36話 襲来




 門番をしているダイモンさんが大声で役所に向けて走ってきた。


 「村の外が大変だぞーーーー‼‼」


 それを聞き取ったラルトさんが、瞬間移動したように外へ出て来る。


「ダイモン、何事ですか?」


 息を切らしたダイモンは、呼吸を整えながらラルトに伝える。


「ハァーハァーハァー…、村から離れた場所で数えきれない程の魔獣が出現したぞッ‼この村に向かってきている‼」


「畏まりました。ダイモンは、部下と村の者を村の中に戻すために警鐘を鳴らさせてください。その後は村の守護をお願いします。ワタクシは村の外の様子を確認します」


「わがったでッ!」


 ラルトは、スッと瞬間移動して、村の外を見渡せる丸太塀の上にスッと乗っかった。

 遠方を見つめると、湖からウジャウジャと湧いて出てくる。

 

白蟻ホワイトアントが20万以上ってところですか。王国が滅ぼされた時代の邪龍配下の生き残りが、湖に沈んでいたという伝承は誠のようですね」


 ラルトは、片手の手の平を耳に当て連絡を取る。


「ビャビャ会長へ〈通信コネクト〉。聞こえますか?」


「ラルトやぁ。大事おおごとやなぁ」


「はい。白蟻ホワイトアントが王国跡近くの湖から湧き出ています。推定20万以上。白蟻女王ホワイトアントクイーンは未だ捉えられていません。この村に襲来するまで数十分ほどの猶予がございます」


「了解やわぁ、わっちの出番かい?」


白蟻女王ホワイトアントクイーンが出張ってきた後、お願いします」


「はいよぉ…わっちの出番があればだけどぉ。それとなぁ、カブト坊ちゃん、チャコンと一緒にラルトの方に向かったよぉ」


 ラルトは、動揺してビャビャに聞き返す。


「…はい?今なんと??」


「カブト坊ちゃんがラルトの方に向かったってぇ。サポートしてあげてなぁ」


「は、はい。畏まりました…」


「倒せない奴らわぁ、わっちが纏めて排除してあげるからねぇ。頼むなぁ、ラルトやぁ」


「はい。では…」


 この村に向かってくる白蟻を眺めたまま、ラルトは呟いた。


「水神の守護鎧ですか…」


 その後すぐに、正門でカブトとチャコンはラルトと合流するまで、向かい撃つ準備を進めるのだった。









 30分程前、カブトとチャコンは朝市で様々な獣人に声を掛けられながら、買い物を楽しんでいた。

 魚処の大柄な熊耳が付いた女性にチャコンは声を掛けられる。


「チャコンちゃんやー!今日は川でとれた鮭あるよー」


 チャコンと俺は、魚処の場所へ歩み寄る。


「わぁー!立派な鮭です!5匹頂いてもいいです?」


「毎度あり!後でクルトの所に持っていくからよ!」


「魚処のイサモさん!いつも新鮮な魚ありがとです!」


「はいよぉー!また来てなー」


 大陸銀貨15枚渡して、移動すると次は八百屋の白狸の老男性に声を掛けられる。

 眼をほぼ閉じて優しいお爺さんって感じと裏腹に、相当な実力者だと伺えた。

 

