おまけ 出会ってはいけない
俺は雑木林の中を歩いていた。
昼間である。木々が生い茂っているものの、さほど暗くはなく、迷うような場所でもない。
ただ祖父母の家の敷地内であるし(そして絶対に入るなとも言われているし)、私有地であるがゆえに
俺はそんな場所で女性と出会った。
***
下半身が蛇。上半身が人間。彼女はそういう姿をしていた。
「あら、可哀想に。わたしと出会ってしまいましたね」
「でも子供を殺すのは趣味ではありませんし、そうですね、こうしましょう──あの、聞いていますか?」
「ああ」
俺は
「あのですね、ちゃんと聞いてくださいね。わたしのことを忘れると約束してくれるのなら見逃してあげます。約束できないなら殺します」
「忘れるのは無理だな」
「そうなんですか?」
「俺はそのおっぱいを一生忘れない……」
「おっぱいのことは忘れなくてもいいですけど、わたしの顔は忘れてくださいね」
「顔も忘れられないな。だって可愛いし」
「まあ」
女性は驚いた顔をしたあと、「殿方に褒められると嬉しいものですね」と
「じゃあ名前も覚えておいてくれますか? オルパオ・リセテです」
「ああ、分かった」
「良いお返事です。でも困ってしまいますね。忘れてくれないなら、殺すしかない」
「確かにそうだな」
「あのですね、冗談を言っているわけではないのですよ? わたしは本当にあなたを殺します。だからやっぱり忘れてもらわないと困りますね」
「そうか──でも無理だ。俺は君を忘れられない」
「そうなのですか? それは……困りましたね」
「君と結婚したいとさえ思っている」
「あらまあ」
女性は驚いた顔をしたあと、「殿方に求婚させるのは嬉しいものですね」と
「そうか」
断られた──が、簡単に引くわけにはいかない。こんな(おっぱいが)綺麗な女性、この場でお別れするなんて悲しすぎる。
なんとか殺されないで仲良くできないものか。彼女の反応を見るに、案外、まんざらでもないのかもしれない──
あれ?
今、なにが起きた?
「目が覚めましたか? そろそろ──見逃すのも限界です。長く話しすぎましたし、あなたは調子に乗りすぎました。あるいはエッチすぎました」
「あれ、俺の──右手は?」
「そこに落ちていますね」
「ああ、そっか」
俺はそれを左手で拾った。それから、これって……どうすればいいんだっけ?
「接着剤、ある?」
「ありませんし、たぶんそれではくっつきません」
「じゃあどうすれば?」
「どうしようもありません。だって死にますから」
「死ぬ?」
「はい」
「死にたくない」
「もう遅いですよ……」
言われてみると確かに遅いかもしれない。こんな場所で出会った
「くそ、ぜんぶ君のおっぱいのせいだ」
「わたしのせいにしないでください」
「せめて揉ませろ。その柔らかきモノを」
彼女はため息をついてから「サービス対象外ですけど特別です」と言いながら俺の切り落とされた右手を奪い取ると、それを自らのおっぱいに押し当てた。
いや、そっちの手じゃない!
「これで良いですか?」
「良くねえ!」
こうして俺は死んだ。
【終わり。あるいは始まり】
【おっぱい系ホラー短編】こうして俺は死んだ 猫とホウキ @tsu9neko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます