第3話 野良犬

-キーンコーン-カーンコーン-


昨日と同じ予鈴の音が、とても遠く聞こえる。

あのあと本家に帰って男について報告したり対処を相談したけど、家のだれも覚えがないらしい。


突然現れて、消えた。「私たち」の前で。

決して誇れるものでもないが、うちは古くから歴史のある「家業」としてやっている。


表にもでないし裏にも知られていない。

それが、なぜ?海外の組織か?


「花音?次、移動教室だよ?」

「うわ」


奏斗の少し高めの声が間近で聞こえてのけぞる。


「あ、ごめんありがとう。」

「大丈夫?寝不足とか?」


まぁそんなとこ、と苦笑いでごまかす。

私が力で勝てないなんてプロの格闘家くらいだと思っていた。標準体型の男、むしろ細身の男と互角になるなんて経験のないことだ。


・・・奏斗も細身で弱そうだなぁ、ちょっとかわいいかも。


-----


・・・あからさまに顔に出てるな。眉間が険しくなってる。移動教室は席の位置が少しちがうから、花音の顔がよく見える。


「はぁ。」


昨日のデート、楽しかったなぁ。

無感情で、洗練された殺し。


花音はどう見てもふつーの女の子だ。それが、なぜああまでなれるのか。知識欲と独占欲を混ぜたような欲情が沸いてくる。


「津川、この問題やってみてくれ。」

「あ、はい。」


黒板に向かうと、ふと視線を感じる。

窓の外、反対側の校舎。若い白髪の男が見えた。


「?」


あんな先生いたっけ。非常勤の人かな?


「正解だ。戻ってよし。」


席に戻りながら花音を見ると、彼女も窓の外を見ていた。


-----


放課後。奏斗が日直だというのでぼーっと玄関でスマホを見ていると、となりに人の気配がした。


「おい男女。」


・・・!(怒)


「だれがよくクソジジィ!」

「うるせー地毛なんだよコレは。」


出そうになった手を抑えて見上げると、案の定、ジジィ・・・幼馴染のハルが突っ立っていた。


子どもの頃からの長めの白髪は、日が当たると光っているようだ。目つきは悪いが整った顔立ちで、ろくな噂がない。女関係で。


「なんかわかった?」

「いや、学校の中にそれらしいのはいねぇな。身長似てるのはいくらでもいるが。」

「だよねぇ。やっぱ外かな。」


昨日の一件で、ハルはお付き兼調査で臨時講師として来てくれている。ありがたいけど・・・。


「ぜんっぜん青春に集中できない〜!!」

「うるせーよ。」


ぱたぱたと足音がして、奏斗が走ってきた。


「お待たせ花音!あれ、取り込み中?」

「ちょっと先生に質問してただけよ。帰ろ。」

「2人とも、気をつけて帰るようにね。」

「はい!先生さようなら。」


ハルに見送られながら、私は奏斗と玄関をでた。満開の桜が青空に映えている。私と反対の世界はあたたかいな。


歩幅に合わせて流れていく街並みには、はしゃぐ子どもたち、足早なサラリーマン、商店街の店先で話しこむ主婦、さまざまな人々であふれている。


・・・私の仕事が、なにかこの世界の役に立っているといいな。


「あのさ、今度いっしょに買い物つきあってほしいんだけど、どうかな?」

「買い物?」

「うん。あの迷路みたいな駅前のショッピング街に行ってみたくて!」

「迷路って!まぁたしかに複雑だけど。いいよ行っても。」

「ありがとう。たのしみだ。」


私たちは週末の予定を決めて、それぞれの部屋に帰宅した。


-----


時は土曜日。AM9:00。


「やばい。なに着ていこう。」


待ち合わせの2時間前。私はクローゼットの前で突っ立っていた。目の前は真っ暗闇、黒色の服で埋めつくされている。


「高校生の私服でオール黒はまずい気がする。」


トントン


「!はーい。」


ガチャ


「おはようお嬢♪」

「ヒナ!朝早くにごめんなさい!」


ショートカットの黒髪に赤のインナーカラーを入れている。爽やかな雰囲気のヒナは、家の中でも数少ない女子だ。

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ゲッカビジン 日々命日 @hibi_meiniti

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