いで、番組のスタッフ一人ひとりに別れの言葉をかけていきました。

「お世話になりました」

「きみ、つらくても、明日からも仕事、頑張れよ」

「次に会うのは、私が主演男優賞を獲得してカンヌから帰ってきて、ここにインタビューでやってくるときかな。なーんて」

「……」

 スタッフたちは「最後までこの人はとんだクレイジー野郎だな」と呆れました。

 そして、近藤はラジオ局を後にしていきました。

 自宅に向かう道すがら、彼はふと上空に目をやって、つぶやきました。

「仕方ない。改名して、近藤じゃなく、私が今かっこいいと思う名前ナンバーワンである、エドワードになるか」

 駄目ですよ、近藤さん!

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おかしなおかしな教師近藤Ⅱ 柿井優嬉 @kakiiyuki

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