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お出かけ当日。自宅の最寄り駅に先に来たのは恒だった。
「三十分前は流石に早すぎたか?」
水族館まで少し距離があるので早めの時間に約束したが、それでも恒は早く目が覚めてしまい約束の時間まですることが無くなってしまった。
「少し冷えるな。コーヒー買ってくるか」
恒は悠に連絡し、待ち合わせの場所である改札口を離れた。コーヒーショップに着き、メニューを選んでいる間に悠から駅に着いたとの連絡が来た。恒は悠に改札口で待つよう返信した。ホットコーヒーを二つ買い、改札口へ向かう。
「あれ、服が少し被ってる!」
「おいおいマジかよ!」
お互い指を差し合って笑う。恒の服装は白のTシャツにデニムのズボン、ライダースジャケット。悠の服装は黒のニットにデニムのロングスカート、ライダースジャケット。デニムのボトムスとライダースジャケットが被った。
「いつも仕事の服で会ってたから私服は知らなかったけど、こんなことある?」
「まさか服の好みが似ているとは。はい、コーヒー」
「え、ありがとう」
二人はホームに向かった。水族館までは遠いので特急で行く。
「仕事お疲れ」
恒は悠のカップに自分のカップを当てた。
「お疲れ様でした。あ、コーヒー代」
「いいよいいよ。今日はたくさん楽しもうぜ」
「うん、ありがとう。水族館なんていつぶりだろ」
「俺は……小学生の時以来か」
「私は高校生の時に友達と行ってからだな」
「今日の所は初めて行くわ」
「珍しい生き物も結構いるよ」
移動中は水族館の話や学生時代の話をして過ごした。小学生の時はお互い同性の友人と一緒にいたので話す機会は多くなかったが、住んでいた地区が同じだったので時々帰り道で話すことはあった。その後、恒は地元の公立中学校、悠は私立の中学校に通い疎遠になっていた。お互い知っている思い出、片方しか知らない思い出を大人になった今振り返る。
水族館の最寄り駅に着き、水族館に向かった。世間も休日であるが故に、入場券売り場は家族連れやカップルで賑わっていた。入口を通って進んでいくと、巨大な水槽が見えた。恒は「水槽でか」と呟き、悠は「イルカイルカ〜」と口ずさみながら水槽に近づいた。イルカが近寄ってくると、悠は何度も頷いた。
「首コクコクするんだ」
「動物の顔を見るとなぜか動かしたくなるんだよね」
「ふーん」
「イルカー、会いたかったぞー」
イルカに話しかける悠を恒は微笑ましく見ていた。
「恒、一緒に写真撮ろう」
「おう、いいよ」
悠は自身のスマホのインカメラでツーショットを撮った。後ろにはしっかりイルカも写っている。
次のお目当ての動物がいる所へ向かう途中、よそ見をしながら歩いてくる子どもが二人の左側からやってきた。悠の右側には恒がおり、どうしたものかと悠が困っていると、それに気づいた恒が悠を自分の方に抱き寄せた。
「危なかったな。大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」
悠は少し恥ずかしくなって俯いた。恒もすぐ手を離した。
次のお目当てはラッコである。日本で見られる場所が少ないのもあって、ラッコのエリアには多くの人が並んでいた。
「あちゃー、めっちゃ人いっぱいいる」
「すごいな。でもせっかくなら見たいだろ?」
「うん」
「それじゃあ、手。逸れないように」
恒は悠に左手を差し出した。
「うん」
悠は戸惑いながらも恒の手を握った。列はゆっくり進んでいき、ラッコが見えたところで悠はスマホで写真を撮った。
「見られて良かったな」
「並んだ甲斐があった」
列が終わったところで二人は手を離した。この後も館内を見て回り、水族館を出た。
水族館の近くでは海の幸を堪能できる飲食店が多く、二人はお昼ご飯を食べるためその内の一軒に入った。
「せっかくだから奮発して牡蠣や鮑を食べちゃおうかなー」
「仕事を頑張ったご褒美だ。俺は昼から飲んじゃお」
「お、いいねー。私も」
二人が注文した料理が並べられ、悠は写真を撮った。すると、料理を運んできた店員が声をかけてきた。
「今日はデートかい?」
「え⁉︎私達は付き合ってないですよ。今日は仕事を頑張ったご褒美で同級生と来たんです」
「そうなの?服が似てるから……」
「偶然被って、私達も驚きましたよ」
悠が店員と話し、恒は話を聞いて頷いていた。話はすぐ終わり、二人は乾杯をした。
「流石にカップルだと思われるよね」
「そうだな。もしかして、さっき俺が肩掴んだり手繋いだりしたの嫌だった?」
「ううん。あれは私を助けてくれたんでしょ?」
「うん。平気ならいい」
食事を終え電車で帰っていく。恒の家の近くにあるスーパーで食材とお酒を買い、恒の家に向かった。
「お邪魔します」
「どうぞ」
恒の部屋はエキゾチック柄の物で統一されていた。
「これはまた意外」
「そう?上着、これにかけて」
恒からハンガーを渡され、悠はジャケットを脱いだ。その時、恒は静かに驚いた。悠が着ているニットの背中の下半分は肌が少し見えるようにアレンジされていた。恒は驚いていることを悠に知られないように平静を装う。
「この間、実家から小学校の卒業アルバムを持ってきた」
「うわー、懐かしい!」
学校行事の写真を見て、二人はその時のエピソードを話していく。
「卒業式が終わった後、私すごく泣いてた。教室に戻る途中で、泣きながら階段を登っていた時に『大丈夫?』って声をかけてくれたのは恒だった?私俯いていたから」
「うん。俺も覚えている」
「泣いてて返事できなかったけど、嬉しかったんだよね」
悠は恒に微笑む。
「悠」
恒は初めて悠の名前を呼んだ。
「昔、俺は悠が好きだった。だけど小学生だった俺は何も出来なかった。この前再会した時、チャンスだと思っていきなり飲みに誘った。それから悠と話すたびに、『今も好きだな』って思う」
恒は緊張しながら話した。
「私も恒が好きだった。今も好き」
悠は真剣な眼差しで伝えた。そして二人は引かれ合うように顔を近づけ、触れるだけのキスをした。
「俺と付き合ってくれるか」
「うん。よろしくね」
その後もお互いを確かめ合うように何度もキスを交わしていく。するといきなり、恒は両手で悠の両肩を掴んで勢いよく顔を離した。
「どうした?」
「このまま続けたら、我慢できなくなる」
「我慢しなくていいよ」
「えっと、キスじゃなくて、抱きたくなる」
「うん、大丈夫」
悠は恥じらいながら返事をする。
「付き合ってすぐにするのは嫌じゃないのか?」
「知り合ったばかりの関係ならすぐにはしないけど、恒は昔から知っている仲だし、両思いだって分かったから、いいよ」
恒は目を見開いた。そして悠を抱き寄せる。
「飯食って風呂入った後、覚悟しておけ。全く、こんな服を着て」
「意識してくれるかなって思って着たのはある」
その後、二人で料理を作った頃には緊張が解れ、食事を楽しんだ。そして恒の宣言通り、交互に入浴した後はお互いを知るようにゆっくり触れ合い、一つになった。
思いの外 夐假 @kyoka247
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