紙飛行機の明日

たま、

好きって、別に恥ずかしいことじゃないよ

教室に、朝陽が真っ直ぐ差し込んでいた。窓際の席に座る亮介は、何かを考え込むように視線を外に投げかけていた。

中学2年の亮介と翼(つばさ)。


今朝はいつもより早かった。

家を出て間も無く二人は偶然に落ち合い一緒に登校した。

家が近所で子供の頃は友達みんなと良く遊んだけれど、中学生になった今は自分のペースで別々に登校するのが普通になっていた。

気持ちに男女の垣根ができてしまった。



「あのさ…亮介くん」


隣の席に座っている翼が戸惑いながら声をかける。特に話す言葉も見つからず手持ち無沙汰でチマチマと折った紙飛行機を手に持っている。

彼女自慢のオリジナル折り。

翼は競技用紙飛行機作りが趣味の父のそばで見よう見真似で紙飛行機を作って育った。


中学に入ってから亮介は様子が変だと翼は思っていた。

明るくて無邪気だった彼が、何かに悩んでいるような顔をすることがある。


「何かあった? 最近、なんか…ぼんやりしてるよ」


翼は勇気を出して問いかける。



亮介は少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに目を伏せ、乾いた笑いを漏らした。


「…そんなことないよ。ただ、考えてただけ。何か、うまく言えないけど」


亮介の声は、かすかに揺らいでいた。翼はそんな彼をじっと見つめる。

彼女は亮介の言葉の裏に隠された思いを感じ取っていた。

自分の心の奥底に、ずっとしまっていた気持ちが、今まさに溢れ出しそうになっている。


(でも、私なんかフツーの地味顔。奥二重。スタイルはメリハリ無いし。声も可愛くない。低い。。紙ヒコーキが好きくらいしかないし。私なんかじゃねぇ...)


なのに口から言葉が離陸してしまった。

「…もしかして、もしかしてだけどさ...好きな人とか?」視線を落し翼がボソッとつぶやいた。



その問いに、亮介は一瞬固まった。心臓が大きく跳ねるのを感じたが、すぐに視線を外し、苦笑いを浮かべる。

「やめよー♪ そんなの。自分らまだガキだし」


けれど、翼はその返事を真に受けることはなかった。

亮介の表情が、どこか寂しそうに見えたからだ。


亮介は小さくため息をついた。

(よく考えてみたら僕って売りが無いよな。顔はフツメンがやっとだし、勉強もフツー。勇気は無いし。僕と付き合ってもメリット無いじゃん。そうだよ、メリットが無い。当たり前の事なのに驚愕の事実だ!)



翼はそんな亮介を見てつられてため息をついた。

そして、ゆっくりと紙飛行機を放り投げた。風に乗って、飛行機はふわりと舞い上がり、窓の外に消えていった。

(あ...しまった。。あとで回収しなきゃ...)



飛び去った紙飛行機の方を見つめる亮介の横顔に翼は思い切って語りかけた。

「ねぇ、亮介くん。好きって、別に恥ずかしいことじゃないよ。だって、好きな人がいると、何もかもがちょっとだけ特別に見えるじゃん。いつもの普通の街の景色が輝いて見えたり、教室なんかも心地よく感じたりさ」


翼の言葉は、まるで自分自身にも言い聞かせているようだった。

彼女は想いを語った。亮介に伝えたい肝心の言葉を飲み込みなが。



亮介は、翼の言葉に触発されたように、しばらく黙ったまま空を見つめた。そして、静かに言葉を紡ぎ出した。


「…そうだなぁ...普通だった景色が輝い見えるのかぁ...そういうの良いよね。僕も素直になれば...」


その瞬間、二人の間にあった何かが少しだけ変わった。瑞々しい感情が朝の教室の空気に漂っていた。

彼らはまだ幼いけれど、確かに心の奥に小さな火が灯っていた。それは、甘く、少しだけ切ない恋の予感。


紙飛行機が風に乗ってどこか遠くへと飛んで行くように、二人も どこか知らない未来へと運ばれて行くのだろう。


(了)

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紙飛行機の明日 たま、 @hantutama

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