処方箋⑨〜読まれる文章を書け!は今世紀最大の害悪アドバイス


 みんな、


「自分のためだけに書くな!読まれる文章を書くために、読者の方々を喜ばせろ!」


「文章を読んでもらうのだから、ちゃんと読者のことを想像しろ!!ただ書くだけなら中学生だってできる!!」


「読者の方々を飽きさせる文章なんて、けしからん!構成やプロットなどをしっかりと作って、わかりやすい文章を書かないと読まれないぞ!」


 という、以上のようなアドバイスを、どこかしらで見聞きしたと思う。






 これ、実に危険なアドバイスだ。

 害悪、と言っても過言じゃない。


 一見して正しそうだから、なお始末が悪い。


 見ただけでヤバそうな毒キノコはマシだが、

 マツタケに似ている毒キノコは危なすぎる。


 それと同じだ。


 





 では、問題です。


「読まれる文章を書け」


 ……はい。


 この言葉、どこが悪いと思う?







 その答えはな、


「曖昧かつ普遍的だから」


 だ。





 ん? 説明が必要だって?


 よし、じゃあ、こう言ったら、


 ちょっと話が見えてくるんじゃないか。










 その読まれる文章は、「誰に」読まれる文章なんだ?


 その読者の方々は、「どんな層を」差しているんだ?





 うん、答えられないよな。





 そう、つまりだ。


 この「読まれる文章を書け!」という、


 一見して正しそうな、


 アホみたいに普遍的なアドバイスを、


 さも、金言のようにのたまう奴らは、


 君の強みを、

 君の特色を、

 君の文章を、

 君の才能を、


 まったく理解していない。


 いや、興味もないんだろうな。


 普遍的なことを上から目線で言ってやれば、


 大きく間違うことなく、


 大多数の物書きに聞いてもらえるもんな。


 反対意見なんて、ほとんど出ないだろう。



 


 じゃあ、文章を書く時、読者の方々のことを無視しろってことか?


 自分の書きたいことだけを書いて、それで自己満しろってことか?




 いいや、それも違う。


 正しくは、





 コイツに「だけ」感動してもらう文章を書く。





 ってことだ。





 良いか、落ち着いて考えろ。


 読者の方々、って誰を指しているんだ?






 曖昧なターゲットを狙って書けば、それはもちろん、ブレた文章になるぞ。


 コッテリな豚骨ラーメンがウリです!!


 って宣伝しているラーメン屋が、


 ヘルシーなラーメンを出そうとするなよ。

 王道の醤油ラーメンの作り方に凝るなよ。


 何を万人受けしようとしてるんだ。


 美味しい豚骨ラーメンを出すことを忘れるなよ。






 もちろん多くの人に読んでもらえるように、読みやすくする配慮は大事だ。

 そういうスキルも、地道に磨けばいい。


 いくら美味しい豚骨ラーメン屋だって、


 椅子を綺麗にしたり、

 テーブルを拭いたり、

 割り箸を補充したり、

 

 とか、


 そういう「食べやすくなる配慮」はやってる。


 それもめっちゃ大事だ。コツコツ磨いた方が良い。

 






 しかし、それ以前に、


 たった一人の人間の人生を変えるほど、


 強烈に面白く、感動させる文章を書けているのか?


 って、大前提の視点が抜けている。


 「たった一人の人生を、えぐるほどの鋭さ」を得てから、

 「たくさんの人間が、読みやすくなる配慮」を得れば良い。


 順序が逆なんだよ。

 前提を無視すんな。


 ターゲットを絞らずに、読まれる文章を書け、は大間違いなんだよ。








 読まれる文章を書け、と叫ぶ奴らのほとんどは、これを理解していない。

 多分、無意識のうちに、幅広い人間に受け入れられる文章を書け、と言っている。


 結果、どうなるか?


 似たり寄ったりの作品が生まれる。

 書きたかった文章から離れていく。

 心から書くことが楽しめない。

 そもそも自分がどんな物語を書きたかったのか忘れる。

 迷走する。充足しない。苦しい。



 どうだ?


 書いてて、そういう感情になったヤツはいるんじゃないか?


 そして冒頭にも言った、


「読者の方々に読まれる文章を書け!」


 というアドバイスに、


 心のどこかで、


 モヤモヤしていた奴らは意外と多いんじゃないか?




 合ってるよ、そのモヤモヤ。




 そのアドバイスを吐いた奴らは、


 君がどんな文章で、

 どんな人間(その人間は世界でたった一人)を、

 どう感動させたい(もしくは苦しめたい)のか、


 まるでわかっていない。


 いや、


 そこまで言ったら意地悪だな。


 わかることができない、


 が正しいな。




 もちろん俺にもわからない。


 誰を(クドいようだが、たった一人を)感動させたいのか、


 を知るのは、


 自分自身にしかわからない。

 





 自分の最高の教師は、自分だぞ。






 もちろん他の人のアドバイスを聞く時期があっても良い。

 俺も、そうやって状況を打開した時もあった。

 誰の意見も聞くな!!無視しろ!!とまでは言わない。


 けどな、


 なんのために、


 誰のために、


 なにを伝えるのか。




 それを明確にせずに、


 その前提を踏まえずに、


「どうすれば多くの人に読まれるんだろう?」

「全然人気が出ていない……どうしよう……」

「やっぱり、僕の文章は読みにくいんだ……」


 って思い悩むのは、


 マジで、


 大マジで、


 順序が間違っている。

 

 



 君は本当に、


 何を書きたいんだ?


 なぜ書きたいんだ?


 考えろ。


 ガチで考えろ。


 鼻血が出るほど考えろ。


 頭が焼き切れるほど考えろ。

 





 読まれる文章うんぬんは、


 その後のオプションでしかない。


 そのアドバイスにハナっから振り回されちゃ、


 ハナから書く意味がない。



 



 鈴木貫太朗


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この時代に生まれてしまった小説家、について 鈴木貫太朗 @kan-suke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