37話 数の暴力
カブトはチャコンと一緒に正門へ向かっている最中、警鐘が町中に響き渡っていたのだが、しばらくすると村の中は、ひとけのない静寂に包まれる。
正門に辿り着いた時には、八百屋の白狸ベテラ爺さんと朝市で見かけた面々や小さな猫姿の獣人の集団と熊のダイモンさんが率いる部隊が揃っており、戦闘できる人々はせいぜい50人足らず。
俺は流石に少ないなと思っていると、「カブト様!チャコン!」と声が聞こえ、その声の方向に振り返るとラルトさんが駆け寄って来ていた。
「ラルトちゃん!どんな敵が向かってきてるんです!?」
「遠目で見たところ、白蟻の大群が20万匹以上がこの村に向かって来ています」
ラルトさんは俺の方を見ながら続けて話す。
「カブト様…貴方は客人です。私共に任せて欲しかったんですが、戦う気満々の様子ですね」
「はい、この村の防衛のお力添えできれば…と思って来ました」
頭に手を当て、ため息を吐きながらラルトは答える。
「ハァー…、分かりました。ワタクシとチャコンは、カブト様のサポートをしますので、ご安心ください」
「カブト様が危なくなったらコンとラルトちゃんが救出するです!」
「それなら安心ですね」
俺はホムを倒した夜、アメモとの時間を思い出す。
その内容が「1か月後に出会う人々は必ず救うようにしてね」というヒントをもらっていた事だ。
(戦闘員全員を守るのはハードモード過ぎじゃないか?相手は20万匹を超える白蟻だし、どうかな…)
俺は考え込むポーズをしていると、ダイモンさんが閉じられた正門の前に立つ。
「敵の大将は、白蟻女王!その相手はビャビャ会長がしてくださる。我々は、前座の白蟻の殲滅を行うぞぉー!!」
「「「「「うぉおおおおおおおおお!」」」」」
ダイモンさん達は、門の扉を開けて他の皆も続き、外へ出ていく。
俺も向かおうとすると、大太刀を後ろに背負ったベテラ爺さんが近づいて声を掛けてた。
「客人のカブト坊ちゃんは避難しなかったのかい?」
「はい!俺もお力添えできればと思って」
ベテラ爺さんにそう呟くと、優しい目で言葉を返す。
「そうかい…
「はい!」
「カブト様!コンは壁の上から弓を射るので、任せるです!」
「ワタクシはカブト様の近くで行動します」
俺はコクンと頷き、ダイモンさんがいる門の外へ共に向かうのだった。
◇
白蟻が移動する空は段々と雲り始め、湿った空気が漂い始める。
遠方を見ると、不気味な赤い光を放ちながら白蟻がガサガサと砂煙を上げながら樹木を飲み込み、白蟻の波が押し寄せて来ていた。
比べて此方側は、不安な表情をしている獣人が何人か目に見える。
俺はダイモンさんに声を掛けた。
「ダイモンさん。先で戦ってきていいですか?」
俺に気づいていなかったかのように声を上げる。
「昨日来た龍人族の坊ちゃんじゃねぇか!?客人なのに戦場に来てよかったのか!?」
「緊急事態なので…参戦しました」
「心強いが戦場の経験とか実力はあるのか?」
「それなりには…ってところですね」
「そうか…無理はするなよ」
「はい!ラルトさん行きましょう!」
「ええ、村の防衛をお願いしますよダイモン」
「ああ!任せとけ!」
ダイモンと残った組は、白蟻の大群に向かっていく俺とラルトを見届けたのだが、疑問になった狸の獣人のグルがダイモンに声を掛けていた。
「ダイモンの兄貴…あの龍人族の坊ちゃんって何者なんすかね…」
「昨日来たばかりだから知らんけど、ベテラ爺さんよりは強いんじゃないか?」
「はぁ!?なに適当なこと言ってんすか?爺より強いのは信じねえっすよ」
「お前の爺さんよりっていうのは、大きく出過ぎたな。すまんすまん!」
そう二人で白蟻が向かってくるのを待ちながら待機するのだった。
◇
ラルトと俺は、村の戦闘員と距離が離れたところで立ち止まる。
「カブト様、何をするつもりですか?」
「これから、助っ人を呼びます!〈従魔召喚〉来い!フロマ、モルビエ!」
目の前に召喚陣が現れ、白狼と黒狼が出現する。
「フロマ、モルビエ!俺が旅立って間もないけど、すぐ再会出来たな!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
「おっと!ヨシヨシ!」
フロマとモルビエは尻尾を振りながら嬉しそうに飛びかかってきたので、ワシャワシャと撫でながら俺は話す。
「いきなりで悪いんだけど、森を燃やしながら白蟻の殲滅を手伝ってくれないか?」
「ワフワフ!」「ワンワン!」
フロマとモルビエは、手伝ってくれるらしい。
「ただし、白蟻以外襲ったら駄目だぞ!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
後ろにいたラルトさんは俺に尋ねる。
「カブト様は、召喚した2匹の狼で何をされるつもりで?」
「フロマとモルビエにここら一帯の森を燃やしてもらいます。俺の予想通りなら、炎が燃え上がれば時間稼ぎが出来ると思います。燃えなかった抜け道に白蟻が来た場合は、俺が倒しますが、やむ負えない場合は切札を使うつもりです。見てれば分かると思います」
