第3話

霧の中の希望


第三章:霧が晴れて


六甲山を下りてから数日が経った。


裕也はペンダントを握りしめながら、仕事帰りに立ち寄った三宮の喫茶店でぼんやりと窓の外を眺めていた。

街は相変わらずの喧騒に包まれている。信号が変わるたび、人々はせわしなく行き交い、冬の冷たい空気がガラス越しに伝わってくる。


だが、裕也の心はどこか空虚だった。


「霧が晴れたとき、私は何かを失いました。」


彼女の言葉がふとよみがえる。


あの日の霧が、すべてを包んでいたあの瞬間が、まるで夢だったように思える。

ペンダントだけが現実で、彼女の姿も声も、霧とともに消えてしまった。


「また霧が出たら、会えるんだろうか。」


裕也は六甲山に行くつもりだった。だが、その足は駅へ向かい、結局帰宅することを選んでしまった。


「どうせ霧が出ても、彼女はもういないんじゃないか。」


そんな気持ちが心の奥でくすぶっていた。


部屋に戻り、薄暗い部屋の中で裕也はペンダントを机の上に置いた。

霧のことを考えるほど、ますます彼女の存在が遠く感じられる。


待つことは、ただの期待で終わるのかもしれない。


裕也はその夜、ベッドに横になりながらも眠れなかった。


■ 失敗のクッション(期待と失望)


次の朝、天気予報では「午後から六甲山周辺で霧が発生する可能性がある」と伝えていた。


裕也は意を決して、仕事帰りに六甲山へ向かうことにした。


展望台に着いた頃には、霧が少しずつ街を覆い始めていた。

昨日までの迷いはどこかへ消え、彼は静かにベンチに腰を下ろした。


霧が濃くなり、街の明かりが次第に霞んでいく。


しかし——


何も起こらなかった。


彼女の姿はない。声も聞こえない。ただ、静寂が広がるだけだった。


裕也はしばらく待ち続けたが、霧が晴れたとき、自分がただひとりでいることに気づいた。


「やっぱり……来ないか。」


がっかりした気持ちと、どこかで納得していた自分がいた。


■ 第二の霧、そして再会へ(成功への転換)


翌日も六甲山を訪れたが、霧は出なかった。


「もう一度だけ。」


三度目の六甲山行きは、夜だった。


その日、山は静かで、空は重く垂れこめていた。

裕也は再びベンチに座り、ペンダントを握りしめる。


やがて、深い霧がゆっくりと山を包み始めた。


遠くから、足音が近づいてくる。


裕也の心臓が高鳴る。


やがて霧の中から彼女がゆっくりと姿を現した。


「待っていたんですね。」


彼女は柔らかく微笑んだ。


「来るかどうかわからなかったけど。」


裕也は立ち上がり、彼女と向き合う。


「霧の中で、あなたを見つけた気がします。」


彼女は少し寂しそうに目を伏せたが、再び裕也の目を見た。


「それなら、よかった。」


霧はさらに深くなり、二人の間に静かな時間が流れていった。

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霧の中の希望 高橋健一郎 @kenichiroh

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