「チャコンのお嬢!今日は、龍人の坊ちゃんと買い物っすかい?」


「そうです!カブト君です!」


「どうも、昨日村に着いたばかりのカブトと申します!」


「ほぉ、前回の龍人さんは、何十年も前に来た以来だなぁ」


 狸のおじさんは、俺の顔をジーと見てくる。


「俺の顔に何か見覚えがあるんですか?」


「わりいわりぃ。大昔ここの近くに王都があってよ。滅んじまったんだが、そこに住んでいた水龍様と似ていてよ。懐かしい気分になっただけだ!気にすんな!」


「そうですか…」


 何者なんだろう、この白狸爺さんと思っていると、チャコンは口を開く。


「ココンッ!?ベテラ爺さん一体いくつ何です?」


「そりゃあ、長く生きてるから忘れちまった!それよりも何か買っていくかい?」


 八百屋の中をよーく見てみると調味料類や野菜が色々置かれていた。


「調味料見てもいいですか?」


「カブト坊ちゃん!ゆっくりみてってや!」


「分かりました」


 俺はワクワクしながら調味料を見ると、藻塩や三温糖、白味噌や魚醤など様々な物が瓶で売られていた。

 値段を見ると大陸金貨1枚と値段が張られている。

 しばらくすると、ベテラ爺さんが俺の方に近づいてきた。


「決まったかい?カブトの坊ちゃん」


「決まりました!調味料を一瓶ずつ買ってもいいですか?」


「ビャビャ会長の客人だから金の心配してないが、金貨24枚あるかい?」


「はい、ありますよ!金貨24枚です」


 ベテラ爺さんに金貨を渡すと、腰の巾着袋に仕舞い、その巾着袋から瓶ケースを取り出す。


「毎度ありだ!特別に調味料ケースに入れてやるよ!」


「ありがとうございます!」


 瓶ケースを持ちながら手際良く仕舞い終わると、俺は〈異空間収納〉へケースを入れた。


「〈異空間収納〉持ちかい。羨ましいな!外でチャコンのお嬢を待たせているから早く行ってやんな!」


「はい、ではまた!」


 俺は店を出て、チャコンさんに「お待たせしました!」と声を掛ける。


「カブト様、欲しい物買えました?」


「はい!調味料一種類ずつ買いました!」


「金貨24枚です!?コンの給料の3ヶ月分です!懐は大丈夫です?」


「半分減りましたが、持ち金が少なくなったらビャビャさんに買い取ってもらいます!」


「それがいいです!カブト様、次の所へ参りましょう!」


「はい!」


 次の場所に向かおうとしたが、俺の〈危機察知〉が発動し、チャコンの手を引き留めた。

 異変に気付いたベテラ爺さんも外に出て来る。


「カブト様にベテラ爺さん、どうしたです?」


「チャコンのお嬢、カブトの坊ちゃん。さっさとビャビャ会長の所に戻ったほうがええ。数十分もしない内に外が戦場になるぞ」


 目を開いたベテラ爺さんを見て、俺は頷く。


「わかりました。チャコンさん戻りましょう!」


「はいです!」


 ベテラ爺さんは、俺とチャコンが役所の方に向かうのを見届けてから声を張り上げる。


「出合え出合え!いくさの準備じゃけぇ!村の外でおびただしい数の敵が此方に向かっとる!非戦闘員はに避難しとけぇ!」


 ベテラ爺さんはマントをバサッと取って一瞬で甲冑装備に着替え、自身の身長より高い大太刀を背に回して振り返る。

 ベテラ爺さんの前には、朝市で見かけた人達20名が薙刀・ハンマー・弓・籠手を着け、ベテラ爺さんの前に整列していた。


「ベテラ頭領の元に我ら怪狸かいり組、馳せ参じました。偵察の情報によりますと、白蟻だそうです」


「この歳になって、因縁のシロアリにお目に掛れるとは、何かの運命かい…敵は、約500年前に湖に封印された邪龍の配下の生き残りや!気を引き締めとけぇ。オラたちの後ろにはビャビャ会長がおる。思う存分、敵をぶちのめせえ!」


 「「「「「はっ!」」」」」


 ベテラ爺さんを先頭に怪狸かいり組は、湖がある正門の方へ向かったという。







 俺とチャコンは走って役所に到着すると、ビャビャさんが役所前の椅子に座りながら外で待っていた。


「お帰りやぁ。カブト坊ちゃんにチャコンやぁ」


「ビャビャさん!村の外側で敵が村へ近づいているんですが…」


「知っとるよぉ。邪龍配下の白蟻女王ホワイトアントクイーンの集団だねぇ。カブト坊ちゃんやぁ、力を貸してくれるかぇ?」


「はい、是非ともお力添えさせてください!俺の正体をバラす事になりますが、覚悟は出来ています」

 

 俺は、真剣な目でビャビャ会長に答えた。

 チャコンさんは心配そうな目で「カブト様…」と呟く。


「ヒャヒャヒャ!それは心強いなぁ。チャコンやぁ、カブト坊ちゃんのサポート頼むよぉ。そう言うと思うて、ラルトにカブト坊ちゃんとチャコンが正門の方に向かったって言っといたよぉ」


「ビャビャさんにはお見通しですか」


「カブト坊ちゃんならぁ、言ってくれると思ってたよぉ」


「カブト様が戦うなら、コンは弓で援護するです!」


「ラルトがいる正門へ行って来なぁ。取り溢し分はぁ、わっちがなんとかするよぉ」


「はい!行ってきます!」

「コンも行くのです!」


 カブトとチャコンが正門へ走って行くのを見届けた後、ビャビャは一人で楽しそうな顔をしながら言葉を吐く。


「わっちはぁ、高みの見物でもするかぃ。カブト坊ちゃんは、どんないくさをしてくれるんだろうねぇー」


 この数十分した後に、白蟻と衝突するのだが、磨かれた技量とスキルで派手な戦闘を繰り広げる事になるという。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る