「カブト様の言う事を完全に理解していませんが、承知しました…ですがワタクシ的には、2匹の狼でどうにか出来ないと思うのですが…」
「ラルトさん、フロマとモルビエを舐めてもらっては困ります。…久々の戦場だ!炎纏って行ってこい!疲れたら帰っていいからな!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
瞬時にフロマは〈炎鎧〉モルビエは〈黒炎鎧〉を纏って森を駆ける。
通った道はメラメラと燃えるが、整備された道は石畳で燃えなかったが効果を期待しながら、俺は〈マップ探知〉をすると、村に向かってくる白蟻の速度が下がったのを理解し、ラルトさんに伝えた。
「ラルトさん!白蟻の弱点分かりました!炎が弱点で高温を苦手としています」
フロマとモルビエを見つめて呆然としていたラルトさんは、俺の声で反応をした。
「っは!?…それは朗報ですね。ダイモンさんに伝えておきます」
「お願いします!って…ラルトさんはどうやって伝えるんですか?」
「ワタクシのスキルに〈
「それは重宝するスキルですね。他に使える方がいらっしゃるんですか?」
「ワタクシだけだと思います」
「羨ましい…」
「カブト様が適正あるかもしれないので、この戦が終わったら試してみましょう!」
「ですね!今は目の前の敵に集中しますか!」
その後、ラルトさんがダイモンと〈通信〉をしている最中もフロマとモルビエが白蟻に炎を纏ったまま体当たりをしていた。
白蟻は簡単に燃え上がり、火だるまになって炎が燃え上がり、白蟻の進行を遅らせる事に成功しているが、足止め程度の問題なのは変わらない。
弱い白蟻がやられると後方にいたレベルの高い白蟻が味方を踏み台にして前に押し寄せるの一方で、フロマとモルビエは奮闘した。
「燃えてない所から村を目指して進行してキリがない」
「カブト様、後ろに下がりますか?」
「フロマとモルビエに任せるのも、主人として示しがつかないので、そろそろ俺自身が戦ってみます」
「畏まりました」
俺はフロマとモルビエが戦っている近くで白蟻に向けて〈マリオネット〉を発動するが、効かなかった。
「操作系のスキル耐性持っているのか。遥か後方にいる白蟻女王が指揮権を持ってる感じだな。こういう時は〈異空間収納〉から木製の槍で〈水槍〉纏って…〈槍術〉発動!これで戦うかな」
ラルトさんは横目で俺を見て驚く。
それはそのはず、本来〈水槍〉は、手に持たずに敵に水の槍を生成して発射するスキルなのだが、マナ消費が非常に激しいのが難点。
ホムと戦った以来、〈水槍〉をどうにかできないか、レヴィアに相談したところ、精霊樹をもらって槍型に削り作り、水属性付与のされた槍を作成。
その後、水属性の効果を発揮させるために、〈水槍〉を纏わせて攻撃力を上げるという、力業で戦えるようになったのは、つい一週間前の話である。
〈槍術〉と〈水槍〉を発動しながらやると、1万程度の攻撃力を得られるようになり、大体の弱い敵なら倒せる程とレヴィアにお墨付きをもらう程に成長したのだ。
「〈水槍〉の刃先を鋭くマナで調整出来たし、白蟻の方へ突っ込んで来ます」
「木製の槍を〈水槍〉に纏わせるですか。本来の〈水槍〉とかけ離れていますね…そんな事よりも、ワタクシがカブト様の後ろをお守りします」
「お願いします!」
俺は白蟻に走って頭に木製の槍を〈水槍〉を突き刺すと、赤目の光が消える。
白蟻の酸を躱しながら次々と頭に刺し周る。
その光景に、ラルトさんは困惑の表情を浮かべる。
「いとも簡単に白蟻の脳天を突き刺すのは、カブト様の〈水槍〉がやはり特別ですね」
「ラルトさんこそ、手をナイフの様に突き刺してますよね」
「ワタクシは、緑色に汚れていくのを我慢しながらやってますよ…」
尻尾をシュンとさせながらラルトさんと俺は、白蟻を確実に倒していくのだった。
◇
一方、チャコンは弓の矢に火を付与して、白蟻に矢放っていた。
周りには猫獣人がチャコンに合わせて矢を放つ。
「カブト様が森を火の海にしたお陰で、押し寄せる白蟻の数が少ないです!」
「このまま続ければなんとか持ち堪えられますニャ!」
「まだまだ白蟻はいるです!皆さんの負担を減らすです!」
チャコンは他の所へ目をやると、ダイモンが慌てて声を荒上げる。
「大変だ!燃えてない箇所から村の方に向かってきている!」
「
「お願いするぞ!ベテラ爺さん」
「爺!グルも行くぞ!」
「グル…お前はダイモンと残れ!このベテラ爺に任せんさい!」
咄嗟にグルとダイモンを置いてベテラ爺は颯爽と移動していった。
「ベテラ爺さんがいれば、大丈夫だろう」
「そうだと信じるっす…」
村を周りを守っているダイモンとベテラ爺率いる
鎧になった俺の始まりは、宝箱でした クロノヨロイ @TeaArce527
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