藍の鎖

うに豆腐

第1話 悲哀の魔女

イギリス ロンドン


「なあ、知ってるか?」


「例の噂の事」


カフェのテラス席。


後ろの男二人。


コーヒーを飲みながら聞き耳をする。


「噂?」


「そう、噂だよ」


「あの石がこのヨーロッパのどこかにあるんだと」


「あの石?」


「なんでも」


「人を蘇らせる事ができるらしい」


聞いていた男は落胆する様にため息を吐く。


「はぁ」


「どうせ嘘だろ?」


「いやいや」


「まぁ確かに、そう言われたらそう思うよな?」


「だが、これを聞いたら真実だと思うはずだぜ」


「ちょっと耳を近づけろ」


「ここだけの話」


「その石はな」


「あの魔女が作ったらしいんだ」


「あの魔女?」


「血命の魔女だよ」


「なっ!?」


「本当さ」


「奴がそう言ったんだ」


「後、作った後は無くしてしまって今は持っていないんだと」


「本人がそう言ったのか」


「ああ、そうだ」


「そして、これには続きがあるんだが......」


「まさか、この国にあるって言わないよな?」


「そのまさかだ」


「噂によると、あるらしいんだ」


「なんだと?」


「それでもやっぱり、場所はわからないんだと」


「だ、だが噂だろ?」


「この国には無いかもしれないじゃないか?」


「しかも、その石の事だって」


「作ったという証拠なんてないんだろ?」


「確かにそうだ」


「だが」


「意味のない話を奴がすると思うか?」


「奴のこれまでの行いだけを考えてみれば......」


「......」


「俺はそうは思わない」


「きっと真実だろう」


ゴクッ


丁度、器に入っていたコーヒーを飲み干す。


「ふむ......」


「石......ね......」


「流石、首都だ」


「勝手に情報が耳に入ってくる......」


鞄を手に席から立ちあがり、カフェを後にする。


「また来よう」


「出来るなら......」


ロンドンの街中を歩く。


さっきまで読んでいた新聞を歩きながら、続きを読む。


最後まで、隅々まで。


それでもお目当てのものは無かった。


「......」


「新聞には書いてないか......」


パサッ


用の無くなった物を道に捨てる。


「次の目的地まで行こう」


「一つだけでも、情報があるはずだ」


トットット


「それは~」


「がはは!」


「......」


失業者が道に居座り、前には下品な話をする集団。


横を見れば、路地裏で暴行する少年達。


「おら!持ってんだろ!?」


「だせよ!」


ドッ!


「うっ......」


倒れている一人の少年が三人の少年達に腹を蹴られ、痛そうにしている。


助けたいが、今は優先すべきことがある。


「すまない、少年」


見て見ぬふりをし、立ち去る。


これだけ見れば嫌になってくるものの


それでも、産業革命のなされた都市の風景は、豊かな物であるだろうとそう思う。


駅の前まで歩く。


すると、警官に詰められている大きなリュックを背負った少女が見えてくる。


なにか言い合っているみたいだ。


パシッ!


「ちょっと!」


「触らないでください!」


「私は魔法は使えませんって!」


「そう言っているじゃないですか!」


「はぁ......」


「それでもだ」


「女性は必ず、魔法がないか検査をしろと」


「政策が決められているからな」


「ほら、大人しくついてきなさい」


「でないと強制的に連れて行く事になるよ?」


グイッ


「本当に無いですってば!」


「は、離して!」


警官に連れていかれそうになっているみたいだ。


......可哀想だが


すまない......


横を通りすぎようとする。


「ん?」


「ちょっとあんた、止まれ」


「何でしょう?」


「......」


「男か?あんた」


「え、えっと?」


「いや、男にしては身長がやけに低いなと......」


「服装的に成人してるみたいだし......」


くそ......


やっぱり身長を指摘された。


遠回りすればよかった。


「気のせいじゃないでしょうか?」


「そうか?」


「ええ」


「そういうのって個人差がありませんか?」


「ふむ......」


少しの間の沈黙。


「いや......」


「念のため、君にも来てもらおうか」


結局こうなるか......


あまり使いたくなかったけど......


パチン!


指を鳴らす。


「ふう......」


「警官さん」


「改めて、言います」


「なんだ?」


「私は魔法使いでも、ましてや女性でもありません」


「通してくれませんか?」


「......」


「わかった、通れ」


「ありがとうございます」


コツコツコツ


「なな、なっ!?」


「どういう事なの......?」


「ちょっと!待って!」


ダッ!


「あっ、こら!」


「待ちなさい!」


「捕まえてみろ!」


タッタッタッタ


ガシッ!


「!?」


急に後ろから誰かに掴まれる。


「そこの人!」


「さっきのはどういうこと!?」


「なんで指を鳴らしたら警官が大人しく従ったの!?」


「教えて!」


「ちょっ、ちょっと!」


そのまた後ろから警官が走ってくる。


「そこのお前!止まりなさい!」


「は、離してくれ!」


「離さないもん!」


「あなたがちゃんと説明するまでね!」


「......」


そうしている間にも後ろから来ている。


「わ、わかったから!」


「ほら!」


ガシッ


少女の手を引く。


そして、走り出す。


「ふっふっふっ」


目的地まで続く列車に飛び乗る。


ドタッ!


