48(終) そして最強へ至る

 ふと、意識が自分の肉体から離れていることが理解できた。

 今はおそらく、夢の中。

 アリア・クルセディスタという器から抜け出して、魂だけでこの場所にいる。

 それで、合っているだろうか女神殿。


 ――――はい、急なお呼び立て、もうしわけありません。


 構わない。

 私も、色々と人心地がついた頃だし。

 何よりここはあくまで夢。

 別に、現実へ大きな影響があるわけでもないだろう。


 ――――そうですね、あくまで貴方と話をするためだけの空間ですから。アリア様。


 今生の自己紹介はいらないようだ。

 それで、話はなんだろうか。


 ――――まずは、魔神を討伐していただき、感謝を。


 倒すべき敵が目の前にいて、それが偶然魔神だっただけの話。

 私のやるべきことは、当時から何も変わっていない。


 ――――だとしても、です。アリア様は、お優しい方ですね。


 そう言われると、少し照れるな。

 私は結局のところ、自分にとって優先すべき存在の中に、私と親しい者がいただけなのだ。

 それは今も、そして前世でも変わらぬことだ。


 ――――だからこそ、貴方を聖女の器に選んで正解でした。


 ……シャロンではなく、か。


 ――――……


 シャロンは、千年前の聖女の器だったはずだ。

 当時の時代に、その器が必要になる問題は存在せず。

 結局、シャロンは戦いの中で死んでいったが。

 故にこそ、シャロンをもう一度器に収める選択肢も、あったのではないか?


 ――――それは、ありません。私が選ぶ聖女の器に相応しい魂は、貴方だけです。


 それは、なぜ?


 ――――貴方が、貴方だからです。アリア様。


 もう少し、わかりやすく言ってもらえるか?

 私は、そこまで察しが良い人間ではない。


 ――――貴方はシャロン様とは違います。確かに貴方はシャロン様から多くの影響を受け、シャロン様と同じ道を選びました。


 そうだな。

 強さと自由を求めた結果が、今の私だ。

 生まれ変わり、才能を手にしてそれはより一層強くなった。

 性別だって同じになったくらいだ。

 当時のシャロンと今の私は、それくらいよくにているだろう。


 ――――性別のことは……申し訳ありません。こほん、確かに貴方とシャロン様は同じ道の上にいるでしょう。少なくとも、今は。


 これからは違う、と?


 ――――今回だって、そうです。もしも命を捨ててでも何かを成し遂げたいと思った時。シャロン様は躊躇いません、ですが貴方は違う。


 最後まで、生き残ろうとするだろうな。

 確かにそれは違う。

 私はシャロンのように、若くして道半ばで力尽きることはないのかもしれない。

 だがそれでも、道は同じだろう。


 ――――いいえ、いずれ貴方は道を違える時が来る。それは別に悪いことではありません。違える道を選ぶのは、貴方自身なのだから。


 なるほど。

 見えてきたぞ。


 ――――ええ、なぜなら貴方は、”自由”だから。貴方自身が望んでいるように。そしてこれからも、その生き方を体現するように。

 ――――私が保証します。アリア様。貴方はこれからも、貴方の意志で道を選び、自由に生きていく、と。


 その中で多くのものを私は見るのだろう。

 時にそれを討ち果たすこともあれば、時にそれを救うこともある。

 ああ、解っているとも。

 私は私がそうしたいから、選択する。


 そして私は――――



 ――――最強へと至る。



 …………ふふ。

 そうだな。

 零からはじめ、かつて私は私の目指せる最強に至った。

 だから今度は、才能あふれるこの器にて、最強を目指そう。


 ――――ええ、楽しみにしています。


 女神殿。

 貴方が私を選んだこと、私は後悔させたりしない。

 見ていてくれ、きっと、女神殿の望んだ通りに私は自由を進むだろう。


 誰にも縛られず。

 自由にすら縛られず。

 ほんとうの意味で、あるがままに。


 私は、アリア・クルセディスタなのだから。


 ―

 というわけで、本作はここで一区切りとなります。

 お読みいただきありがとうございました!

 またお読みいただける機会があれば嬉しいです。

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零から最強に成り上がった男、才能あふれる令嬢に転生する 暁刀魚 @sanmaosakana

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