第二話「白い世界と異世界転生」
ん――冷たい――
あれ?
妙な感覚を感じて起き上がると視界は真っ白だった。
少なくとも今の今まで俺は仰向けになって寝ていたらしい。
「ここは・・・・・・どこだ・・・・・・」
少なくとも、あの時俺は死んだはずだ。
つまりここは死後の世界・・・・・・あいにく、足下すら見えないくらい白い霧しか無いけどな。
取りあえず、管理人とか神様的な存在が出てくるかもしれないし、いったん待機だな。
---
体感五分くらい経ったが一向に誰も来ない。
おいおい、俺にこんな霧の中で孤独に居ろとか拷問過ぎるぞ。
「おーい!誰か居ませんかーいきなり返事されても怖いんで歩み寄ってくれると嬉しいんですけどー」
取りあえず呼んでみたが俺の声が木霊するだけで一向に返事はない。
仕方が無い、行くか。
果報は寝て待てと言うが死んでるし今更結果なんてどうでも良い。
しびれを切らした少年は腰を上げ、辺りを再び見渡した。
取りあえず見渡してみたけど足下も見えないのに何かが見えるわけ無いか。
どこまでこの白い霧は続くのか・・・・・・まぁ、当たって砕けろだ。
少年は一抹の不安を抱きながらも足を踏み出した。
ゴツン!
勇気ある二歩目を踏み出し進んだ瞬間少年の頭は固い何かに衝突した。
「いった!!」
不安と好奇心に駆られたせいで歩みも速くなりダメージだ。
そもそも何にぶつかったんだ?
恐る恐る近づいて目を凝らすと本棚に収められた本があった。
なんで本があるんだ?
そんな疑問を抱きつつも少年は一冊本をとり、読み始めた。
あれ?この本って澄ま恋じゃないか?
『澄ました君に恋をした』という作品は勇翔と一華もアニメを観ていて先週も最新話の話をしたばかりだ。
「おかしいな・・・・・・」
この本は確かに澄ま恋だけど表紙も背表紙も全部同じ藍色一色っていうのは何でだ?
考えていると白い霧が薄くなってきている気がした。
先ほどまで見えなかった本棚の上の段まで見えるようになっている。
確実に薄くなっている。
何か始まるのかと警戒して振り向くと薄まった白い霧の中に人影のようなものが佇んでいる。
驚いて思わず身構えてしまったがよく考えれば俺と同じ状況で困惑している人かもしれない。
「あ、あのー誰かいますか?」
問いかけに返事は無い。
ファーストコンタクトは失敗か。
人かもしれないのは気のせいか?
怖いけど、行った方が良いよなー。
少年はすり足で人影に近づき始めた。
すると、少年の身体は突然浮遊感に襲われた。
「えっ?エエーーー!?」
なになになになに!?
落下する中で何のどうにか止めようと少年は藻掻いたがただ白い霧の中で空を切るだけであった。
「一体どこまで落ちるんだーー!」
少年が疑問を叫んだ瞬間、少年の視界はぷつりと切れた。
---
ん――温かい――
寝心地がよく熱源に向かって頭を擦り付けると違和感を感じた。
あれ?柔らかいけどしっとりしていて人肌みたいだな。
二つの瞼によって閉ざされていた瞳に光が入り、元・少年の脳に情報を流し込んだ。
目の前には女性の胸があったのだ。
寝起きの元少年は鈍く、特に反応すること無く視線を上へと向けた。
すると目に涙を浮かべた美しい青い髪の美女が視界に入ってきた。
女性は呆気にとられた顔をして元少年を見ていた。
何でこの人は泣いているんだ?
違和感を感じた元少年は右手を挙げた。
しかし、視界に入れると明らかに赤子の手だった。
俺、転生してね?
ということはこの人は今の俺の母親?
元少年は転生し紺色の髪の赤子となったのだ。
母親と赤子がポカンと見つめ合っていると母親の両脇から黒髪の男性と白髪の女性が声をあげながら赤子の視界に入ってきた。
二人とも母親同様に目に涙を浮かべている。
「-・--・・--・-・-・・---・-!」
男性の方は青い髪の女性――母親の肩に手を回し母親の頭を撫でながらこちらを見てきた。
行動的にこの男は父親だな。
「-・--・・-・・・--・-!」
女性の方は母親に抱きつき何かを言い、返事を貰うと俺の方に手を伸ばし抱き上げた。
この人は俺にとってどういった立ち位置の人なのだろう?