丁度、列車が出る。


シュッシュッシュッ


「と、止まれっ!止まれ!」


どんどん警官の声が遠くなっていく。


「もう来ないよな......」


「はあっ、はあっ」


「......」


「ふうっ......」


息が整う。


「ほら、こっちに」


「ここにいたら迷惑になってしまう」


空いている席まで移動する。


「君は向かい側ね」


「わかった......」


少女と自分は座る。


「じゃあ」


「説明、してもらおうかな」


「なんで、あなたは通されたの?」


「それは......」


「警官の気分じゃないかな......」


「嘘だ」


「ありえない」


「あんなになって詰めていたのに!?」


「明らかにおかしいですよ!」


「......」


厄介だ......


「魔法、じゃないですか?」


「あなたって本当は女ですよね?」


「そんな普通の紳士みたいな服装しているけれど......」


「隠したって、駄目ですからね?」


「そうですよね?」


「えっと......」


どう返すものかな。


「すまない」


「その質問に関してはノーコメントで」


「......」


「はぁ......」


「そうですか......」


「わかりました」


「誰にだって隠したい秘密はありますもんね」


「それもまた個人の尊重です」


「もう言及しません」


「じ、じゃあ」


「ですが」


「あなたに対する興味は消えたわけではありませんよ?」


「ついていきますから......」


「えっ」


「あなたが話せる時がくるまで」


「勝手についていきます」


「だって、見たことがないんです」


「その個人の否定が一方的にまかり通ってしまう魔法だなんて......」


「それこそ、興味があるんですよ!」


少女は目を輝かせて、自分を見ている。


「え、えぇっ......」


困惑してしまう。


「それに、この国に初めて来て二日目で」


「心細くて......」


「し、知らないよ!」


「お願いします!」


「どうか!」


「......」


うーん......


迷ってしまう。


「そうか......」


「お願いします!」


「声、声大きいって......」


「お願いします!」


「わ、わかった」


「わかったから!」


「落ち着いて」


ぱあっと更に笑顔になる。


「本当!?」


「うん......」


「ありがとう!」


「その代わり、迷惑かけないでよ!?」


「ええ、もちろん!」


はぁ......この先どうなってしまうんだろう......


「じゃあ、よろしくお願いしますね!」


「こちらこそ......」


かなり不満ではあるが、今はそうするしかないだろう。


その後は他愛のない話をして過ごす。


魔力で動く、列車。


従来の機関車より早く進む。


数こそ少ないものの、すぐ移動できる点においては、優秀と言わざるを得ない。


そうしていると、目的地に着く。


バーミンガム


プシューッ


「なんか、早かったですね!」


「てっきりもっとかかるかと」


「そうだね......」


先を急ぐ。


一刻も早く。


追手が来てしまう......


コツコツコツ


「なんでそんなに急いでるんです?」


「こちらの事情でね......」


駅を出て、大通りに出る。


足りない物の補充だけしないと......


ここら辺にあると聞いたが......


キョロキョロ


「魔法店......」


「魔法店?」


「どこにあるかわかる?」


「いえ......」


「そうですね......」


「あーなら」


「つい昨日行った所なら」


「じゃあそこまで案内できる?」


「はい!こっちです!」


少女が先導し、私の前を進む。


曲がり角を曲がれば......


ドオンッ!


「!!」


「きゃああああっ!」


目の前にあった宝石店から、悲鳴と火が上がっている。


周りにはたまたま付近にいた二~三人の警官が銃を持って向けている。


「早く!」


「撤収するぞ!」


「車を持ってこい!」


「手を挙げろ!」


「いいや!」


「先に火だるまになるのはお前達だ!」


ぞろぞろと強盗達が出てくる。


「あ、あれって」


「魔法使い......」


「ご、強盗だ!離れろ!」


周りにいた人々が離れていく。


ざわざわしだす。


「燃やされたくないやつは来るんじゃない!」


「くそっ!」


「誰かを人質に......」


面倒だ......


「ど、どうするんです!?」


「そこのお前!」


「動くな!」


「ひいっ!」


......


「手を後ろに」


「地面に伏せるんだ」


「ほら、そこに突っ立ってるお前もだ!」


「早くしろ!」


はぁ..........


ジッ


強盗の目を見る。


「魔法なんてなかった」


「そうだね?」


「えっ」


「あれ..........」


「これは......」


警官達が驚く。


「ああ、こんな事もしなかった」


「そうだね?」


「......」


「あれ..........」


「私、何してたんだっけ..........」


さっきまで上がっていた炎がなくなる。


「じゃあ行くよ」


「えっ!?」


「お、おい!お前!」


「止まれ!」


警官達がそう叫ぶ。


「やばい!」


「ほら!」


「逃げるよ!」


「え、えっ!?」


「あ、は、はい!」


とにかく、ここから離れないと!


「くっそ」


「やっぱり」


「不便すぎる.......!」


「というよりも」


「今日なんかありすぎじゃないか!?」


「ふっふっ」


「そういえば.......!」


「あなたの名前.......」


「聞いてませんでした!」


「今それ言う!?」


「くっ......」


「わかった」


「私の名前は......」


「グレーテルだ!」


「覚えておきなさい!」


タッタッタッ





























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