おまけ 出会ってはいけない

 俺は雑木林の中を歩いていた。


 昼間である。木々が生い茂っているものの、さほど暗くはなく、迷うような場所でもない。


 ただ祖父母の家の敷地内であるし(そして絶対に入るなとも言われているし)、私有地であるがゆえに人気ひとけはなく、またいのししやマムシが出るとも聞いていた。


 俺はそんな場所で女性と出会った。



***



 下半身が蛇。上半身が人間。彼女はそういう姿をしていた。


「あら、可哀想に。わたしと出会ってしまいましたね」


 蛇女へびおんなが言う。しかし俺はそれどころではなく──彼女が服を着ていないせいで丸出しになっているおっぱいに視線を釘付けにさせられてしまっていた。


「でも子供を殺すのは趣味ではありませんし、そうですね、こうしましょう──あの、聞いていますか?」


「ああ」


 俺は生返事なまへんじをしてから生唾なまつばを飲み、引き続き生乳なまちちを凝視した。


「あのですね、ちゃんと聞いてくださいね。わたしのことを忘れると約束してくれるのなら見逃してあげます。約束できないなら殺します」


「忘れるのは無理だな」


「そうなんですか?」


「俺はそのおっぱいを一生忘れない……」


「おっぱいのことは忘れなくてもいいですけど、わたしの顔は忘れてくださいね」


「顔も忘れられないな。だって可愛いし」


「まあ」


 女性は驚いた顔をしたあと、「殿方に褒められると嬉しいものですね」と微笑ほほえんだ。


「じゃあ名前も覚えておいてくれますか? オルパオ・リセテです」


「ああ、分かった」


「良いお返事です。でも困ってしまいますね。忘れてくれないなら、殺すしかない」


「確かにそうだな」


「あのですね、冗談を言っているわけではないのですよ? わたしは本当にあなたを殺します。だからやっぱり忘れてもらわないと困りますね」


「そうか──でも無理だ。俺は君を忘れられない」


「そうなのですか? それは……困りましたね」


「君と結婚したいとさえ思っている」


「あらまあ」


 女性は驚いた顔をしたあと、「殿方に求婚させるのは嬉しいものですね」と微笑ほほえんでから、「」と言って俺の右腕を手刀で切り落とした。


「そうか」


 断られた──が、簡単に引くわけにはいかない。こんな(おっぱいが)綺麗な女性、この場でお別れするなんて悲しすぎる。


 なんとか殺されないで仲良くできないものか。彼女の反応を見るに、案外、まんざらでもないのかもしれない──


 あれ?


 今、なにが起きた?


? そろそろ──見逃すのも限界です。長く話しすぎましたし、あなたは調子に乗りすぎました。あるいはエッチすぎました」


「あれ、俺の──右手は?」


「そこに落ちていますね」


「ああ、そっか」


 俺はを左手で拾った。それから、これって……どうすればいいんだっけ?


「接着剤、ある?」


「ありませんし、たぶんそれではくっつきません」


「じゃあどうすれば?」


「どうしようもありません。だって死にますから」


「死ぬ?」


「はい」


「死にたくない」


「もう遅いですよ……」


 言われてみると確かに遅いかもしれない。こんな場所で出会った蛇女へびおんなとか死亡フラグしかない。どうして俺は逃げなかった?


「くそ、ぜんぶ君のおっぱいのせいだ」


「わたしのせいにしないでください」


「せめて揉ませろ。その柔らかきモノを」


 彼女はため息をついてから「」と言いながら俺のを奪い取ると、それを自らのおっぱいに押し当てた。


 いや、そっちの手じゃない!


「これで良いですか?」


「良くねえ!」


 こうして俺は死んだ。





【終わり。あるいは始まり】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【おっぱい系ホラー短編】こうして俺は死んだ 猫とホウキ @tsu9neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画