助産師ではなさそうだ。
「・-・・-・-・-・-・--・-」
女性は赤子を抱き上げると満面の笑みで頭を撫で始めた。
意味不明な言語を使っているせいで何て行っているか分からないが綺麗な人に可愛がられているしまぁいいか。
頭をなでられ満足げな顔でいる赤子を今度は父親が抱き上げ、何かを話しかけた。
「・-・・・・・-・-・-・・・・・・--・-・・-・」
父親に微笑みながら言われた言葉は何故か俺を褒めていた気がした。
よく分からないけど嬉しいな。
嬉しくなった赤子は自然と笑顔を浮かべ両親達に一生の思い出を遺した――
---
四時間程経っただろうか、俺はベビーベッドに寝かされ両親達はしばらく起きて見守っていたが疲れたのか三人とも今は瞳を閉じて夢の中だ。
母親や謎の女性の髪色を見て判断するに、ここは異世界で間違いないだろう。
赤子は部屋の様子を観察し始めた。
天井にはおしゃれな植物の装飾があるし、部屋自体の内装も豪華だ。
おそらく異世界の上流階級の家に生まれたと考えて問題なさそうだ。
分析結果から導き出された答えに少年は心を躍らせていた。
この世界には魔術や魔法、不思議な力もあるかもしれない。
赤子は頬に笑みを浮かべながら天井を仰いだ。
どちらにしろここは夢の異世界だ。
やれることはやれるだけ挑戦して悔いなく生きていきたい。
赤子は目を瞑り深呼吸をした。
俺は、夢の世界で何をしよう?
転生した少年は自らのこれからに夢を抱きながら深い眠りへと落ちていった――
---父親視点---
「この子なんで泣かないんだろう――念のため回復魔術掛けとくね」
「ありがとう、ソフィア」
産婆をしてくれた妻のソフィアが息子が泣かないことを気に掛けている。
息子は生まれたばかりなのに泣かないし、寝ているままだ。
「ノールド、この子大丈夫かな?」
心配性なもう一人の妻――今まさに息子を産んでくれたシエロは目に涙を浮かべ俺に問いかけてきた。
「大丈夫、泣かないのは大物になる証さ」
シエロの不安を拭うため昔聞いたことがある言葉を言った。
とはいえ俺も不安だ、万が一息子に何かあったら――
しかし、そんな不安はすぐに払拭された。
「あ――ぅ――」
息子は寝起きのような声を上げポカンとした顔でシエロの顔を見上げた。
すると先ほどまで泣いていたシエロは泣き止み、同じようにポカンとした顔をしていた。
ただ座っているだけではいけないとノールドは息子の名前を呼びながら母子に近づいた。
「シエロ!ルーカス!」
「シエロー、ルカー良かったよーー」
それと同時にソフィアも二人の名前を呼びながら抱きついた。
ソフィアはシエロの体に顔を埋めた後すぐさま質問した。
「ねぇ、ルカを抱っこしても良い?」
「うん。存分に甘やかしてあげて」
「やった!ルカくーんソフィアお母さんだよーー」
ソフィアはかわいいものが大好きだし今日を楽しみにしていたからか嬉しそうにルーカスを抱き上げ撫でている。
ルーカスも気持ちよさそうだ。
ルーカスを抱いたソフィアをノールドが見つめているとシエロは彼の目に涙が浮かんでいることに気がついた。
「あれ?ノールドも泣いてる?」
「ん?これはうれし涙だよ」
照れ隠しとかでは無く本当にうれし涙なのだ、この景色は俺一人では見ることが出来ないかけがえのないものだから。
だからこそこの言葉を伝えたい。
ノールドはシエロの方を向き抱きかかえながら言った。
「ありがとう、シエロ」
「どういたしまして。ふふっ」
シエロもはにかみ笑いをしながらその気持ちに応えた。
「そうだ、ルカを抱いてあげて」
シエロはまだノールドがルーカスを抱いていない事に気がつき提案した。
「そうだな、ソフィア交代してくれ」
ソフィアから優しくルーカスを受け取るとそのぬくもりが伝わってきた。
あぁ、この子が俺たちの初めての子か――
ノールドはルーカスの美しい双眸を見つめ、再び感謝の言葉を口にした。
「ルーカス、生まれてきてくれてありがとう」
ルーカスはノールド言葉の意味を理解したのか柔らかな笑みを浮かべた。
そして、その笑顔は彼ら家族にとって忘れられない時間を創り出した――
---???視点---
白い霧の中――大量の本に囲まれた場所に一つの影があった。
〈ルーカス・ルピリアス・シャラスティアの誕生を確認〉
若い女性の声であったがその言葉に感情は無かった。
〈予定通り、移行と最適化を開始――〉
感情は無いが生物らしさのある不思議な声はとある時間を告げた。
〈予定調整期間18年〉
声の主しか知らないその時間は刻一刻と迫り、数多の運命を変えていくことになる。
しかし、その先で待ち構える未来は、まだ誰も知らない。
〈ユメノミライのための計画を始動します〉
Imagine World 夢の異世界で何をする? 浅芽 真優 @midoriyasu
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